不動産投資の最後の「出口」は、物件を売却して売却益を得ることです。しかし、その売却益にかかる税金の計算方法や、売却の際の諸費用について知っておかないと、思わぬ大損をすることがあります。手持ち資金130万円から不動産投資を始め、今では総資産が5億円を超える不動産投資家の長野哲士氏が、著書『不動産投資は5年売却利回り10%がキーワード』(ビジネス教育出版社)より、自身の失敗談にも触れながら解説します。

売却のタイミングは必ず「5年以降」にすること

まず、絶対条件として物件は「5年以降」に売却してください。

私が初めての不動産投資で失敗した、「短期譲渡」と「長期譲渡」の話をします。

これは物件購入・管理運営の際も同じで、そもそも購入の時点で5年以上は持つことを前提にすること、大家業をしている間も5年以上は大事にメンテナンスしていくことを理解しておかなければいけません。

では、なぜ「5年以上」なのか? 税金の額が大きく変わってくるからです。

不動産投資の失敗の多くは税金の制度を知らないことから起こります。

無知によって売却計画を間違えるとトータルでマイナスになる可能性もあるくらい重要なことで、中でも最も気をつけるべきなのが「購入したものを5年以内に売らないこと」なのです。

不動産売却によってキャピタルゲインを得ると翌年に所得税と住民税を払わなくてはいけません。このときにかかる税率が大きく変わる境目があり、それが5年以下(短期譲渡)と5年以上(長期譲渡)なのです。

・短期譲渡:資産の保有期間が5年以下の場合。税率は総額39.63%

・長期譲渡:資産の保有期間が5年超の場合。税率は総額20.315

その差、実に2倍です。

筆者が初めて新築一棟アパートを建設した際、3年後(5年以内)に売却して1,000万円のキャピタルゲインを得られましたが、約400万円の税金を払うことになりました。

しかし、もし、同様の売却条件で5年以上持っていれば税金は約200万円で済んだはずです。約200万円をみすみす損したことになります。

その差額の大きさがわかってもらえると思います。

このことを大前提として理解した上で売却を考えましょう。

不動産情報サイトへ行って自分の所有している物件と同じような物件が売りに出ていないかを調べます。区分所有の場合はインターネットで自分の所有しているアパートを調べ、別の部屋を見るとリアルな数字を出しやすいと思います。

ピッタリ同じような物件が見つからない場合は似たような築年数、似たような広さ、近隣の県(あるいは似たような都市)の自分のものと同じ物件を調べて「大体いくらくらいで売れるのか?」を知るところから始めます。

どうしてもわからない場合でも大丈夫です。そのときは専門家に連絡して査定をお願いすればいいのです。大まかな価格が出るでしょう。

不動産売却時にかかる諸費用にはどのようなものがあるか?

ここで所得税及び住民税も含めて、不動産売却時にはどのような諸費用がかかるのかを見ておきましょう。

【不動産売却時にかかる諸費用】

・仲介手数料3%+6万円

・売買契約書に貼付する印紙代

・抵当権抹消費用

・ローン返済手数料

・登記名義人表示変更登記費用

・賃貸管理解約違約金(サブリース物件含む)

・譲渡所得税・住民税(※先述)

消費税

・預かり敷金

上記のうち、いくつか補足することがあります。なお、各金額は年度によっても変わるので明記できないことをお許しください。

「登記名義人表示変更登記費用」は、もしも購入時と売却時であなたの住所が変わっているときには必要です。そうでないと売却できないのです。

5年以上という括りの中では可能性はあるでしょう。1~3万円ほどかかることがあります。

「賃貸管理解約違約金(サブリース物件含む)」は、管理会社を変更した場合に発生する違約金です。サブリース契約をつけた物件を売却するときにもかかることがあります。

どちらの場合も最初に契約する際に契約書を確認するようにしてください(小さな文字で書いてあることもあります)。

消費税」は個人にはかかりませんが、消費税を払っている個人事業主と法人についてはかかるようです。2023年10月からインボイス制度も始まる予定なので、専門家に確認が必要です。

「預かり敷金」は敷金の考え方に基づきます。そもそも敷金はオーナーの収入ではなく入居者から一時的に預かっているものです。

管理会社を入れている場合は管理会社が預かってくれて退去時に入居者へ精算をしてくれます。売却時には管理会社がそのまま新オーナーへ渡してくれることもありますし、一旦あなた(現オーナー)に返却するパターンもあります。

売却時の手残りは税理士に相談して事前に計算しておくこと

筆者としてはこれらの税金の計算はオーナーが自分でやるのではなく、プロである税理士に話を通して計算してもらうべきだと考えています。

そのような意味で物件を「そろそろ売却したい」と思ったら、まず税理士に相談しましょう。今すぐ売っても損をしないか、ローンの残債を加味してどうすべきかを見極めて指導してくれます。

不動産売却の際の「お金の計算」が複雑になるワケ

不動産売却の際のお金の計算は複雑です。

冒頭で「物件を売却するのは5年以降」とお伝えしましたが、所得税及び住民税以外にもかかる経費は存在します。さらに譲渡所得金額(不動産を売却したことによって生じた所得額)は次の式で計算されます。

【譲渡所得金額の計算式】

収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額

※ 特別控除額が適応されることもあるが少数。

「収入金額」とは土地や建物を売ったことで買い手から受け取る金銭の額です。

「譲渡費用」とは仲介手数料や印紙代など売却するときにかかった費用です。

「所得費」とは単に物件を購入した金額ではなく、購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた額です。これは注意が必要です。

これらのことを税金のプロではないオーナーが自分の頭の中だけで計算すると危険です。

税理士に相談してしっかりと把握しておいてください。

これは新築一棟の場合でも同じです。税理士であれば土地と建物の評価でその物件がいくらで売れるかはわかります。税理士の「いいんじゃないですか」「まだやめたほうがいいですよ」は信じられるので参考にしてください。

ただし、それができるのもその税理士が不動産に強いからです。だからこそ、不動産に強い税理士と仲良くなっておくことが重要です。

長野 哲士

合同会社グロウ

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)