舞台は渋谷、旬の女優たちが顔を揃えた、カラフルでオシャレな映画 『アイスクリームフィーバー』が7月14日(金) から公開される。芥川賞作家・川上未映子の短編小説『アイスクリーム熱』を原案にした、世代の異なる女性たちの想いが行き交う“ラブストーリー“。H&M桑田佳祐のCDデザインなどを幅広く手掛けるアートディレクター・千原徹也、満を持しての映画監督デビュー作である。

『アイスクリームフィーバー』

昨年、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(1994) が4Kレストア版で復活ロードショーされ、大ヒットした。中国に返還される前の香港を舞台にしたスタイリッシュな青春群像ドラマ。

千原徹也監督の映画的原点ともいえるのがこの作品だ。「『恋する惑星』などを観るために、映画館に足を運んでいた90年代のワクワク感を『アイスクリームフィーバー』の中に詰め込みたいと考えた。映像の撮り方や空気感は新しい世代に“面白い”という感覚を持ってもらえるんじゃないかなと感じています。それを受けて、『アイスクリームフィーバー』は自分なりに解釈した新たな『恋する惑星』といえるかもしれません」と語る。

こんなストーリーだ。

美大を卒業しデザイン会社に就職するがうまくいかず、今は「SHIBUYA MILLION ICE CREAM」 というアイスクリームショップでバイトをしている菜摘(吉岡里帆)は、ときどき店にくるミステリアスな客・佐保(モトーラ世理奈)に心惹かれている。

アイスクリームショップの近所で暮らす独身キャリアウーマンの優(松本まりか)の家に、疎遠になっていた姉(安達祐実)の15歳になる娘・美和(南琴奈)が夏休みの間だけと田舎から転がり込んでくる。数年前に出ていった父の行方を探すのが目的という。

菜摘が働くショップと優の住むマンション、小さな公園、あまり車が通らない小道、そんな、例えば女性雑誌の撮影に使われてもおかしくない風景の中で、ふたつのストーリー、小さなアクシデント、いくつもの思いが交じりあって展開する群像劇

演じる役者たちは、いまを感じさせるちょっと気になる顔ぶれが並ぶ。

吉岡里帆は昨年『ハケンアニメ』で各映画賞の女優賞を獲得し、今年は本作をはじめ話題作出演が続く。ファッションモデルでもあるモトーラ世理奈は諏訪敦彦監督の『風の電話』で新人女優賞に輝いた独特の存在感がある女優だ。吉岡が働くショップのバイト仲間役・詩羽(水曜日のカンパネラのボーカル)はこの作品が映画初出演、初演技となる。

松本まりかは、大河ドラマ『どうする家康』に忍者「大鼠」役で出演中。山田孝之演じる服部半蔵をあっさりふった最近のエピソードはSNSでも話題になった。その姪役・南琴奈は、是枝裕和監督のNETFLIXドラマ『舞妓さんちのまかないさん』でドラマデビュー、今泉力哉監督の『ちひろさん』が映画初出演、という期待の新人だ。

他にも、お笑いコンビ・ジャルジャルの後藤淳平、ロックバンド・マカロニえんぴつのはっとり、元水曜日のカンパネラのコムアイ、主題歌も歌っている吉澤嘉代子と、ハッシュタグをつけたくなる多彩な出演者たち。

メインのキャストも含め、みな自然体、カジュアルな演技が魅力だ。キャスティングのほとんどは千原徹也監督の人脈によるもの。スターバックス等の企業ブランディング、CDジャケット、ドラマやCM制作を手掛けるなど、様々なフィールドで活躍するアートディレクターだからこそできること。「映画制作をデザインする」がコンセプトという。

映画やドラマでは、小道具にスポンサーの商品を使う「プロダクトプレイスメント」という手法があるが、この作品はそれをさらに進めた映画作りが特徴。ウンナナクール、猿田彦珈琲、アダストリア、PARCOといったブランドとの連動キャンペーン企画を同時展開させている。

猿田彦珈琲は恵比寿にある店舗を撮影に使用。変わったところでは、優が癒しの場として通う「銭湯」(片桐はいりが女主人役)の撮影で使った高円寺の銭湯「小杉湯」では作品をモチーフにした期間限定の「イベント風呂」なんてのも行われる。

タイトルのユニークな英文字も監督自ら「アイスククリームフィーバーFONT」という書体を作り、映画ポスターだけでなく、タイアップ企画までいたるところで使用し、同じビジュアル感覚を醸し出すというやり方だ。

センスの良さは映像だけではない。アイスクリームでふたつのフレーバーが混ざり合うようなドラマ構成も、面白いアイデアだ。川上未映子の短編小説を清水匡が監督の発想も取り込み、脚本化した。

1997年にリリースされた小沢健二の「春にして君を想う」をエンディング曲に選んだのは、監督のいう「90年代のワクワク感を詰め込みたい」という考えから。

柔らかで、儚さもある、冷たくて、甘いアイスクリームのようなこの映画、”いま”に敏感な若者だけでなく、90年代、ミニシアターのファンだったおとなも、きっと楽しめる。

水曜日のカンパネラの詩羽が、好奇心いっぱいにきょろきょろしながら大都会を泳いでいく『恋する惑星』のフェイ・ウォンとダブってわたしにはみえた。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

笠井信輔(フリーアナウンサー)
「……すべてのパートがおしゃれで高感度。サブカルのお手本のような楽しさに満ち溢れている……」

笠井信輔さんの水先案内をもっと見る

(C)2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会

『アイスクリームフィーバー』