職務質問」は警察官にとって最大の武器といわれる。発生した犯罪をどれだけ完璧に解明しても、声かけ一つで「犯罪を未然に防ぐ」という成果には及ばないためだ。

警察は長年職務質問の技能伝承に力を入れている。警察庁からの通達のもと、各都道府県で組織的な訓練を継続的に実施。「適正な職質」の実現に努めているとされる。

その背景には裁判で「違法な職質」としばしば認定されてきた過去がある。これまでどんな職質が裁判所で違法とされてきたのか。判例で振り返ってみたい。

●6時間半の職質「移動の自由を長時間奪った」

職務質問は果たしてどれほどの時間継続していいのか。警職法は「停止させて質問することができる」とするだけで、時間については何も定めていない。

覚せい剤使用の容疑があるドライバーからエンジンキーを取り上げて、任意同行を求め約6時間半以上その場に留まらせた事例(最高裁平成6年9月16日決定)では、「任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法」とした。職質当初は適法だったが、移動の自由を長時間奪ったためだ。

適法に職質を開始したのち、覚せい剤事犯の嫌疑が強まる中、警察官がエンジンキーを抜き取った約2時間後に対象者が明確に職質継続を拒否した事例では(東京高裁平成23年 3月17日判決)、その後さらに約1時間半職質を実施。計約3時間半以上現場にとどまらせたことは違法と判断している。

●所持品検査で中身取り出しは基本「アウト」

職質時におこなわれる「所持品検査」も、違法かどうかがよく争われる。

所持品検査を直接定めた法律は存在しないものの、判例上、「職質に付随」しておこなうものとして、対象者の承諾がない場合でも一定の限度で認められている。

一般的に服の上から触る程度は許容されやすいが、バッグやポケットの中に手を入れて内容物を取り出すところまでは認められない場合が多い。

対象者が薬物中毒者ではないかと疑い警察官2人が職務質問をした事例(最高裁昭和53年9月7日判決)でも、上着とズボンのポケットを外から触った段階までは適法とした。

しかし、承諾なくポケットに手を入れて中の物を取り出した行為は、覚せい剤の使用ないし所持の容疑がかなり濃厚である状況とはいえ、「プライバシー侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において(強制捜査である)捜索に類するものである」で、許容限度を超えているとしている。

信号が青になったのに発進しない車を不審に思った警察官が、追跡の上で停車させて職務質問した事例(最高裁平成7年5月30日決定)では、話している中で免許不携帯や覚せい剤の前歴が複数あることなどが判明。

車内に白い粉状の物があるなどの報告もあったため、警察官4人で車内を調べたが、「所持品検査として許容される限度を超えたもの」で、対象者の承諾がなかったのだから「違法であることは否定し難い」とした。

警察官の職務執行に対する「無理解の深刻さ」を指摘し、無罪となったケースもある。

薬物事犯の嫌疑の対象者が、猛烈に抵抗していたにもかかわらず、車内のウエットティッシュの箱を開けて中身を取り出した事例(東京地裁平成26年8月1日判決)だ。

別の警察官が対象者を押さえ込んでいる間に、ティッシュ片を広げることまでしたことを違法と認定。若干の説得しかしていないのに、捜索に至る行為を強制的に実現したことは、「許される限度を大きく超えており、明らかに違法」と判断し、発見された薬物の証拠能力も否定した。

●「重大な違法でなければセーフ」という判例

なお、最後に紹介した無罪事例を除き、職質が違法と判断されても、所持品検査で発見された物やその後に採尿されたものなどついて、収集手続きに「重大な違法はない」として証拠能力を認めている。

これは判例上、たとえ職質や捜査手続きが違法であっても、「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」でなければ、証拠として排除しないというスタンスをとっているためだ。

「6時間半継続」「勝手にガサゴソ」おどろきの「職務質問」NG例…無罪につながったケースも