知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「太陽光発電」。最近、高性能な住まいとセットに語られることが多くなっていますが、実際はどうなのでしょうか。今回は、なぜ国や自治体が普及促進を図っているのか、また注目を浴びている東京都太陽光発電の設置義務化の制度について解説します。

国や自治体が太陽光発電の普及促進に力を入れているワケ

太陽光パネルの設置は売電価格が下落しているので、ペイしないと誤解されがちですが、そんなことはなく、いまだに高い収益性を望めます。(関連記事:『売電価格下落で「太陽光発電にうまみなし」という大きな誤解』)。一方、国は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)(図表1)という住宅の省エネ性能を高め、太陽光発電を設置することで、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする省エネ住宅の普及促進を図っています。縦割り行政の我が国においてはとても珍しいことですが、国土交通省経済産業省環境省の三省が連携しながら、それぞれZEHへの補助制度等、普及促進策を展開しています。逆に言えば、国にとって住宅の省エネ性能の向上は、縦割りの壁を乗り越えても取り組むべき重要な施策なのだと言えるでしょう。

また、国の委員会では、最終的には見送られましたが、新築住宅への太陽光発電の設置義務化についても議論されたりしています。さらに、様々な自治体が太陽光発電の導入への補助や新築住宅への設置の義務化等の施策を推し進めています。

ではなぜ、国や自治体は、住宅への太陽光発電設置の普及・促進に力をいれているのでしょうか?

理由は、大きく分けると4つあるようです。第一に、エネルギーの安定供給と自立です。日本はエネルギーのほとんどを輸入に頼っています。特に石油や天然ガスの輸入依存度が高く、国内のエネルギー供給が脆弱になっています。国際情勢や地域の紛争などの要因によってエネルギーの安定供給が脅かされる可能性があり、また原子力発電所の事故や石油価格の変動などの要因によってエネルギーの供給が不安定になる可能性があります。太陽光発電は再生可能エネルギーであり、国内でのエネルギーの自給自足を図るために重要な役割を果たします。

第二に、貿易収支の改善です。日本の貿易収支は赤字傾向が続いており、2022年度は20兆円もの巨額の赤字(図表2)に陥っています。その要因の一つが、原油価格等の高騰です。日本は、エネルギー資源をほとんど輸入に頼っており、化石燃料の輸入に多額の費用がかかっています。つまり、日本国民が稼いだ巨額の資金が中東等の産油国に流出しているのです。再生可能エネルギーの比率を高めエネルギー自給率を高めることは、貿易収支の改善に貢献するのです。

第三に、災害対策が挙げられます。日本は地震や台風などの自然災害が頻発する国であり、従来のエネルギーインフラはこれらの災害に弱いという課題があります。太陽光発電は自立分散型の電源であり、地域ごとに独立して機能するため、災害時にも安定した電力供給が可能になります。

最大の理由は、地球温暖化対策

そして、第四の理由が温室効果ガス削減です。これが、国が普及促進を図る最大の理由です。菅前首相は、2021年に、30年度の温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減すると発表し、これが国際公約になっています。非常に達成の厳しい目標ではあるのですが、国際公約である以上、達成しなければならない目標です。

日本人の多くは、日本は省エネへの取り組みに前向きに取り組んであり、省エネの最先端を走っている国だと思っているようです。ところが、国際的には、我が国の取り組みはとても甘いと批判を浴びています。諸外国からは、日本は地球温暖化対策等に非常にネガティブな国だとみられているのです。

日本は、2022年のCOP27で「化石賞」を受賞しています。化石賞とは、地球温暖化対策に消極的な国に与えられる賞で、ある意味、皮肉めいた賞なのですが、なんとCOP26とCOP25に続き、3回連続での受賞となっています。少なくとも、日本が地球温暖化対策に対して、国際的に非常に厳しい目で見られているという事実は認識しておく必要があります。

住宅はこれから非常に厳しい省CO2化が求められる

さて、日本全体で30年度の温室効果ガスの排出量を46%削減しなくてはならないわけですが、工場等の産業部門、運送等の運輸部門等、部門ごとに削減目標が【図表3】のように設定されています。

家庭部門(つまり住宅です)は、なんと66%削減と、他の部門に比べて突出して高い削減目標になっています。これは、国は他の部門に比べて、住宅は省エネ・省CO2の余地が大きいと見ているということです。実際に、住宅の省エネ性能向上や省CO2化の推進に向けて、法制度の改正や省エネ改修工事等への手厚い補助制度が次々に打ち出されています。

とはいえ、66%削減ということは、今までの省エネ推進の取り組みの延長線上では達成不可能な目標です。イメージしにくいかもしれませんが、あと7年間で、皆さんが自宅で使う電気やガス等の消費量を1/3にしなさいと言われているということです。

現実的には達成は非常に厳しい目標であり、少なくとも住宅の断熱性能の向上や高効率設備機器の導入促進だけで達成できるレベルのものではありません。そのため、どうしても太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーの導入促進が必須になるのです。

自治体が先行する住宅の省CO2化への取り組み

国は、住宅の省エネ・省CO2の促進に向けて、法制度等を次々と改正して、推進を図っています。一部の自治体は、それ以上に熱心に取り組んでいます。例えば鳥取県は、「とっとり健康省エネ住宅”『NE-ST』」(図表4)という独自の高気密・高断熱の基準を定め、補助金制度も整え、住宅の高性能化を推進しています。東京都も、「東京ゼロエミ住宅」という高断熱の省エネ住宅の独自基準を定め、助成金を出しています。

東京都の場合、それ以上に注目を集めており、賛否両論があるのが、新築住宅への太陽光発電の設置義務化です。ただ、反対意見については、誤解も多いようなので、この制度について少し丁寧に説明していきましょう。

東京都の設置義務の対象は大手住宅事業者

この制度は、都内の年間供給床面積が2万m2以上の住宅事業者を対象に都内で供給する住宅に一定の割合以上で太陽光パネルの設置を義務付けるものです。年間2万m2以上を供給している住宅事業者というのは、大手ハウスメーカーや建売住宅事業者のうち、概ね50社程度が対象になる見込みということです。

義務対象は、施主(消費者)ではなく、あくまでも住宅事業者であり、新築のみが対象で、既存住宅は対象外です。すでに条例は可決されており、周知期間を経て、令和7年4月からこの制度は施行されることになります。

対象事業者に対しては、再エネ設置基準を上回る太陽光パネルの設置が求められます。再エネ設置基準とは、以下の数式で求められるものです。

再エネ設置基準=①設置可能棟数×②算定基準率×③棟当たり基準量

①設置可能棟数は、太陽光発電の設置が不可能な狭小住宅等は算定から除外されます。②算定基準率は、【図表5】に示すように、都心部の日照条件が不利な地域の基準率は低く設定されています。③棟当たり基準量は、2kWと、一般的に戸建住宅に設置される容量に比べるとかなり少ない設定になっています。

つまり、対象事業者が新築する全棟への太陽光発電の設置を義務づけるものではなく、日照等の条件が整っている住宅に対して、一定割合以上での設置を義務付ける制度です。

※制度の詳細については、東京都のホームページから確認ください。

注文住宅の施主は住宅事業者からの説明に基づき判断する仕組み

この制度では、住宅事業者に対して、注文住宅の施主等に、断熱・省エネ、再エネ等の環境性能に関する説明を行うことが求めています。そして施主は、住宅事業者からの説明や東京都の配慮指針に基づき、太陽光パネルの設置について判断する仕組みです。つまり、施主は設置しないという選択をすることも可能になっています。

誤解の多い東京都の設置義務制度

この制度については、高性能な住宅を建てている意識の高い工務店等の住宅事業者はおおむねとても好意的に評価しているようです。一方で、一般の方や有名なYouTuberからは批判的なコメントが寄せられており、賛否が極端に分かれています。ただ、批判的なコメントには、誤解に基づいている思われるものがかなり散見されます。

たとえば、「東京のような日照条件の悪い密集地において、太陽光パネルの設置を義務化するのは愚策」という意見がとても多く見られます。これについては、上述のとおり、日照条件の悪い住宅にも設置を義務付けるものではなく、都が定める「再エネ設置基準」は、日照条件の良い住宅のみへの設置で、十分に達成できるものです。日照条件が悪く経済合理性の成り立たない立地にまで設置を義務づける制度ではありません。

また、「結局は消費者に負担を押し付けるもので、金銭的なメリットなどない」という意見も多くなっています。これについては、東京都は、「例えば、4kWの太陽光パネルを設置した場合、初期費用98万円が10年(現行の補助金を活用した場合6年)程度で回収可能です。また、30年間の支出と収入を比較すると、最大159万円のメリットを得られる計算となっている。」としています。

この経済的なメリットの試算については、福岡市に本社置く高性能住宅の有名工務店で、同社が施工する住宅のほとんどには太陽光パネルが搭載されており、太陽光発電に知見が豊富なエコワークス株式会社の小山社長に確認したところ、

経済産業省のZEH補助事業で建てられた住宅の太陽光発電の実際の発電実績を踏まえると、東京都の試算はかなり安全側で試算されていて、実際の経済的なメリットはもっと大きくなるのではないだろうか」

との見解でした。

さらに東京都は、今後補助制度の拡充を図り、太陽光パネルの更なる設置を後押ししていくことや、初期の費用負担が厳しい方には、リース等を利用して初期費用をゼロにする方法等も勧めています。

初期費用がゼロの制度の例

東京都が選択肢として勧めている初期費用がゼロで太陽光パネルを設置できるサービスはいくつかあります。この中で、LIXIL東京電力エナジーパートナーの合弁会社であるLIXIL TEPCOスマートパートナーズ(以下LTSP社)が提供している「建て得」というサービスについて簡単に紹介します。

このサービスは、設置する太陽光の容量によって条件が異なりますが、9kw以上(積雪~50㎝の地域)の場合は、太陽光発電に係る製品代も工事費も実質0円になります(9kw未満の場合の製品代は実質0円で工事費は施主負担)。

発電した電気の自家消費利用は、施主が使い放題です。余剰電力の売電収入はLTSP側に入り、この収入を原資に同社は太陽光発電システム設置に係る費用の割賦の支払いを信販会社に行います。発電量が想定よりも少ない場合や施主の自家消費が想定以上に多い場合も施主に負担が求められることはありません。ただし蓄電池やおひさまエコキュート等自家消費率を高める設備機器の設置には制限があり、新築住宅には一定のLIXIL製品の採用が求められる等の条件があります。

またこの派生サービスに「建て得でんち」というものがあります。これは、指定の蓄電池の設置費用は施主負担ですが、蓄電池による自家消費は認められます。

面白いのは、これらのサービスで設置する設備の所有者は施主であるということです。つまり、補助制度がある場合は、施主は補助制度を活用することができるのです。

ちなみに東京都は、今年度は太陽光パネルに対しては10万円/kW、さらに蓄電池の設置に対して補助率3/4の非常に手厚い補助制度を用意しています。現時点ではまだ補助の枠は残っているそうです(2023年6月21日時点)。

初期費用がゼロの仕組みと、これらの補助制度を組み合わせて活用すれば、とてもお得省エネ性能の高い家を実現することが可能です。

他自治体や他国の動き

太陽光パネルの設置義務化は、諸外国においても制度化(図表6)が進んでいます。たとえば、米国では、2019年にニューヨーク市で新築及び大規模屋根修繕する建築物への太陽光発電、または緑化を義務化、2020年以降は、カリフォルニア州でも州内すべての新築住宅に太陽光発電設置の義務化を行っています。

ドイツでは、州政府において太陽光発電義務化条例を制定しているほか、ベルリン州では、2023年1月1日から、住宅への太陽光発電の設置義務化が開始されています。

また、国内自治体においては、2022年から京都府・市で一定規模以上の新築建物等を対象に設置の義務化を行っています。また、2023年から群馬県で設置の義務化が開始されるほか、川崎市でも2025年から新築建物への設置を義務化する制度が開始される予定です。

なぜか根強い太陽光発電に対する誤解

上述の東京都の制度に対してだけでなく、太陽光発電自体に対して、否定的な意見が非常に根強くあるようです。ただ、これらの否定的な意見も誤解に基づくものが少なくありません。これらの誤解に対して、東京都ホームページで説明しています。

また、東京大学工学系研究科准教授の前真之氏が、自ら各方面の専門家にヒアリングを行った結果をまとめて、「太陽光ファクトチェック」で公表しています。

これらについては、別途詳しく解説しますが、事実に基づかない噂に惑わされずに、これらの客観的な情報をもとに判断することが大切です。

写真提供:一級建築士事務所MUK 写真:西 恭利