開館10周年となる市原湖畔美術館(千葉県市原市)で、展覧会『湖の秘密-川は湖になった』が7月15日(土)〜9月24日(日)に開催される。同館に隣接する高滝湖にまつわる歴史や文化を8人のアーティストの視点から掘り下げるものだ。

美術館観賞後の散策も楽しめる高滝湖は、市原市を南北に縦断し東京湾に注ぎ込む養老川に1990年に造られた高滝ダムの人造湖だ。氾濫を起こしては人々を苦しめた養老川の本格的改修と、市原市北部の工業化、人口増に伴う水源開発を目的として約20年かけて建設され、それと引き換えに110戸の村が湖の底に沈んだのだった。

湖に沈むまでの村の日々を撮影していたのが、この村で生まれ育ち、独学で写真を学んだ加藤清市だ。ダムができて新しい生活が始まる希望と、古を失う寂たる気持ちとが混在するなかで、時間を作っては撮影して歩いたという。古い家や土地、人々をいとおしく思いながら写した500点を超える写真から30余点を展示する。

また、風景とその場所性をテーマとして奥能登国際芸術祭や瀬戸内国際芸術祭でも真摯に制作してきた南条嘉毅は、地域の人々への取材や郷土資料をベースとして、川が運び湖に堆積する土壌「ネト」、地域で収集した民具、音、映像を用いて、湖の底に消えた風景をインスタレーションとして蘇らせる。

ニューヨークを拠点に活躍中の大岩オスカールは、養老渓谷から小湊鉄道のどかに走る住宅地を経て、コンビナートが林立する工業地帯へと流れる養老川の変化する風景を、虚実入り混ぜながら、全幅12m、高さ3mのダイナミックな壁画を描く。

日用品の布から糸を引き出して作る繊細なインスタレーションなどで知られる岩崎貴宏は、「房総」「千(の)葉」という名の由来でもある菜の花などの植物、農産物、水車や橋、鉄塔など、河口から源流へと遡る景観を表現する。

千葉県在住の彫刻家、尾崎悟と松隈健太朗は初のコラボレーションで、養老渓谷や森、湖の底に棲む生きものたちの世界を創出する。なお、今年2月に癌で亡くなった松隈の遺作となる。

展示室だけでなく美術館全体に繰り広げられる展覧会。地形、風景や暮らしの記憶と未来に思いを寄せながら巡りたい。

出展作家:岩崎貴宏/大岩オスカール/尾崎悟/加藤清市/菊地良太/南条嘉毅/松隈健太朗/椋本真理子

<開催情報>
市原湖畔美術館開館10周年記念展『湖の秘密 —川は湖になった』

会期:2023年7月15日(土)~9月24日(日)
会場:市原湖畔美術館
時間:10:00~17:00、土・祝前日は9:30~19:00、日祝は9:30~18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合開館翌平日休)
料金:一般1,000円、大高・65歳以上800円
公式サイト:
https://lsm-ichihara.jp/exhibition/mizuumi/

加藤清市《水没した村の記憶》