米ブルームバーグ通信は6月29日、米連邦取引委員会(FTC)が近く米アマゾン・ドット・コムを反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴する見通しだと報じたFTCはこれまでアマゾンに対して3件の訴訟を提起してきたが、4件目はアマゾンの主力事業であるオンラインマーケットプレイスを対象としており、包括的な反トラスト法訴訟になるという。

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 ブルームバーグが入手したという文書と3人の関係者の話によると、FTCは今後数週間以内に訴訟を提起する計画だ。外部の出品者がアマゾンの電子商取引(EC)サイトで商品を販売するマーケットプレイスにおいて、アマゾンは自社の物流サービスを利用する出品者を、利用しない出品者と比べ不当に優遇したとする主張内容になるという。

出品者にとって特権の「Buy Box」を問題視

 FTCは、アマゾンが同社の物流サービスを利用しない出品者を不利に扱っていることを示す証拠を集めており、「ショッピングカートボックス(Buy Box)」と呼ばれる「特権」の付与選定基準を調査している。具体的には次の通りだ。

 アマゾンでは、マーケットプレイスの商品詳細ページは1商品に付き1ページのみ設けられる。同じ商品の出品者が複数ある場合、ページ内の「他の出品者」というリンクをクリックすると、すべての出品者の商品が表示でき、価格などを比較できる。消費者は気に入った出品者の横にある「カートに追加する」ボタンを押すことで購入手続きを進められる。

 しかし、多くの消費者は複数の出品者を表示できるこの機能に気付かず、商品詳細ページ右に大きく表示される「今すぐ買う」や「カートに入れる」を押して購入する。つまり、出品者は商品詳細ページにあるこれらのボタンを獲得できるか否かで売り上げが大きく変わる。これが特権と呼ばれるショッピングカートボックス(Buy Box)の仕組みだ。

 FTCは、すべての出品者が欲しがるこの特権を、アマゾンが倉庫保管や配送など自社物流サービスを利用する業者に優先的に提供していないかどうかを調べている。

マーケットプレイス巡りEUと和解

 アマゾンのマーケットプレイスを巡っては、欧州連合(EU)の欧州委員会もEU競争法(独占禁止法)違反の疑いで調査し、20年11月に暫定的な見解を示す異議告知書を送付した。

 これに対し、アマゾンは、(1)商品詳細ページに2つ目の購入ボタンを設置する、(2)有料会員プログラム「Prime(プライム)」配送対象商品を平等に扱う、(3)出品者の非公開データを直販商品の開発・販売に利用しない、の3つの譲歩案を示し、22年12月にEUと和解。年間売上高の10%という巨額制裁金を免れたという経緯がある。

 アマゾンは米国での独禁法調査についても同様の譲歩案を示す可能性がある。だが、ブルームバーグによれば、アマゾンなどに対する米テクノロジー大手の商慣行に批判的なFTCのリナ・カーン委員長は、そのような妥協に反対の意向を示している。22年に同氏は、上院委員会で「FTCはそのような是正措置には強く反対する」と述べていたという。

 FTCでは21年6月に就任したカーン委員長の下、米テクノロジー大手への監視を強めている。カーン氏は米エール大法科大学院の学生だった17年にアマゾンによる競争阻害を新たな枠組みで判断すべきと提言する論文「アマゾンの反トラスト・パラドックス」を発表。独占状態を抑制できない現行法の問題点を指摘して注目を浴びた。

 同氏は反トラスト法・競争法の専門家。米議会下院司法委員会反トラスト小委員会の法律顧問を務めた経歴も持つ。同小委員会は20年10月に米グーグルアマゾン、米フェイスブック(現メタ)、米アップルを対象にした反トラスト法調査報告書をまとめたが、カーン氏はこれに携わった。

FTC、すでに3件のアマゾン訴訟

 前述した通り、この反トラスト法訴訟が提起されれば、FTCにとってアマゾンを相手取った4件目の訴訟となる。FTCは23年6月、アマゾンが顧客の同意なしにPrimeに加入させ、かつ解約を妨害していたとして米ワシントン州シアトルの連邦地裁に提訴した。

 23年5月には、音声アシススタント「Alexa(アレクサ)」が子供の音声データを不正に収集していたとして、また、セキュリティーカメラ付きドアチャイム「Ring Video Doorbell」の担当従業員に顧客の監視を許していたとして、2件の訴訟を提起した。アマゾンはこれらに異議を唱えたが、同月、計3080万ドル(約45億円)を支払うことに同意した。

 FTCはこれとは別に、家庭用ロボット掃除機「Roomba(ルンバ)」を手がける米アイロボットの、アマゾンによる16億5000万ドル(約2400億円)の買収計画について調査している。

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(写真:ロイター/アフロ)