LGBT理解増進法、改正入管法、防衛財源確保法など重要法案が成立したけれど......
LGBT理解増進法、改正入管法、防衛財源確保法など重要法案が成立したけれど......

今国会で成立した法案は、なんと72件もあったという! たくさんありすぎて全部を把握できないので、3人の専門家にそれぞれの立場、見方からベスト3とワースト3を選んでもらった!

【表】「2023年上半期成立法案大賞」ノミネート72作品

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■成立法案の約9割は内閣が提出している!

6月21日に通常国会が閉会した。そして、150日間にわたる今国会で成立した法案は72件もある。

ニュースなどで報道される重要法案は聞き覚えがあるだろうが、それ以外にどんな法律が成立したのか、多くの人は知らないだろう。

そこで週プレは、全72件を調べ、元参議院議員の舛添要一氏、岩手県立大学総合政策学部講師の杉谷和哉(すぎたに・かずや)氏、行政書士で政治ジャーナリストの藤本順一氏の3人に、それぞれの立場や見方から選ぶ今国会成立法案のベスト3とワースト3を聞いた。

まず、舛添氏のベスト3を教えてもらう前に、法案はどのように提出されるのかを聞いた。

「法案には内閣が提出する法案と、国会議員が提出する法案の2種類があります。そして、もし100件の成立法案があれば、そのうちの90件は内閣提出の法案と思っていいでしょう。では、なぜ内閣提出法案の成立が多いかというと、それは基本的に官僚が法案を作っているからです。

例えば経済産業省の官僚が、原子力発電所の運転期間を40年から60年に延ばしたいと考えた場合、大臣などに『ウクライナみたいな問題が起こる可能性もあるので、60年まで延長できるようにしたほうがいいのでは』とアイデアを持ってくる。

すると『そりゃ、そうだ。じゃあ、君、ちょっと法案を考えろ』ということになる。そして、法案を作ったら『先日の法案を作りましたがいかがでしょうか』『ここはちょっと変えたほうがいいな』みたいなやりとりがあって、大臣からOKをもらった法案ができるわけです。

すると今度は、自民党の政務調査会の中には各部会があって、原発ならば経済産業部会に経産省の官僚が提出します。そこは専門家の国会議員がいるので何度か議論を重ねて、部会長が『これでよろしいですね』ということでOKになる。部会でOKになったものは、その後、政務調査会、総務会でもOKになる。

そうして自民党としてOKだという法案になって、初めて国会に提出されるわけです。そのときにはすでに与党はみんな賛成なわけですから、大臣が一応、野党からの質問を受けますが、採決をすれば賛成多数でその法案は成立するという流れです。

ただ、マイナンバー法案のように国会で野党が追及して、マスコミが『野党のほうが正しい』となると『この法案だとちょっと無理だ』ということで書き直しをしたりします。

議員立法は、例えば『C型肝炎で困っている患者を救済するための法律を作ろう』というような場合に、与野党の議員にかかわらず提出して、『この法律はいかがでしょう』『賛成です』と与野党の対立がなく成立するものが多いんです」

では、そのように作られた今国会の法律で、舛添氏がベスト1に選んだものは?

『フリーランス新法』(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)です。現在、フリーランスで働く人が増えていますが、これまで契約などがいいかげんでした。そこで、契約条件を書面で提出することや、報酬を60日以内に支払うなど、フリーランスの人の労働環境を改善しようという法律です」

2位は?

『GX電源法』(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)。ポイントは、原発の運転期間は最長60年とされていたけれども、停止していた10年くらいの期間も含められると厳しいので、そこを含めないようにしようということ。私はそれでいいと思います」

3位は?

『防衛装備品生産基盤強化法』防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律)。これは、自衛隊の任務に必要な装備品を国内できちんと作れるようにしようという法律です。これをやっておかないと、海外から輸入できなくなったときに装備品がなくなる可能性があるということですね」

では、逆にワースト1は?

マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律)。これは、デジタル化の遅れに焦った結果、健康保険証を来年の秋に廃止して、『マイナ保険証』に一本化しようというもの。マイナポイントで2兆円ものお金を配っても導入が遅れているので、今度は『アメとムチ』のムチを使って『保険証をなくすぞ』と脅している。こんなバカげた法律がありますか?」

ワースト2位は?

『改正入管法』(出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律)。これは国を開くのか、閉じるのかという問題です。少子化で人口が減っているのだから、人口を保つには国を開いて移民を受け入れるしか方法がありません。でも、これは逆に閉じようとしているわけです」

ワースト3位は?

LGBT理解増進法』(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)。これは党内保守派の意見を受け入れた妥協の産物ですよ。こんないいかげんなものを作っていいのか。岸田文雄首相が広島サミットで国際的な評価を得るために焦って通した法律です」

■報道されていない法律はたくさんある!

次に公共政策に詳しい杉谷氏にベスト3から教えてもらおう。

1位は?

『改正空家対策法』(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律)。今、空家問題が深刻化しています。空家には不審者がたまったり、ゴミが捨てられたり、倒壊する危険性があったり、悪影響が多いんです。

そこで、この法律では自治体が空家の管理者に対してきちんと管理することを求めたり、有効活用することを推奨している。これまでも空家に対する法律はありましたが、ここまで踏み込んだものはありませんでした。政府が空家対策に本腰を入れたということです」

2位は?

『災害証明法』(地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)。災害対策基本法などを改正する地方分権一括法です。被災した場合、被害認定調査を実施して建物の傾き具合などを調べますが、そのときに住宅の構造などを示す図面が必要でした。

しかし、その図面を入手するには固定資産課税台帳が必要です。ただ、地方税法の問題で秘密に該当するため簡単に見ることができません。それが、この法律ができたことで見ることが可能になり、罹災(りさい)証明書が早く発行できるようになるんです。国民の生活に役立つ良い法律だと思います」

3位は?

『孤独・孤立対策推進法』です。これは理念法というか具体的なことは書いていないんですが『孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会、人と人のつながりが生まれる社会を目指す』ということで、今後、対策をしっかりやっていきますという政府の宣言ともいえます」

では、逆にワースト1は?

「やはり『改正入管法』です。3回目以降の難民認定申請者は強制送還の対象になるということで、これは現在、戦争が起きている中で、日本の難民政策のあり方が問われる問題だと思います。また、入管の施設の中で非人道的なことが行なわれている状況では、もう少し議論をするべきだったと思います」

ワースト2位は?

『GX電源法』です。脱炭素のエネルギーといえば原発しかないので、これは原発推進という法案です。それを地域の再生可能エネルギーとの両輪で進めますということをいっている。なんか、抱き合わせでごまかしている法律のようにしか聞こえません」

ワースト3位は?

クリーンウッド法』(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律)。これは、木材関連事業者は合法伐採木材を使いましょうという法律です。今、海外から違法伐採された安い木材が日本に入ってくるなどの問題が起きているためこの法律の立法趣旨はわかりますが、問題はそこではなくて、日本の林業の育成なんです。そちらに目を向けてほしかったと思います」

藤本氏はどうだろう。ベスト1は?

『改正入管法』です。難民申請は長い間、強制退去逃れと不法就労の隠れみのとして悪用されてきました。この偽装難民と呼ばれる在留外国人は仮放免されると闇の労働市場に流れて犯罪に手を染めるケースが後を絶たないため、これまで無制限だった難民申請を3回までにする法律です」

2位は?

『逃亡防止法』(刑事訴訟法等の一部を改正する法律)。カルロス・ゴーン被告の逃亡を機に改正の声が高まった法案で、保釈された被告などにGPS端末をつけるというもの」

3位は?

『改正DV防止法』(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律)。これまでは肉体的な暴力に対して保護命令が出されていましたが、今後は精神的な暴力にも拡大されます」

逆にワースト1は?

『防衛財源確保法』(我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法)。国民の社会福祉財源を削り、消費税を増税して防衛費を捻出するための法律ですが、際限のない防衛費の肥大化を許すことにもなりかねません」

ワースト2位は?

『後期高齢者の医療負担の見直し』(全世代対応型の持続可能社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)。これは貧乏なお年寄りは病院に行くなと言っているようなもの。現行の国民皆保険制度は国や企業、現役世代が生活困窮世帯を支えることが前提です。福祉理念の放棄です」

ワースト3位は?

『改正性犯罪刑事法』(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律)。これまで13歳だった刑事罰の対象となる性交同意年齢が16歳に引き上げられました。15歳にもなれば、好きな相手と肉体的に結ばれたいと思うのは当たり前。国家権力がこれを規制するのは人間の尊厳を踏みにじるもの。子供の未熟が心配なら、性教育で対応すればいい話です」

誰もが満足できる法律を作るのは難しい。だからこそわれわれは、成立した法案をきちんと知っておかなければいけないのだと思う。

取材・文/村上隆保 写真/時事通信社

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