米バイデン政権が、AI(人工知能)半導体の対中輸出規制について、適用範囲の拡大を検討中だと、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。米国の競合諸国が保有するAI技術に対する懸念が高まっており、それらに対処するためだという。

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輸出禁止範囲を拡大へ

 関係者によると、米商務省は中国などの懸念国の顧客向けに開発・製造した米国製半導体について、事前にライセンスを取得しなければ、出荷できないようにする。早ければ2023年7月初旬にも措置を講じる可能性があるという。

 商務省は2022年10月、AI向けの先端半導体の中国への輸出を原則禁じた。だが、その後、米エヌビディアはこの措置に対応するため、商務省が示した規制基準を下回る性能のAI半導体「A800」を中国市場向けに製造・販売した。

 関係者によると、検討中の規制では、このA800チップであってもライセンスを取得しなければ、輸出が禁じられる。今回の措置は、22年10月に発表された輸出管理強化措置を明確化しかつ拡大化する最終規則の一部になるとみられている。

 加えて、バイデン政権は中国のAI企業に対するクラウドサービスのリース提供制限も検討している。中国企業は、米政府による先端半導体の輸出規制を回避するため、こうしたリース契約を活用してきたという。つまり中国企業は、米国製先端半導体を輸入することなく、その計算能力・資源を遠隔から活用できてしまう。

導入時期は不透明、米半導体大手の反発も

 ただ、ウォール・ストリート・ジャーナルは、この対中半導体規制の拡大について、導入時期は不透明だとも報じている。米半導体大手が規制の取り下げや内容の緩和を政府に働きかけているからだ。

 また、イエレン米財務長官が23年7月上旬に中国を訪問する予定だとも報じられている。バイデン政権は中国政府の反発を避けるため、イエレン氏の訪中が終わるまで、新規制の導入を待つ可能性があると、同紙は報じている。

生成AIブームで脅威増大

 今回の対中半導体規制拡大に関する検討は、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」のような生成AIが台頭し、社会現象になったことを受けたものだ。

 オープンAIは20年に大規模言語モデル(LLM)「GPT-3」を開発した。22年11月にはこれを進化させたGPT-3.5を取り入れたChatGPTを公開した。

 するとわずか2カ月で月間アクティブユーザー数が1億人に達した。オープンAIは23年3月14日、GPT-3.5をさらに進化させた「GPT-4」を発表。そしてChatGPTのほか、米マイクロソフト検索エンジン「Bing」をはじめ、各種アプリやサービスがGPT-4を取り入れた。

 米政府による対中輸出規制の第1弾が発表されたのは、こうした生成AIブームが起こる前だった。それ以来、米国の政府高官や政策立案者は、国家安全保障という観点で捉えるようになった。AIを搭載した兵器は、戦場において競合国に優位性を与える可能性があり、AIは化学兵器の製造や、サイバー攻撃目的のコンピューターコード生成に利用される恐れがあるからだという。

 一方で、米国と同盟国の企業活動への影響を最小限に抑えながら、重要技術を保護することは、米政権にとって大きな課題となっている。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は23年4月、「私たちは小さな庭と高いフェンスで基盤技術を保護している」と述べ、範囲を限定しながら、強固な輸出管理で基盤技術を保護することの重要性を強調した。

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(写真:ロイター/アフロ)