カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 インド洋には巨大な「穴」がある。穴といってもぽっかりと空洞が口を開けているわけではない。そこだけ重力が弱いのだ。

 「インド洋低ジオイド地域(Indian Ocean geoid low)」と呼ばれる重力異常地帯が見つかったのは、今から70年も前のことだ。だが、その原因はこれまで謎に包まれていた。

 『Geophysical Research Letters』(2023年5月5日付)に掲載された研究では、その謎に迫っている。

 コンピューターモデルを駆使したその研究によると、その重力異常はどうも今から2億年以上前に存在した「テチス海」の亡霊かもしれないことがわかったという。

【画像】 地球は場所によって重力が違う

 よく描かれる地球のイラストはまん丸の完全な球体だ。

 ところが現実の地球は、北極と南極のあたりはやや平らで、赤道付近は膨らむという歪んだ形をしている。

 それどころか、ところどころで重力の強さまで違う。地域によって、その下の地殻・マントル・コアの質量にバラツキがあるせいだ。

 じつはこうしたバラツキは海面の高さに影響する。というのも、水は高いところから低いところへだけでなく、重力の強いところへと流れていく性質があるからだ。

・合わせて読みたい→東日本は重力高めだった。地球上の重力を可視化した地図(オーストラリア研究)

 重力の強さは、地上のセンサーや人工衛星で測ることができる。

 もしもそこから風や潮の満ち引きなどの影響をとっぱらったとき、場所によって重力にバラツキがある地球の海面はどんなふうに見えるだろうか?

 これをモデル化したものが「ジオイド」だ。いわば地球の重力のバラツキを可視化したものである。

 ちなみに、こうしたジオイドの研究からは、西日本より東日本の方が重力が強いらしいことがわかっている。

3

地球の重力地図(青いほど重力が弱く赤いほど重力が強い) / image credit:NASA/JPL/University of Texas Center for Space Research

インド洋に謎の重力異常「重力の穴」

 こうしたジオイドからは、インド洋に地球でもとりわけ強力な重力異常があることがわかっている。ここを「インド洋低ジオイド地域(Indian Ocean geoid low)」という。通称「重力の穴」だ。

 この重力異常地域は、広さ300万平方キロを超える巨大なもの。あまりに巨大なために地上からは普通の海に見える。

[もっと知りたい!→]重力は遺伝子に影響を与える。宇宙に運んだ線虫の体内で多数の遺伝子が変化したことを確認(NASA)

 だが実際には、そこだけが重力が弱く海水が周辺へ流れていくために、インド洋低ジオイド地域の海面は、世界平均より106メートルも低い。

 この奇妙な重力異常は、オランダの地球物理学フェリックス・ベニング・マイネスが船舶を使った重力調査で1948年に発見した。

 それから70年以上が経つが、なぜそこだけ異常に重力が弱いのかよくわかっていない。

2

インド洋にある重力の「穴」と、海底に設置された地震計(黒い三角形)の位置 / image credit:Ningthoujam, Negi & Pandey/EOS, 2019

原因は古代の海の亡霊か?

 この謎を解くため、インド理科大学院のDebanjan Pal氏とAttreyee Ghosh氏は、コンピューターモデルで過去1億4千万年における地殻プレートの移動をシミュレーションし、重力異常が発生するだろう状況を探っている。

 その結果、特徴的なマントルの構造と、「アフリカン・ブロブ」(より専門的には「大規模低せん断速度領域」)と呼ばれるアフリカ大陸の下で起きている小さな地殻変動が原因らしいことがわかったという。

 研究チームによれば、アフリカン・ブロブから高温で密度が低い物質がインド洋の下に流れ込み、いつまでもそこに居座っている。これが、そこだけ重力が弱い原因と考えられるのだという。

 それはある意味、古代の海の亡霊とも言えるものだ。

 アフリカン・ブロブ自体は、マントル深部にある「テチス・スラブ(Tethyan slab)」によって形成されたと考えられている。

 このスラブ(大陸プレートの下に潜り込む海洋プレートのこと)は、2億年以上前にローラシア大陸とゴンドワナ大陸の間にあった「テチス海」の海底の名残なのである。

 もともとアフリカ大陸とインド亜大陸はゴンドワナ大陸の一部だったが、1億2000万年ほど前、現在のインドにあたる地域がテチス海を北上し、インド洋を作り出した。

 このとき、古いテチス海の海底はマントルの下へと沈み込んだ。それはどんどん下へと潜り込み、核の境目まで到達。すると岩石が溶けてプルーム(マントル内の対流運動)が発生した。

 周囲にあるマントルの構造も相まって、このプルームにマントルの物質が乗ってインド洋の下に流れ込む。これがインド洋低ジオイド地域を作り出しているようだ。

 この重力異常が現在の形になったのは、プルームが上部マントルに広がり始めた2000万年ほど前のことだろうという。

 そしてアフリカン・ブロブからやってくるプルームに乗ってマントル物質が流れてくる限り、そこに存在すると考えられるそうだ。

References:Giant 'Gravity Hole' in the Ocean May Be the Ghost of an Ancient Sea - Scientific American / There's a Giant Gravity Hole In The Indian Ocean, And We May Finally Know Why : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

インド洋に存在する巨大な「重力の穴」の謎。太古の海の亡霊かもしれない