国内外で大きな注目を集めた映画「ドライブ・マイ・カー」、主演を務めたドラマ「ザ・トラベルナース」、舞台「ガラスの動物園」など、幅広い分野で活躍中の俳優・岡田将生。最新主演作「1秒先の彼」では、何をするにも“1秒早い”郵便局員・皇一(すめらぎはじめ、以下ハジメ)を演じている。山下敦弘監督と宮藤官九郎が初タッグを組んだ本作の撮影現場で感じたことや役について、さらに、おすすめの台湾ドラマなどを語ってもらった。

■山下敦弘監督と宮藤官九郎さんを信じて付いていけば「確実におもしろいものになると確信しました」

――本作の監督を務めた山下敦弘監督とは2007年の映画「天然コケッコー」以来、16年ぶりのタッグになりますね。

岡田将生】ずっと“いつかまた監督とご一緒したい”と思い続けていたので、お声をかけていただいた時は“ついに山下監督作品の話が来た!”と思いました。ただ、久々にお仕事するからこそ、緊張とうれしさが半分でしたね。

――久々にご一緒されてみていかがでしたか。

岡田将生】「天然コケッコー」の時は僕がデビューして間もなかったので、監督の演出の意図をうまく読み取れないことが多かったんです。でも、そこからいろいろな現場を経験したこともあって、本作では監督とのやり取りがスムーズになった実感がありました。

ハジメというキャラクターを監督と一緒に作っていく作業がすごく楽しかったですし、16年前にできなかったことが今回できてうれしかったです。

――原作は、ワンテンポ早い女性とバスの運転手の男性の物語を描いた台湾映画「1秒先の彼女」です。この男女のキャラクターを反転させて、舞台を京都に移した本作に出演することが決まったときはどう思いましたか?

岡田将生】僕が演じたのは“1秒早い”郵便局員の男性なのですが、そういう役をいただく機会はなかなかないので、キャラクターをどう解釈して作っていくかがすごく重要になると思いました。

今回、山下監督と脚本の宮藤官九郎さんが初タッグを組まれるので、お二人を信じて付いていけば確実におもしろいものになるという確信がありましたし、とにかく撮影が楽しみでした。

――ハジメを演じるうえで、意識したことや大事にしたことを教えていただけますか。

岡田将生】ハジメの特徴をわかりやすく見せるために、例えば早くセリフを言ってみたり、相手のセリフがまだ終わっていないタイミングで自分のお芝居を被せてみたりというのを試しながら撮影していました。

ただ、やりすぎると台本の良さが半減してしまう可能性があったので、監督と現場で相談を重ねながら、時には「岡田くん、今のは早すぎだね」とご指摘をいただきながら(笑)、調整して演じていました。

――連続テレビ小説なつぞら」で共演され清原果耶さんが“1秒遅い”大学7回生のレイカを演じています。久々にご一緒されてみていかがでしたか。

岡田将生】清原さんは「なつぞら」の時と変わらず聡明な方という印象でしたね。常に現場を俯瞰で見ていて、なんというか…僕より年下なのにベテランの風格があるんです(笑)。だから一緒にお芝居していて安心感がありましたし、とても頼もしいなと思いました。

レイカと対峙するシーンは、ハジメの“1秒早い”というキャラクター性がよりおもしろくなっていったので、清原さんのお芝居と、監督の演出に助けられた部分が大きかったように思います。

宮藤官九郎さんの台本は「読むたびに新たな発見があって、何度読んでも飽きない」

――宮藤官九郎さんとは映画「謝罪の王様」や「ゆとりですがなにか」でもご一緒されていますね。

岡田将生】宮藤さんが脚本を書かれた作品に出演するときは、なぜかいつも変わった役ばかり(笑)。でも、何度かご一緒しているからこそ勝手に相性がいいのではないかと感じていますし、宮藤さんが僕に求めていることもなんとなくわかるようになってきた気がします。

本作が原作とは違う日本的なおもしろさがあるのは、セリフや行間に宮藤さん独自のセンスが盛り込まれているからなのかなと、台本を読んだときに思いました。

――宮藤さんの脚本・台本のどんなところに魅力を感じますか。

岡田将生】「ゆとりですがなにか」のときにも感じましたが、宮藤さんの台本は読むたびに新たな発見があって、何度読んでも飽きないんです。とにかくセリフが全部おもしろいからひとつも聞き逃せないですし、なんでもない会話だと思っていたことが、実はあとあとすごく重要な場面の伏線になっていたりするんですよね。

だからいつもしっかりと時間をかけて宮藤さんの台本と向き合うのですが、その時間が好きなのかもしれないなと今回改めて気付きました。

――本作で「宮藤さんらしさ」を感じたセリフやシーンがあれば教えていただけますか。

岡田将生】宮藤さんの台本はト書き(セリフ以外の登場人物の動作や行動、心情などの指示のこと)がほとんどないので、そこがおもしろくもあり難しいところでもあるというか。でも、ト書きがないからこそ自由にお芝居できた部分もあるので、それはすごく楽しかったです。

どんな風に演じても、山下監督の丁寧な演出によってシーンが成立しましたし、時には「岡田くん、こういうときはどうすればいいと思う?」と監督から相談されることもありました。自由だからこそ、どう料理するかで作品がものすごく変わる台本だったので、監督と一緒に試行錯誤しながら作っていけてよかったなと思います。

――ちなみに、ハジメとの共通点はありましたか?

岡田将生】僕もハジメに似てせっかちな性格なので、例えば、郵便局のシーンで、従業員用の裏口から入らなきゃいけないのに、表のお客さん用の入り口から堂々と入っていくハジメの気持ちがわかるんです。従業員用の裏口から入るというルールはわかっていても、効率よくいきたいんですよね(笑)。

そういう、せっかちなハジメの行動が、本作にはコミカルなエッセンスとして散りばめられているので、クスクス笑って楽しんでもらいたいです。

■家族から初めてもらった手紙は「未だに大事にとってあります」

――本作には“手紙”が重要なアイテムとして登場しますが、岡田さんにとって手紙とはどういうものでしょうか?

岡田将生】手紙は、書いた人の性格や本質みたいなものが文字に表れるっていいますよね。今はなんでもSNSやメッセージアプリでやり取りができてしまうけれど、画面の文字と、人間の手で書かれた文字では温かみが全然違うし、手紙の方がより気持ちが伝わってくる感じがします。

僕は本作を観て手紙を書きたくなったので、「1秒先の彼」が手紙ブームのきっかけになったらいいなと密かに思っています。

――これまでいただいた手紙で、強く印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか。

岡田将生】「A-Studio+」という番組に出演した時に、家族から初めてもらった手紙が印象に残っています。普段は面と向かって言わないような言葉がたくさん書かれていたので、すごくぐっときましたし、未だに大事にとってあります。

――岡田さんの出演作に関する感想を、ご家族の方から聞くこともありますか?

岡田将生】あまり家族の前で仕事の話はしませんが、たまに感想を言ってくれることはあります。映画に関する感想には「ありがとう」しか返せないのですが、舞台の感想の場合はまだ公演中だったりするので、すごく真剣に耳を傾けるようにしています。ただ、面と向かって話されるとどんな感想でも少し照れるので、それこそ手紙で伝えてもらえるとありがたいです。

――今、手紙を書きたい相手はいらっしゃいますか?

岡田将生】かわいい甥っ子の顔がパッと思い浮かびました(笑)。最近少しずつひらがなが読めるようになってきたので、今度書いてみようと思います。

――本作の原作は台湾映画ですが、最近ご覧になった海外の作品でおすすめがあれば教えていただけますか。

岡田将生】ちょうど昨夜、宮部みゆきさんの「模倣犯」の台湾版リメイクドラマを全話観終わりました。すごくおもしろかったのでおすすめです。

あと、最近ではないですけど、「ブルー・バイユー」という映画は年に1回見直すぐらい好きです。幼い頃に養子としてアメリカにやってきた韓国生まれの男性が、大人になってから強制送還の危機に直面する話で、ラストシーンがとても印象的な映画なんです。

――韓国生まれの男性をジャスティン・チョン、その妻役をアリシア・ヴィキャンデルが演じていて、妻の連れ子と3人での穏やかな暮らしが、ある日突然一変してしまう家族の物語が切なかったです。

岡田将生】辛くて切ない展開でしたよね。僕は“悲しみを抱えながらも、前向きに生きようとする家族”を描いた物語が好きで、「1秒先の彼」も終盤でそのような家族の物語であることがわかります。

この2つの作品の根底にあるものは同じような気がするので、よかったら本作をご覧になったあと、「ブルー・バイユー」も鑑賞していただけたらうれしいです。

取材・文=奥村百恵

◆スタイリスト=大石裕介

◆ヘアメイク=小林麗子

(C)2023「1秒先の彼」製作委員会

/撮影=三橋優美子