旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:工藤 幸四郎、以下「当社」)は、欧州の研究機関であるホルストセンター ※1(オランダ アイントホーフェン)とともに、プリンテッドエレクトロニクスを利用した、ディスプレイ用の次世代非接触ユーザーインターフェイスを実証しました。なお、本研究成果は、国際学術雑誌『Nature Electronics』に受理され、2023年6月12日(月)に公開されました。

プリンテッドエレクトロニクスは、印刷技術を用いて、フィルムなどの基材の上に電子回路、センサー、素子などを形成するもので、電子デバイスの製造を印刷によって行う技術です。製品の薄型・軽量化や低コストでの生産が可能なため、新しい生産方法として期待されています。当社は独自開発の銅インクや高精細印刷技術を有しており、これまで偽造防止ソリューション「Akliteia(R)」※2などにプリンテッドエレクトロニクスを活用してきました。

今回の共同研究においては、当社の銅インクと高精細印刷技術を活用した透明導電性フィルムに、ホルストセンターにおいて開発された近赤外線を検知できる有機透明イメージセンサーアレイ(以下、イメージセンサーアレイ)を組み合わせることで、透明でありながら近赤外線を検知できるパネルを実証しました。本技術を応用して電機メーカー等において既存のディスプレイと組み合わせることにより、ペンライトや指の動き(ジェスチャー)を検知する非接触ユーザーインターフェイスを実現します。


本技術についてはディスプレイメーカーやセンシングデバイスメーカーなどを将来的な顧客として想定しており、今後、ニーズに応じてライセンス供与などを検討してまいります。

既存ディスプレイにイメージセンサーアレイを組み合わせることでペンライトによる非接触操作を実現

イメージセンサーアレイに近赤外線LEDを組み込むと指の動きによる非接触操作(ジェスチャー制御)が可能に

技術のポイント

■高精細印刷技術により、ディスプレイ用非接触ユーザーインターフェイスを開発

■近赤外光(波長850nm)において高い光検出率(約1012ジョーンズ)と可視光透過率(70%)を実現

■イメージセンサーと既存ディスプレイを組み合わせ、ペンライト制御およびジェスチャー制御で使用できることを実証

研究背景と内容

新型コロナウイルス感染症パンデミックを機に、物体を介した間接的な接触による感染などの汚染リスクが社会生活の中で強く意識されるようになりました。 ATM、決済端末、空港のセルフチェックイン端末など公共スペースで利用する機器や、さらに高い衛生水準が求められる病院の医療設備や食品製造プロセスなどにおいても、非接触での画面操作に対する需要が高まっています。本技術は、これらの課題解決への応用が期待されています。

従来の非接触ユーザーインターフェイスには、ディスプレイの外枠に設置された近赤外線カメラなどが使用されていますが、原理的に小型化が難しく、また検出精度や大型パネルへの適用に課題がありました。今回実証した非接触ユーザーインターフェイスは、フィルム上に印刷された極細の導電性銅グリッドと、近赤外光を検出する透明な素子を平面上に複数配置することによって、可視光透過性を保ちつつ、近赤外光の検知を実現しています。このデバイスは、既存のさまざまなディスプレイと組み合わせて、ペンライト制御およびジェスチャー制御の非接触ユーザーインターフェイスとして使用できます。

パネルが透明であるため、既存のディスプレイと組み合わせることで、ディスプレイそのものをセンサーとして使用できます。高精度の感知が可能なので、スマートフォンやパソコンのマウスのようにスムーズな操作が可能です。また、サイズの制約がなく、大型のディスプレイにも適用できます。

a:デバイスレイアウト b:導電性銅グリッドの上面図 c:導電性銅グリッドの顕微鏡画像

d:近赤外光検出体の分子構造 e:近接外光検出体の電子状態図

f:センシング部の設計概略図 g:制作したセンシング部の顕微鏡写真

今後の展望

 本技術については、市場のニーズに応じて、ライセンス供与などの形で提供することを想定しています。

また、当社は、この他にもさまざまな用途において高精細印刷技術の活用を目指しています。今後は、回路形成だけでなく、コンデンサー、TFT液晶や有機ELで使用される有機薄膜トランジスタや不揮発性メモリ、集積回路、有機太陽電池、各種センサーの製造などへの応用も視野に入れ、研究開発を続けてまいります。

※1 ホルストセンター

ベルギーの研究機関imecとオランダ応用科学研究機構(TNO)が共同で運営する研究・イノベーションセンター

https://www.compass21tokyo.com/what-s-new/articles/

※2「Akliteia(R)(アクリティア)」

旭化成のプリンテッドエレクトロニクス技術を応用した偽造防止ソリューションです。サブミクロン(1ミクロン以下)解像度の特殊パターンを印刷した、複製が極めて困難な偽造防止ラベルを真贋判定に活用しています。

詳しくはこちらをご覧ください。 https://akliteia.com/

論文情報

雑誌名 Nature Electronics

論文タイトル A touchless user interface based on a near-infrared-sensitive transparent optical imager

著者 Takeshi Kamijo1, Albert J.J.M. van Breemen2, Xiao Ma3, Santhosh Shanmugam2, Thijs Bel2, Gerard de Haas2, Bart Peeters2, Razvan Petre2, Daniel Tordera2, Roy Verbeek2, Hylke Akkerman2, Luis Moreno Hagelsieb4, Florian de Roose4, Fujito Yamaguchi1, Rene A. J. Janssen3, Eric Meulenkamp2, Auke Jisk Kronemeijer2, Gerwin Gelinck2, 3

DOI https://doi.org/10.1038/s41928-023-00970-8

1 旭化成株式会社

2 TNO at Holst Centre, The Dutch Organization for Applied Scientific Research, Eindhoven, The Netherlands.

3 Department of Applied Physics, Eindhoven University of Technology,

Eindhoven, The Netherlands.

4 imec, Leuven, Belgium.

配信元企業:旭化成株式会社

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