小田原・箱根紀行で乗車したEXEα(30000形)。スタイリッなデザインの次世代型ロマンスカーです (写真:小田急電鉄

本サイトでも紹介されたように、小田急電鉄は2023年5月に「箱根旅行の予約システム」を一新しました。「特急ロマンスカーと箱根の宿泊施設、現地での体験メニューをインターネットで組み合わせ、自分だけの旅行ツアーを割安な最適価格(ベストレート)でゲットできる」のがミソ。従来は旅行会社のカウンターで対面依頼していたことが、ネット上で完結できるようになりました。

小田急電鉄「箱根旅行の予約システム」(画像は小田急電鉄ホームページから、PCで閲覧した場合)

確かにその通りですが、何がどう変わったのか、どこが便利なのか、いまいちイメージしにくいかもしれません。本コラムは〝デジタル初心者〟の筆者が、スマホに表示されるQRコードのデジタルチケットで小田原・箱根を旅行。鉄道ファンの視点も交えながら、次世代型のロマンスカーの旅を体験しました。

HPからロマンスカーとホテルを予約

新しい箱根旅行の予約システム、小田急ホームページのトップ画面の「ロマンスカー&宿泊セットプラン」の検索コーナーで、列車とホテルを予約することから始まります。

日程、人数、宿泊地、出発駅・降車駅、乗車時刻といった情報を入力すると、希望にあった列車やホテルを選んでくれます。基本はネットショッピングと同じ。予約はパソコンでもOKですが、旅行中はスマホが必携の情報ツールになります。

予約が完了すると、スマホに小田急トラベルからメールが届きます。メールは行き、帰りそれぞれのロマンスカーの乗車駅と発車時刻、号車、座席番号などを案内します。

メール(に表示されるアドレス)にアクセスして手に入れる(画面表示される)、QRコードのデジタルチケットは、2センチ角ぐらいのミニサイズながら、電車やバスへの乗車はこれだけでOKの〝万能選手〟です。

小田急は、全駅の有人改札に読み取り機を設置済みで、コードをかざせばチャイムが鳴って改札を通過できます。ロマンスカー車内では、指定された座席に座っていれば、情報が車掌さんの端末に伝わるので、車内検札に煩わされることもありません。

全駅に設置されるQRコード読み取り機。日本人旅行者はもちろん、訪日外国人の方にも快適に利用してもらえそうです (筆者撮影)

バスやケーブルカーロープウェイはQRコードの画面を見せて乗車します。

ログインできない…どうすればいいの?

ここまで何事もなかったように書きましたが、本当をいえば筆者は入り口で挫折。ログインには、別メールで届く検証コード(6けたの数字でパスワードのようなもの)の入力が必要ですが、何回やってもログイン拒否されます(スマホが古かったのが原因のようです)。

ここで「旅行に行けない」となれば、パニクってしまうこと必至。でも、新しいロマンスカーの旅はサポート体制も万全。新宿駅の「小田急旅行センター新宿西口」や「はこね旅市場」に行けば、親切にやり方を教えてもらえます。

旅行中、困ったことがあったら、駅の改札係員や箱根湯本駅の駅社員に聞いてみましょう。小田急のデジタルチケットを支えるのは、駅や列車を中心とする関係社員の積極的なサービス精神です。

なぜ今、デジタルなのか?

ところで、小田急はなぜ旅行予約サイトを一新したのでしょう。業界用語では「ダイナミックパッケージ」。新しい旅行スタイルの背景にあるのは、旅の個性化とインターネットの普及です。

始まりは海外旅行。一昔前のヨーロッパ旅行、フランスではルーブル美術館など定番がありました。でも今は買い物だけとか、博物館めぐりオンリーとか、旅の目的は十人十色。旅行会社は多様なメニューを提供しないと、旅行してもらえません。

鉄道会社も基本は同じ。小田急ロマンスカーで快適に旅行客を箱根に運ぶだけでは80点。予約サイトで現地でのいろんなメニューを提供して、はじめて100点をもらえます。

小田原で途中下車、バスで箱根に向かう

小田急小田原駅小田急箱根登山鉄道はスルーの線路のほかに、小田急(左)、登山鉄道(右、車両は小田急です)それぞれの始発ホームがあって、両社の境界駅なのがよく分かります(筆者撮影)

小田急が今回のサイトリニューアルで、売り込みに力を入れ始めたエリアがあります。それは「小田原」。神奈川県西湘エリアの中心都市で、小田原市は人口約19万人。小田原駅小田急箱根登山鉄道の境界駅。JRは東海道新幹線在来線東海道線、さらに小田原と大雄山を結ぶ伊豆箱根鉄道大雄山線の、合計5路線が集まる交通の要衝です。

ロマンスカーで箱根を旅行する場合、小田原をスルーしてしまう方が多いのですが、それはもったいない。小田急途中下車で魅力を味わってもらおうと、旅行クーポン「Enjoy!おだわらチケット」の発売を始めました。

「Enjoy!おだわらチケット」などはサイトから購入可能です(画像は小田急電鉄ホームページから、PCで閲覧した場合)

購入方法は、デジタルチケット同じくサイトから。ロマンスカーと同時予約のほか、おだわらチケット単独でも購入できます。

小田原に着いたら、駅構内(自由通路)にある「小田急旅行センター 小田原」に立ち寄りましょう。店頭のQRコードをスマホで読み取り、カウンターで紙のチケットに引き換えれば、街歩きの出発準備は完了です。

小田急の改札口とは自由通路を挟んだ反対側にある「小田急旅行センター 小田原」。紙の「Enjoy!おだわらチケット」への引き換えのほか、小田原や箱根の観光情報をゲットできます(筆者撮影)

チケットは、食事券「たべチケ」(1枚)と観光・土産券「ぶらチケ」(2枚)の3点セット。食事は海鮮丼、そば、漁師料理などから、観光・土産は小田原城天守閣、特産の干物などからチョイスできます。

小田原観光を終えて箱根に向かう際は、駅に戻って登山鉄道に乗車してもいいのですが、小田原駅発の箱根登山バス路線バス)に乗車するのもグッド。行きはバス、帰りは電車を乗り分ければ、箱根の違った表情を味わえます。

箱根観光の最新ニュースでは、名門「箱根ホテル小涌園」が2023年7月12日にグランドオープンします。運営は藤田観光。1959年開業で、2018年1月に閉館。約5年半の建て替え工事を終え、温泉・自然・食事の三拍子そろった滞在拠点として歴史を刻み始めます。

箱根の山と相模湾を行く鉄道を撮る

自然災害防止のため線路を山肌から離して復旧させた箱根登山鉄道「蛇骨陸橋」。登山鉄道のほか、箱根登山パスでのアクセスも便利です(写真:箱根登山鉄道

ラストは、鉄道ファン目線での小田原・箱根旅。小田原は東京からの鉄道が、山(小田急箱根登山鉄道)と海(東海道線)に分かれる分岐点です。

ワンポイント紹介すれば、登山鉄道の新しいフォトスポットが、天空を列車が走る(ように見える)、宮ノ下―小涌谷間の蛇骨(じゃこつ)陸橋。2019年10月の台風19号で大規模に被災しましたが、箱根登山鉄道神奈川県などは工法を工夫して早期復旧を実現しました。〝復旧ヒストリー〟は2022年6月、本コラムで紹介させていただきました

もう一方の、海を走る絶景の鉄道は東海道線早川―根府川間の石橋橋りょうが思い浮かびます。ブルーの相模湾をバックに特急「踊り子」(もちろん他の列車でも)に向けてシャッターを切れば、小田原・箱根旅の本当の魅力を実感できるでしょう。

記事:上里夏生