プロゲーミングチーム・Crazy Raccoonによる、『ストリートファイター6』の大会『Crazy Raccoon Cup Street Fighter6』が6月25日に開催され、白熱の熱戦が相次ぎ、非常に大きな盛り上がりを見せた。

 この大会に至るまでの流れ、その後の余波も含め、今回の記事ではこの大きな盛り上がりについて深く記していきたい。

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■『ストリートファイター6』はシリーズ最高傑作なのか? 新規層を取り込むためになされた数々の変革

 『ストリートファイター6』は、2023年6月2日CAPCOMから発売された格闘ゲーム格ゲー)であり、30年以上に渡って格ゲーの中心となってきた「ストリートファイター」シリーズの最新作だ。

 同シリーズは90年代における「格ゲーブーム」の火付け役であり、その後世界中で広まっていったeスポーツシーンにおいても、00年代初期から現在に至るまで深くかかわっており、その影響力は計り知れない。

 そんな同シリーズの最新作『ストリートファイター6』では、これまでの格ゲーの常識であったコマンド入力方式の「クラシック」タイプにくわえて、ワンボタンで簡単に必殺技が出せる新たな操作方法「モダン」タイプが追加された。

 ほかにも、オリジナルキャラクターを作成して『ストリートファイター6』の世界をオープンワールドRPGのようにプレイしていく「WORLD TOUR」や、丹念に成長させたオリジナルキャラクターをロビーフィールドに集め、対戦・交流などができるオンラインモード「BATTLE HUB」など、以前のシリーズにはなかった新たなモードが導入されているのも特徴だ。

 新たな操作方式の導入や、これまでにはなかった形で「ストリートファイター」の物語を楽しめ、単なるオンラインバトルシステムとも異なるモードの搭載。ここでは筆をとらないが、ほかにも新要素を備えた大胆な変化には、リリース前から格ゲーファンにさまざまな驚きを与えていた。

 ひとつの作品にここまで新要素を一気に盛り込んだのは、ひとたび発売されれば数年以上に渡って同じタイトルがプレイされつづけるという格闘ゲームシーンならではの盛り上がり方も一因にあげられるはず。

 それから、以前のような1人用モード・対戦モード・トレーニングモードだけでは、「格ゲーファンが離れていってしまうかもしれない……」という懸念もあっただろう。国によって別々のゲームタイトルが流行するほどに飽和しているゲームシーンにおいて、いかに根強いファンがいるとはいえども「これまでと同じ」では飽きられてしまい、プレイヤーが減少してしまうだろう。

「1タイトルが数年以上に渡ってプレイされ続けるならば、ずっと楽しめるだけのやり込み要素を追加すればいい」

 そんな気概も感じさせる『ストリートファイター6』。以前から「プレイするには敷居が高すぎる」という評価が集まっていたなかにあって、本作はかなりクリティカルな答えを詰め込んだのだ。

 発売前のクローズドテストや体験版の配信で徐々に注目を集め、6月2日に正式な発売を迎えると、そのわずか5日後にあたる6月7日にははやくも同作が全世界で100万本を売り上げたと発表された。

 その後、7月2日には招待制の格闘ゲーム大会『Red Bull Kumite 2023』が南アフリカではやくも開催された。『ストリートファイター6』を使った初の国際大会となり、後述するような国内でのさまざまな動きも連動し、日本国内でも多くの視聴者が大会の行方を見守った。

■『ストリートファイター6』発売直前に起こった波が大きく成長し、配信界隈を飲み込む

 そんな『ストリートファイター6』は、いま現在ストリーマーシーンのなかでも大きな注目を集めており、さまざまな配信者・VTuberが日夜プレイしているという状況にある。

 国内でもっとも注目を集めるストリーマーのひとりである関優太とSHAKA、バーチャルタレントからはにじさんじ・葛葉や叶、ホロライブ戌神ころね獅白ぼたんなどの面々が、これまでシーンを支えてきたプロ格闘ゲーマーや有力者らと一気に交流を深め、それぞれの界隈のリスナーの耳目を集めた結果、大きな注目と“バズ”を引き起こしたのだ。

 少し長くなるが、ここ数か月での『ストリートファイター6』×ストリーマーの盛り上がりを追いかけてみよう。

 ことし3月31日4月2日東京ビッグサイトで開催された『EVO JAPAN 2023』に、SHAKA、Sasatikk、こく兄、なないの4名がウォッチパーティーのゲストとして登場。新型コロナウイルスの影響により近年開催されなかった歴史ある格ゲー大会、その現地に彼らは集まった。

 その後4月22日には、SHAKAと関優太の2人に、『ストリートファイター6』のプロデューサー・松本脩平とディレクター・中山貴之らをくわえた特別番組がニコニコ生放送で配信された。

 さらに5月3日には世界最大級のゲーミング・フェス『DreamHack』が『DreamHack Japan』として日本で初開催。このイベントでは、「『ストリートファイター6』 ストリーマーエキシビションマッチ」が開かれている。

 ここにもSHAKAと関優太の2人が参加、ありけん、おにや、けんき、ゆふな、倉持由香、プロ格ゲーマーのNyanpiらとイベントを共にしている。

 こうして配信者や格ゲーマーが中心となって『ストリートファイター6』を盛り上げるなか、プロゲーミングチーム・REJECTが主催する『REJECT FIGHT NIGHT』の開催が発売の数日前に発表された。

 REJECTの格闘ゲーム部門設立に際して総合プロデューサーに就任したこく兄、“格ゲー五神”の1人として長く活動してきたハイタニの両名に加え、2010年代格ゲー界において屈指の実力者として知られるときど、日本格ゲー界の顔役であるウメハラの2人が参加するとアナウンスされた。

 ストリーマーからは関優太とSHAKAの両名に、2人の盟友ともいえるSPYGEA、おぼ、個人VTuberの赤見かるびなどが出場。総当たり戦としてあげられた4チームは、それぞれに魅力的な面々を揃えていた。

 発売してから1週間後となる6月9日に開催ということもあり、発売日からさっそく『ストリートファイター6』をプレイしていく4チーム。前作『ストリートファイター5』からプレイしており腕に覚えのある関優太とSasatikkをはじめ、まったくの初心者であったおぼ、赤見かるびといった面々がそれぞれの魅力を発揮し、毎夜に渡って目を引く配信を届けてくれた。

 「新要素であるモダンタイプが初心者をどれほどに助けてくれるのか?」「新しいキャラクターがどのような内容なのか?」といった部分だけでなく、トレーニングモードに出てくるCPUを最高難易度に設定するとプロ選手でも手こずるレベルであることが広まるなど、彼らの配信はシリーズを知る人はもちろん、知らない人にとっても有用な内容が多く見られた。

 そうして迎えた6月9日、開催された大会当日はハイタニの心を動かすバトルが繰り広げられたり、ふだんはほとんど緊張しないことで有名なSHAKAが「緊張してきた……吐きそう」とこぼすなど、かなりヒリヒリしたものとなった。

バトンは『REJECT FIGHT NIGHT』から『Crazy Raccoon Cup』へ

 そんな熱戦から間髪入れずに開催がアナウンスされたのが、『第1回 Crazy Raccoon Cup Street Fighter 6』だ。6月25日の開催に向けて4チーム計20名が参加することになった。

 さっそくスタートした練習配信やスクリムでは、これまで開催された『Apex Legends』『VAROLANT』での『CRカップ』と同じく、大会の魅力のひとつでもある“濃い人間模様”を数多く届けてくれたのだ。

 関優太、葛葉、叶、k4senの仲良し4人組は“The Beast”としても知られるウメハラと「ビーストチルドレン」を組み、日本最初のプロ格ゲープレイヤーで00年代初期から世界と戦い続けてきた漢が見守るなか、研鑽を積み、配信者らしいハイライトシーンを生み続けていた。

 なかでもk4senは大須晶、ぷげらのコーチ2人との対話から「オギャ」「リニア」「バッタ」「チャカ」「茶番」「レールガン」「置き石」といった謎ワードを次々発し、チームメイトや視聴者を混乱させ、いまでも配信コメントで見られるほど数多くのミームを生み出した。

 動画を見てもらえればわかるとおり、当人たるk4sen、大須晶、ぷげらの3人は真剣そのもの。そのギャップもまたミームの面白さを倍増させている。

 大会開催と同タイミングでCrazy Raccoonに加入することが発表されたどぐらは、だるまいずごっど、けんき、イブラヒム獅白ぼたんと共にチームを結成。5人中4人が関西地方が出身地ということで、チーム名は「ぎゃんぐたうん地方勢」となった。

 獅白ぼたんは収録などの関係でなかなか練習することができないなかでも、収録先にノートパソコンを持ちこんで自主練習するなど、チームメイト全員が高いモチベーションで臨んだことを知ったどぐらが「自分の試合の勝ち負けなんかどうでもいい。チームメイトには格ゲーを楽しいと思ってもらいたい」と語っていたのは印象的だった。

■“背水の逆転劇”の再来! ウメハラが魅せた圧倒的不利からの大逆転勝利

 こういった充実した練習の日々を送っていた4チームは、大会でも数々の熱戦を繰り広げていった。ワンミスが敗北に繋がる格闘ゲーム独特の緊張感に晒されながら、薄氷を踏むような勝利、悔やみきれない敗北を重ねていった。

 決勝に勝ち進んだ「ビーストチルドレン」と「保険適用外」は、互いに2戦取り合った状態で第5戦を迎える。大将であるウメハラふ~どによる対決で勝負にもつれこみ、これが事実上の“頂上決戦”となった。

 3本先取で勝利となるなかでふ~どが先に2連勝し、3本目もふ~どが先制「残り1ラウンドを取れば優勝が決まる」という状況で迎えた2ラウンド目。ウメハラを画面端に追い詰め、体力残り僅かでバーンアウト状態(一定時間キャラが弱体化する状態)にまで追い込む。ラッシュやコンボが決まれば勝利、だれしもがふ~どが勝ち切るだろうと思われた。

 しかしそんななか、バーンアウト状態からウメハラが盛り返してラウンドを取り返すと、勢いに乗ったまま3本目を取りきる。すると、そこから怒涛の攻めと冷静な駆け引きを見せつけて、あれよあれよという間に3-2で大逆転勝利を収めたのだ。

 約20年前に開催された『EVO 2004』準決勝でジャスティン・ウォンとの戦いで見せた伝説の一戦。のちに“背水の逆転劇”と呼ばれた名試合を思わせ、それ以上かと思える大逆転劇を大舞台でバッチリと決めてみせるウメハラ。関優太を筆頭にチームメイト、見ていた大会参加者、約30万人とも言われる視聴者が震えない訳が無い。

 豪快かつ華々しい戦いでクライマックスをとげたこともあり、『第1回 Crazy Raccoon Cup Street Fighter6』は大成功に終わったといえる。なんとはやくも第2回の開催を望む声があがっているほどだ。

■さまざまなイベント・大会は“格闘ゲーム”の魅力をアピールする場所に

 ここまで『ストリートファイター6』の盛り上がりをアツく語ってきたが、いちど俯瞰視点でみてみれば、これらがストリーマーを使った「格ゲー業界」のPR戦略に端を発したものであることに気が付くだろう。仕掛け人こそイベントごとに異なるが、CAPCOMやゲーミングチームらが中心となり、『ストリートファイター6』を使って格ゲー界隈が大々的に盛り上がった結果といえる。

 まず各種大会・イベントに際して、30年以上に渡って折り重なった格闘ゲームのコミュニティから多数の有力選手がコーチ役を買ってでた。

 サラっとコーチングを引き受けて配信に現れたプレイヤーが、じつは過去に世界大会で優勝していた猛者であったり、今後世界大会で活躍が見込める有力な若手選手ということが多く、世界有数ともいえる格ゲー大国・日本の層の厚さに驚いた方は多いだろう。

 それに応えるように、参加した面々が1人のゲーマーとして熱を上げてプレイしたのももちろん重要だ。

 個々人によって格ゲーとの距離感・触れ方は変わってくるが、参加した配信者らのほとんどに言えるのは「それまで興味はあったけどもそこまでガッツリと触れるチャンスが無かった」という点。とくにホロライブの2人は「タイミングさえ合えばプレイしてみようかな?」と考えていたレベルの初心者で、いわば新規層であった。

 同様に、これまで格ゲーに積極的に触れてこなかったにじさんじ・叶は、「モダンになってからコンボだけじゃない部分の楽しさを知れた」「『スト5』は苦しかった。モダンモード神です」と配信中に話しており、『ストリートファイター6』の新要素がバッチリと刺さった、ロールモデルのようなプレイヤーだ。応援するファンの立場としても、参加した配信者らが笑顔で楽しみつつ、急激に実力を伸ばしていく姿をみれば、その魅力は十二分に伝わるだろう。

 さらに、叶が話したように、格闘ゲームの「1対1」という緊張感やコンボ技の華々しさも、さまざまな配信や大会中にも大きなアピールポイントとなった。

 以前の作品よりもガードが有効ではなくなった仕様で、より読み合いが重要となりスピーディに試合が終わる傾向にある本作。一発貰ってしまえばすぐに逆転されてしまう危うさのなかで、ドライブゲージパリィ必殺技などを駆使して戦い、コンボが決まれば華やかな画面演出でバチっと決まる。強烈に惹きつける爽快感があり、興奮させていくのはいうまでもない。

 『ストリートファイター6』を使ったここまでの各種イベント・大会は、メーカー・チーム・プレイヤー・コミュニティそれぞれが楽しみ、盛り上げようという方向性を共にしていた。そしてその相乗効果が、『ストリートファイター6』ひいては格闘ゲームの魅力を存分に示したといえよう。

■『ストリートファイター6』は配信者シーンやゲーミングチームに変化を与えるのか?

 最後に、これらの施策はストリーマーやバーチャルタレントを中心にした配信者シーンにも大きな波を起こしそうな予感を漂わせていることに触れよう。

 格ゲーコミュニティの面々とFPSを出自とする人気ストリーマーの一部は、2010年代中ごろのニコニコ生放送に始まり、OPENREC.tvやTwitchがスタートしたばかりだった2010年代後半にも同じく配信をしていた。それもあり、「同じシーンで戦う者同士」という意識が少なからずあったように見える。

 しかし、これは長く活動している配信者に限った話であり、ここ数年でデビューした者にとっては、お互いに存在を認知してはいるものの、主戦場としているゲームジャンルが違うためなかなか交流を深める機会がなかった。

 そしてここ数年のコロナ禍において、Crazy Raccoonが中心となりVTuber・FPS出身ストリーマーを巻き込んだ盛り上がりが生まれた。今回の盛り上がりをみていると、『ストリートファイター6』を切り口にして「次は格ゲーコミュニティが接続していく」、そのような見取り図が見えてくる。

 実際この数ヶ月の盛り上がりを通じて、「格ゲーコミュニティにも面白い配信者がいる!」とVTuber・FPS出身ストリーマーの視聴者が新たな発見をするだけでなく、格ゲーコミュニティの面々もにじさんじホロライブといった有名VTuberに密接に触れることにもなった。参加するゲーマーやストリーマーだけでなく、彼らを応援する視聴者も同様にだ。

 Crazy Raccoonに所属することになったどぐらが、ホロライブ獅白ぼたんとした会話のなかで、「隣国のお姫様をもてなすように」と表現していたが、これは笑いを狙いつつもかなり的を射た表現であろう。

 その後どぐらは獅白との会話のなかで、格ゲーコミュニティの過去を切々と語っている。「ウメハラ人気を格ゲー人気と勘違いして、格ゲー村が縮小してしまった」と。格闘ゲームのコミュニティをいま以上に拡大していくため、新規のプレイヤーには優しく接したいという彼の言葉は、シーンの誰もが同意する意見ではないだろうか。

 また、プロゲーミングチームの視点からみても、格ゲーコミュニティへの参加は大きな利点とみているようだ。REJECTとCrazyRaccoon、両チームともに格闘ゲーム部門を新設する2チームが大会を開催したことは、その重み・方向性を感じるには十分だ。

 リアルサウンドテックでは、関優太、釈迦の盟友にして現在はREJECTのCEOを務めるYamatoNとこく兄へのインタビューを実施している。彼らの言葉をぜひ読んでほしい。

 世界的に見ても有数な選手層を誇りながら、どこか閉鎖的であったようにも感じられるこれまでの日本の格闘ゲームコミュニティ。しかし、『ストリートファイター6』をめぐる関係者の発言の数々、動きを見ていくと、その門戸はすでに開かれたといっていいだろう。

 今後は、それぞれの人脈がどのように接続し、リスナーなどに受け入れられて広まっていくのか、なにより『ストリートファイター6』がどこまでゲーマーやストリーマーに刺さっていくのかが注目される。『ストリートファイター6』は、今後のストリーマーシーンの盛り上がりやゲーミングチームの浮沈にも関わってくる、重要なゲームタイトルとなりそうだ。

(文=草野虹)

プレスリリースより