厚生労働省から『国民生活基礎調査』2022年調査の結果が発表されました。それによると日本における貧困線は127万円。このラインを下回る相対的貧困率は15%ほどでした。意外に身近な貧困問題。今回は「働いても働いても貧困状態」の人たちの実態についてみていきます。

貧困かどうかのボーダーラインは「月10万5,822円」

貧困かどうかの境目である貧困線。これは世帯の可処分所得(収入から税金・社会.保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した所得である、等価可処分所得の中央値の半分の額です。

「世帯の可処分所得÷世帯人数」ではなく、なぜ平方根なのか、疑問ですが、厚生労働省では以下のように説明しています。

世帯の可処分所得はその世帯の世帯人員に影響されるので、世帯人員で調整する必要があります。最も簡単なのは「世帯の可処分所得÷世帯人員」とすることですが、生活水準を考えた場合、世帯人員が少ない方が生活コストが割高になることを考慮する必要があります。このため、世帯人員の違いを調整するにあたって「世帯人員の平方根」を用いています。

【例】年収800万円の4人世帯と、年収200万円の1人世帯では、どちらも1人当たりの年収は200万円となりますが、両者の生活水準が同じ程度とは言えません。光熱水費等の世帯人員共通の生活コストは、世帯人員が多くなるにつれて割安になる傾向があるためです。

出所:厚生労働省『国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問』より

貧困線以下では、統計上、生活を維持できない水準となりますが、厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査の概況』によると、日本における貧困線は127万円。1ヵ月で10万5,822円。この水準を下回る「相対的貧困率(貧困線に満たない世帯員の割合)」は15.4%です。低収入の傾向が強い母子世帯や、収入は公的年金だけとなりがちな高齢者世帯などで貧困状態に陥るケースが多く、問題視されています。

「貧困=母子世帯」「貧困=高齢者世帯」といったように、貧困と共に語られる人たちには、支援体制も整いつつありますが、忘れられがちなのが、貧困とセットに語られることが少ない人たち。現役世代で仕事をしていても貧困……そんな人たちたちです。いわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる人たちで、フルタイムで働いているにも関わらず、収入が生活保護の水準以下という低所得者層。実際に貧困線を割っていることが条件ではありませんが、「働いても、働いても、生活は楽にならず」という人たちは、この日本には意外と多くいます。

働いても働いても生活保護水準以下…「ワーキングプア」の現実

たとえば、東京都23区の場合について考えてみます。20~40歳ひとり暮らしであれば、生活費の最低水準となる「生活扶助基準額」は7万6,420円、家賃の最低水準となる「住宅扶助基準額」は5万3,700円。つまり「東京でひとり暮らしするには、最低13万円ほどないと生きられませんよ」ということになります。これを月収換算にすると17万円、年収だと200万円以下であれば、「ワーキングプア」だというわけです。その割合、働いている人の約13%。7人に1人程度は「働いているのに貧困」という人たちです。

ワーキングプアの代表で語られるのが、フルタイムで働く契約社員や派遣社員といった非正規社員。正社員に比べて低収入の傾向にあるため、たびたび話題にあがります。また難関大学・大学院卒でも企業への就職が実現せず、無職や非正規社員となっている人たちも。さらに大学や研究機関への就職を希望して、非正規の研究員になる、いわゆる「ポスドク」とされる人たちも低賃金で知られています。

一方で、大卒・正社員であっても「ワーキングプア」は存在します。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、大卒・正社員、20代前半の平均給与は月23.5万円、20代後半で27.3万円。東京都23区生活保護水準の月収17万円を下回るのは、20代前半で0.5~2.2%、20代後半で0.5~1.5%。大学を卒業したばかりであれば、50人に1人はワーキングプア、という可能性があります。

若年層の貧困問題は実態が見えづらいという課題があります。たとえば貧困と聞いて思い浮かべるのは路上生活者ですが、そのような生活をおくる若者を見たことがある人は少ないでしょう。それゆえ「若い人で貧困問題に直面している人なんているの?」と多くの人は考えるわけです。しかし、たとえば実家暮らしの若者の場合、本当は貧困の水準でありながら、毎日、手作りのご飯を食べ、暖かい布団で寝ています。なんの問題もないかもしれませんが、ひとたび、実家を離れなければならなくなったときは悲惨です。家賃を払ったら、残り7万円。これで電気代、水道代、ガス代、携帯電話代と、光熱・通信費などを払ったら、残りわずか。「お金がないから飯は抜きだな……」そんな生活に陥るわけです。

また若者の生活をひっ迫させているのが、奨学金の返済。平均月返済額は1.7万円ほどだといわれていますが、ひとり暮らしで月収17万円では恐ろしいほどの負担。日本学生支援機構(JASSO)の奨学金について、借りた人の約3割もの人が、延滞を経験したことがあるといわれています。

――お金がありません!

そんなSOSがなかなか届かないなか、自力でなんとかするしかない……そう考えるなら、まずは手っ取り早いのが転職。いわゆるブラック企業勤務、かつ低賃金で困窮しているなら、その会社で長いこと働くメリットはほぼないでしょう。長く働くだけキャリアの無駄遣いとなるので、若いうちに転職を実現させることが最良の道だといえます。

また副業を始めるのもひとつの手。もちろん、現職の就業規則に抵触しなければ、という条件付きであるものの、最近はクラウドソーシングサイトの充実により、仕事終わりに気軽に在宅ワークを始められる環境が整いつつあります。

いま、国は異次元の少子化対策として、なんとか子どもを増やそうと躍起になっているところ。若年層の貧困問題を深刻化させてしまうと、経済的な理由から子どもを持てない人が増えることになり、少子化がさらに加速してしまいます。若者の貧困は、日本の未来を左右する大問題なのです。

(写真はイメージです/PIXTA)