RETRORIRON 1st EP「インナーダイアログ」RELEASE ONEMAN TOUR 2023 TOKYO 追加公演
2023.7.2 Shibuya Spotify O-nest

2月にここO-nestで開催された主催イベント『朝が来るまで』の時は、入口の扉から一歩以上進めずに、超満員の観客の肩越しに音だけを聴くことになった。今回はその反省を生かして開演30分前に入って場所を確保する。レトロリロンの1st EP『インナーダイアログ』リリースワンマンツアー。本公演の東京、大阪、そして今日の追加公演もソールドアウトで、ファーストツアーでいきなりチケットが手に入りにくいバンドになったレトロリロン。期待しかない。

「どうぞよろしく。楽しんでいこうね」

オープニングは、とにかく明るい「カウントダウン・ラグ」のリズムに乗って。心地よいシンコペーションと共にしなやかに弾むドラムとベース、軽快に転がるピアノの旋律の上で、涼音(Vo/AG)の声が伸び伸び響く。ラグタイムのリズムを取り入れた『インナーダイアログ』のリード曲は、予想通りにライブでの乗りも受けも抜群だ。さらに、飯沼一暁(Ba)の強烈なスラップをフィーチャーし、クールなダンスロック色を強めた「Don’t stop」から、涼音のミュートしたカッティングが最高にかっこいい、アコースティックギターによるファンクロック「Restart?」へ。高いスキルとセンスを兼ね備えた、体が自然に揺れる説得力を持つ音。4人はニコニコ、フロアは乗り乗り、滑り出しは上々。

「東京に来てくれた人、大阪に来てくれた人、今日初めて来る人。この日を選んで遊びに来てくれて、ありがとうございます。みんなでいい1日にしようね」

レトロリロン 6月11日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=垂水佳菜

レトロリロン 6月11日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=垂水佳菜

暗く揺れる青い照明、トラックを同期させたミニマルなリズム。4曲目「それでも生きていたい」で、会場内のムードが少し変わった。永山タイキ(Dr)の繰り出す繊細なリズム、miri(Key)の奏でる独白めいた情緒的なピアノ、ジャズ/フュージョン系のグルーヴィーな曲調。そして、間奏に技巧的な変拍子を取り込んだラテンファンクチューン「エスケープ」。タイキの鬼気迫る高速ドラミングをイントロに配した「Mo-so」は、ドラム、ベース、ピアノがそれぞれのタイム感でリズムを奏で、涼音のアコースティックギターボサノヴァ風のフレーズを弾く。「Slow time lover」は、ミニマルなトラックとエレクトリックピアノ、ギターが奏でる哀愁味が素晴らしい。レトロリロンのスロー/ミドルチューンは、ヒップホップやR&Bの要素が色濃く、メロウアダルトな質感がとても魅力的だ。ソングライター・涼音の天性のセンスの良さに加え、音楽学校で理論と技術を学んだメンバーだからこそできる、4人だけの独特のグルーヴ。

「みんなが見に来てくれるから、追加公演をソールド出来ました。本当にありがとうございます。楽しんだもん勝ちなんで、もっと楽しんでいきましょう」

レトロリロン 6月11日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=垂水佳菜

レトロリロン 6月11日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=垂水佳菜

Document」は、EP『インナーダイアログ』の中でもとりわけ異彩を放っていた1曲。エレクトロな音色から躍動する生演奏へと展開する、作り込まれた音源をライブで再現する演奏力は本物だ。飯沼の超重低音ベースが空気をズンズン震わせ、涼音がフロアを煽り、フロアの全員を巻き込んだコーラスで盛り上がる。さらに、miriの素晴らしいピアノソロをイントロに配したアコースティックファンクロック「きれいなもの」から、飯沼のエレクトリックギターばりのベースソロが光るメロディアスなロックチューン「コタエアワセ」へ。レトロリロンは歌詞をしっかり聴くべきバンドだが、ライブでは演奏の面白さと高揚感にまず耳が行く。満場一致の手拍子が推進力になって気持ちがぐんぐん高まる。ライブは早くも終盤だ。

「音楽で誰かを救うなんて大層なことは考えないけれど、音楽はみんなのちょっとした支えになったり、救いになったりするもの。4人で鳴らしてる音楽が、みんなの“ちょっとした”になったらいいなと思って、これからも続けていきます。良かったらついてきてください」

涼音(Vo/AG) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

涼音(Vo/AG) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ


飯沼一暁(Ba) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

飯沼一暁(Ba) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

みんなで一緒に前に進んで行こうねーー。声高なメッセージではなく、親しい友達に語り掛けるような静かな口調だからこそ、涼音の言葉に確かな説得力が宿る。『インナーダイアログ』の中でもとりわけキャッチーで開けたメロディ、しかし切実にエモーショナルな情感を奏でる「深夜6時」。レトロリロン流のゴスペルバラードと呼びたい、美しいメロディと誠実な自問自答の言葉を持つ「ひとつ」。盛り上がりよりもしっかり聴かせる2曲が、今この瞬間にきっと誰かの“ちょっとした”支えになっている。ウィズ・ア・リトルヘルプフロム・レトロリロン。

「自分のドラムで、みんなの心が動いてくれるのがとても嬉しくて。素敵な空間を作ってくれてありがとうございます」(タイキ
「ほんとに人来るのかな?と思ってたけど(笑)。(結成から)3年経って、こんなに知ってくれる人が増えてくれて嬉しいです」(miri)
「大阪のワンマンでめっちゃ間違えて、へこみました。でも今日はこんなに来てくれたおかげで、ちょっとしかミスらずに済みました!(笑)」(飯沼)

miri(Key) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

miri(Key) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ


永山タイキ(Dr) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

永山タイキ(Dr) 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

本編の緊張から解き放たれたアンコールは、メンバーの表情も言葉も実に明るい。「みんなで頑張ろうぜこれからも」と、完全に素に戻ったタイキの言葉に、「そういうのは終わってからやろうぜ」と照れ笑いする涼音。レトロリロンは涼音の作詞作曲、プロデュース能力と歌唱力が絶対の中心だが、メンバーの決意と存在がなければここまで来れなかったと強く思う。その一番新しい成果が、ここで初披露された新曲「ヘッドライナー」だ。飯沼のよく弾むベースがリードする、明快で心地よいダンスグルーヴ。初めて聴くのに決めの手拍子もばっちりハマる、わかりやすい高揚感たっぷりの1曲。そしてお別れの曲はしっとりと、AORバラードの香り高い「Life」を。ラグタイムからシティポップファンクロックからヒップホップジャズ/フュージョンからエレクトロ、多彩な音楽言語を駆使して魅せるレトロリロンのライブ。期待以上だ。

レトロリロン 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

レトロリロン 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ

ライブ後に挨拶を交わしたメンバーは、「ワンマンのペース配分がつかめてきた」と十分な手ごたえを感じていた様子だった。さらにキャパシティを上げて、次のツアーの準備も着々と進んでいると聞く。ライブ1本ごとに成長してゆくのが目に見える、伸びしろしかないバンド。今のレトロリロンを見れるのは幸せだ。


文=宮本英夫

レトロリロン 7月2日Shibuya Spotify O-nest公演 撮影=スエヨシリョウタ