※本記事は、有限会社e.K.コンサルタント代表取締役・森康彰氏の『地方で働き、地方で生きるという選択』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋・再編集したものです。

せっかくなら地方で起業を目指そう

地方企業で働くこととベンチャー企業で働くことは人・モノ・金が足りていないなかでも結果を出さなければならないという共通点があります。異なる点は、地方企業は現状維持で甘んじている企業が多く、ベンチャー企業は成長発展を最優先しているという点です。

もちろん目標はあくまで、自らの望む生活を実現すること、あるいは“絶対的な幸せ”をつかみ取ることです。そのための手段の一つとして起業をお勧めしているわけで、起業そのものが目的・ゴールではありません。

ただし、地方に転職してそこで頑張れば頑張るほど、おそらく仕事に対して自分はこうしたい、ああしたい、という気持ちがどんどん湧いてくるはずです。これは事業意欲になりますから、そうすると自然と独立して自分は地方のこんな問題を解決するビジネスを立ち上げようという気持ちになる可能性は高いと思います。

現に私がそうでした。今、勤めている会社を改革していくのとゼロから自分で会社を立ち上げるのではどちらが良いか考えてから独立を選択しました。他人を変えていくのはいちばん難しいことだと理解していたからです。ここでは、地方に移住してから起業するまでのステップを記していきます。

地方での起業は必要とされる仕事を探す

地方を改善することができるのは「よそ者、若者、ばか者」であるといわれます。しがらみの多い地域社会に新風を吹き込み、地方の活性化や変革をもたらす可能性をもった人材、あるいは、常識やステレオタイプにとらわれずに、新鮮な発想をすることのできる人材を意味すると考えてよいと思います。起業する以上、その地域に必要とされるものでなければうまくいかないでしょう。ただし、地方で起業するのはゼロイチである必要はないのです。

東京には存在して自分も利用していて便利だったサービスをその地域になじむようにアレンジするのもいいでしょう。すでに成功しているビジネスモデルを真似していけばいいのです。上場を目指すわけではないのです。自分の身の回りの人たちが喜ぶことや、困っている人の問題解決ができればよいのです。そのために自分は何ができるかを考え、それをするためには何ができるようになればよいかを考え、その資金を準備するのです。

ただし、そこに嘘偽りがあってはいけません。稲盛さんの言葉に「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉があります。善とは、普遍的に良きことであり、普遍的とは誰から見てもそうだということです。自分の利益や都合、格好などというものでなく、自他ともにその動機が受け入れられるものでなければなりません。また、仕事を進めていくうえでは「私心なかりしか」という問いかけが必要です。自分の心、自己中心的な発想で仕事を進めていないかを点検しなければなりません。動機が善であり、私心がなければ結果は問う必要はありません。必ず成功するのです。(『京セラフィロソフィ』より抜粋)

なかなかこの境地まで達するのは難しいですが、「自分が面白いと感じた」「儲かりそうだと思った」ではうまくいかないのが現実です。その地域に本当に必要とされるサービスであれば必ず成功します。

事業承継も視野に入れてみる

地方でも、後継者不在により事業承継ができない企業が増えています。経済産業省の発表しているデータでは2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は約245万人であり、そのうち約半数の127万人が後継者未定だとされています。もし、この状況が解消されなければ、2025年までに累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると、経済産業省は試算しています。

後継者不在の企業といっても、赤字で倒産寸前というところは少なく、その多くは立派に黒字経営を続けており、なかには地域に不可欠な製品やサービスを提供し高い利益を上げている企業も少なくないのです。そういう企業が、創業経営者に子どもがいない、あるいは社内で後継者を育成してこなかったなどの理由によって、事業承継ができずに消滅していってしまうとすれば、地域経済にとって、ひいては日本経済全体にとっても、大きな損失です。

国としてもこの事態を座視しているわけではなく、後継者不在企業の第三者承継、つまりM&Aを推進するべく、「中小M&Aガイドライン」を作成するなどして啓蒙活動に力を入れています。そのような状況で、M&A仲介会社も活発な営業活動をしています。

実際、私のところにもM&A仲介会社の営業担当者がよくやってきます。もちろん私は会社をM&Aで売却するつもりはまったくありませんが、それは別として個人的な感覚でいえばM&A仲介会社は手数料が高額であり、かつ、必ずしもその会社のことを本当に理解して会社や経営者に良かれと思って仲介をしているわけではないように感じられます。

一方、後継者不在の企業が増えている状況は、チャンスだととらえることもできます。地方で(本当の意味での)「仕事」を続けて、そこから起業への道に進むことは現実的に可能であり、またわくわくするチャレンジなので、やる気のある方には是非取り組んでほしいと思います。

しかし、自分でゼロから事業をつくることだけが、地方で成功する道ではありません。きちんと利益を出して地域に貢献している優良企業が、後継者難で悩んでいたり、継続を危ぶまれていたりするのであれば、その経営を引き継ぐことも一つの道として有意義なのではないでしょうか。

もちろん、それにはその企業でしっかりとした「仕事」を何年も続けて、企業を理解し、社内外の信頼を得ることが必要です。経営の勉強も必要でしょう。しかしそういう過程を経て信頼を得られたのちであるなら、創業経営者にとっても、また、他の従業員、取引先や顧客などにとっても、誰とも知らない第三者が経営者になるより、ずっと良い形での承継が可能になるでしょう。いずれにしろ、地方で働くことはその先に無限の可能性が広がっているのです。

森 康彰

有限会社e.K.コンサルタント 代表取締役

(画像はイメージです/PIXTA)