グローバル化が進み、日本でも在留外国人の数は徐々に増えています。そのなかで問題となっているのが、外国人の「不法滞在」です。しかしその裏側には、不法滞在をしてでも働き続けなければならないという、過酷な現実があるといいます…。本記事では、弁護士である明石順平氏が、著書『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)より、日本では報道されない外国人労働者の実態について解説します。

本連載の登場人物

太郎(以降、太):この先日本で働いていくことに希望はあるのかどうか、将来に不安を感じている新社会人。日本経済の現状を知るため、モノシリンとともにお金の仕組みについて学んでいる。

モノシリン(以降、モ):経済についてなんでも知っている妖怪。データから日本経済の未来を読み解くことができる。

増える外国人労働者

 コロナ禍の影響が出る前の2019年末の数字で在留外国人の傾向を確認してみよう。外国人が日本に在留するためには、在留資格が必要になるが、まずはその構成比から見てみよう。

 このように、永住者の次に多いのが技能実習で14%、次に留学で11.8%。2つ合わせると25.8%だから、全体の約4分の1を占める。君が町で見かける外国人の4人に1人はこの資格のどちらかを持っているということだ。

なぜこの2つが多いかというと、特別な知識や技能が必要ない「単純労働」をさせるために、このいずれかの資格が使われてきたからだ。2019年に「特定技能」という在留資格が新設されるまでは、単純労働のための在留資格がなかった。そこでこの「技能実習」と「留学」が、外国人に単純労働をさせることを可能にする抜け道として利用されていた。

まずは留学生から説明しよう。外国人留学生は、出入国在留管理庁長官から許可を受ければ、1週間に28時間を上限として、風俗営業を除き、働いて報酬を得ることができる(出入国管理及び難民認定法〈以下「入管法」〉19条2項、同法施行規則19条5項1号)。留学生といっても学費や生活費を稼ぐ必要がある人もいるので、このようなルールがある。

この「1週28時間以内なら外国人留学生でも日本で働ける」というルールを利用し、人手不足に悩む業界が、「留学生」のアルバイトを多用している。高度な専門的知識・技術を要しない単純労働をするためだけだと在留資格が得られないため、「留学生」ということで在留資格を得るんだ。

この留学生は多くの場合、「日本語学校」の留学生だ。日本語教育機関の在籍留学生数は2011年から日本学生支援機構の調査対象になったが、同機構の調査によると、同年の在籍者数は2万5622人。そして、2018年は9万79人となっており、わずか8年間で約3.5倍に増えた。

留学生の現実

太 じゃあコンビニとかでよく見かける外国人のアルバイトって、日本語学校の留学生がほとんどなのかな。

 おそらくそうだろう。日本語学校を利用した留学生受け入れの仕組みは次のとおりだ。まず、送り出し国の側に、留学生と日本語学校の仲介をするブローカーがいる。ブローカーは「日本に行けば毎月20万~30万円は稼げる」などと言って留学生の募集をする。日本円でそれぐらい稼げば、発展途上国の人々にとっては大金であり、家族の暮らしを少しでも楽にしたいと切実に願う人々が留学生募集に応じる。

しかし、留学には、初年度の日本語学校の学費、ブローカーへの仲介手数料、渡航費などを含めて大金が必要になる。150万~200万円要求されることもあるらしい。これは発展途上国の年収の数年分に相当する。当然そのような大金は用意できないので、家族は家や土地を担保に入れて借金をし、お金を工面する。こうやって大変な思いをして、やっと日本への留学が叶う。

ところが、日本に来てみると、話が違う。まず、「週28時間」という就労時間の上限について説明されていない場合がほとんどだ。週28時間では、学費も借金返済もままならないので、やむを得ず上限を破り、入管法違反で摘発されるリスクを負いながら就労することになる。

就労先も見て見ぬふりをする。給料からは、借金や寮費等が天引きされ、留学生の手元にはわずかな額しか残らない。そこで帰ろうと思っても、莫大な借金があり、帰国するとその返済ができなくなることから、帰れない、という状態に追い込まれる。

ブローカーは留学生からも日本語学校からも手数料を得られ、借金の利息も手にする。就業先は人手不足を解消できる。日本語学校は留学生の学費で儲かるうえ、就業先からリベートを得ることもある。

ブローカー、就業先、日本語学校の3者が潤う一方、だまされた留学生は借金返済のため日本で働き続けるしかなくなる。留学生たちは言葉もよく分からず、非常に弱い立場にあるので、労働基準法をはじめとする労働関連の法規制の無視が横行し、過酷な労働環境にさらされる。

そして、日本語学校を卒業すると、「留学生」という在留資格を維持するため、今度は専門学校や大学に進学する。日本語学校での在学期間では到底借金を返済し切れないからね。少子化で収入確保に悩む専門学校や大学は、留学生を喜んで受け入れる。

しかし、留学生たちの中には、そこを卒業してもよい就職先がない、睡眠不足で勉強についていけない、学費を払えないなどといった理由で失踪していく人たちもいる。失踪して退学となれば在留資格を失うので、不法滞在者ということになってしまう。それでも、母国には帰れない。膨大な借金があるからだ。だから不法滞在者のまま、借金返済のために働き続けることになる。

留学生の厳しい実態が日本では報道されないワケ

 そんな現実があったんだね。知らなかった……。

 それはあまり報道されていない影響もあるだろう。新聞販売店が外国人留学生を利用していることがその背景にある。新聞各社には、大学などの学費を援助し、住居も提供する代わりに、学生に新聞配達などをしてもらう「新聞奨学会」という制度がある。

外国人に対してもこの新聞奨学生制度を利用して日本に留学してもらい、新聞配達などをさせている。少子化の進行に加え、新聞配達業務は過酷なので、最近は日本の若者が集まらない。だから外国人留学生をターゲットにしている。

留学生たちは朝刊に加え、夕刊も配達するので、どう頑張ってもその労働時間は週28時間には収まらない。では28時間を超える部分の報酬についてはどうするのかというと、払わない。払ってしまうと28時間超の労働をさせていることがはっきりしてしまい、入管法違反となるからだ。

留学生たちは過酷な長時間労働に加え、ときに販売店の日本人従業員から暴力を振るわれることもあるという。学費の援助や寮の提供がある分、ブローカーからの借金を抱えて来日するほかの留学生よりはまだましかもしれないが、違法な状況で働かされていることに変わりはない。

 汚いね。自分たちも同じことをやっていて後ろめたいから、報道したくないということだね。

明石 順平

弁護士

(※写真はイメージです/PIXTA)