23年3月末、個人金融資産残高が2四半期連続で過去最高を更新した一方、家計は資金不足に転じました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が、23年1-3月期の資金循環統計について解説します。

1.個人金融資産(23年3月末):前年比21兆円増、前期末比4兆円増

2023年3月末の個人金融資産残高は、前年比21兆円増(1.1%増)の2043兆円となった。過去最高であった昨年末の水準を上回り、2四半期連続で過去最高を更新した1

年間で見た場合、世界的な金融引き締めに伴う海外株の下落等を背景に時価変動2の影響がマイナス0.3兆円(うち国内株式等がプラス5兆円、投資信託がマイナス5兆円)と冴えなかったものの、資金の純流入が22兆円あり、個人金融資産残高の増加に寄与した。

  四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年12月末)比で4兆円増と2四半期連続で増加した。

例年、1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことから資金の純流出となる傾向があり3、今回も13兆円の純流出があった。一方、この間に景気回復期待などから株価が上昇し、円相場も若干円安に振れたことで、時価変動の影響がプラス17兆円(うち国内株式等がプラス12兆円、投資信託がプラス3兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。

なお、家計の金融資産は、既述のとおり1-3月期に4兆円増加したが、この間に金融負債が3兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は12月末比1兆円増の1660兆円となった(図表5)。

ちなみに、足元の4-6月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年、資金の純流入が進む傾向がある。さらに、4月以降は国内株が急上昇しているうえ、円相場も大幅な円安となっており、時価変動の影響も大幅なプラスになっていると推測される。

従って、足元ならびに6月末時点の個人金融資産残高は3月末からさらに大きく増加している可能性が高い。


1 今回、年に一度の訴求改定に伴い、2005年以降の計数が遡及改定されている。 2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。 3 直近5年(2018~2022年)の1-3月期の平均は5兆円の純流出。

2.家計の資金流出入の詳細:リスク性資産への投資は緩やかだが着実に継続

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年4同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となったが、流出の規模は9.6兆円と前年同期(4.9兆円)を上回り、例年と比べても大きくなった。

賃金が伸び悩む中、経済活動再開に伴うサービス消費の回復や物価上昇の進行が取り崩しを促進したと考えられる。

内訳では、前年同期や一昨年同期に純流入となっていた流動性預金(普通預金など)が1.7兆円の純流出に転じている。また、定期性預金は前年並みである5兆円の純流出となった(図表7)。

定期性預金からの純流出は29四半期連続となり、この間の累計流出額は89兆円に達している。

この結果、定期性預金が個人金融資産に占める割合は18.2%にまで低下している(図表8)。預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。日銀は昨年12月に長期金利操作目標の許容上限を引き上げたが、今のところ、定期預金金利の上昇は限定的に留まっている。定期性預金の残高は未だ372兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が続くだろう。

一方、流動性預金はこれまで資金流入傾向が続き、個人金融資産に占める割合を高めてきたが、直近1-3月期については、既述の通り、資金流出が大きかったことから、個人金融資産に占める割合も若干低下している。

次に、リスク性資産への投資フローを確認すると、代表格である株式等が0.6兆円の純流入(前年同期は0.4兆円の純流入)、投資信託が0.5兆円の純流入(前年同期は1.3兆円の純流入)となった(図表6)。

それぞれ、純流入のモメンタム(勢い)が強まっているわけではないものの、従来高齢化に伴う相続に絡む売却などで純流出が優勢となっていた株式は2021年以降の流入額が2.5兆円と明確なプラスになっている。また、投資信託の純流入は12四半期連続で、この間の純流入額は13兆円に達するなど息の長い資金流入が続いている。積み立てNISAなど積み立て投資(確定拠出年金分は別枠)の普及が寄与しているとみられる。

その他リスク性資産では、外貨預金が小幅ながら9四半期ぶりに純流入(77億円)に転じている点が目立つ(図表9)。

従来は円安に伴う利益確定的な解約が優勢であったが、円相場がやや落ち着きを取り戻すなかで海外の高金利獲得を目的とする流入が優勢となった可能性がある。対外証券投資は0.1兆円の純流出となったが、確定拠出年金内の投資信託は堅調な純流入(0.2兆円)を続けている。

個人金融資産全体からすれば未だ限定的な動きではあるが、家計のリスク性資産への投資は緩やかながらも着実に進みつつある。国内での物価上昇加速やNISAや確定拠出年金といった投資優遇制度の普及が、リスク性資産への投資の追い風になっているとみられる。 来年にはNISAが拡充されることから、それに先駆けて家計の投資意欲向上が見られるかが注目される。 


4 21年1-3月はコロナ禍における消費低迷の影響で例外的に純流入となっている。

3.その他注目点:家計が資金不足・企業が資金余剰に転じる、日銀の国債保有割合が最高に

1-3月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、まず、従来資金余剰であった家計部門が2.3兆円の資金不足に転じた点が目立つ。家計が資金不足となるのはかなり稀なことで、消費増税前の駆け込み需要が発生した2014年1-3月以来のこととなる。賃金が伸び悩むなか、経済活動再開に伴う消費の回復が続いたほか、物価上昇が進行したことが資金不足に繋がったと考えられる。

一方、昨年10-12月期に資金不足となっていた民間非金融法人は9.9兆円の資金余剰に転じている。

原材料価格上昇が一服する一方で販売価格への転嫁が進んだことや、経済活動再開に伴う売上の回復が影響したと考えられる。

なお、政府部門の資金不足額は3.5兆円(昨年10-12月期は7.9兆円の資金不足)、海外部門の資金不足額は1.7兆円(10-12月期は2.8兆円)とそれぞれ縮小している。

3月末の民間非金融法人の借入金残高は488兆円と昨年12月末(487兆円)からほぼ横ばいで推移した一方、債務証券の残高は88兆円と12月末の91兆円から3兆円減少した(図表11)。このように、有利子負債が増加したにもかかわらず、民間非金融法人の現預金残高は338兆円と12月末の326兆円から大きく増加し、過去最高を更新している。

例年、1-3月期は現預金が増えやすいという季節的な傾向があるうえ、既述の通り、価格転嫁の進展や経済活動再開に伴う売り上げの増加が寄与したとみられる。

なお、1-3月期の民間非金融法人による対外投資(フローベース)を確認すると、対外直接投資は2.9兆円と、昨年10-12月期の4.2兆円からやや縮小したが、堅調な投資フローが続いている(図表12)。また、対外証券投資は1-3月期に5.1兆円(10-12月期は0.4兆円)と大幅に増加している。

3月末の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1230兆円と、昨年12月末(1198兆円)から増加した。

主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高が582兆円と12月末(555兆円)から27兆円も増加し、全体に占めるシェアも47.3%(12月末は46.3%)へと上昇、過去最高を更新した。さらに、このうち1年超の長期国債に限れば、日銀のシェアは53.3%(12月末は52.0%)まで引きあがる。 

1-3月も日銀のさらなる金融緩和縮小観測などを受けて金利上昇圧力が強い状態が続き、日銀が指し値オペなどで抑制を続けたことが、国債保有高の大幅な増加に繋がった。

なお、海外部門の保有高は12月末から1兆円減少の178兆円となり、シェアも14.5%(12月末は14.9%)へと低下した。海外投資家による根強い日銀緩和縮小観測が背景にあったものとみられる。

ちなみに、銀行など預金取扱機関の保有高は137兆円と12月末比で3兆円増加した。増加は4四半期ぶりとなる。全体に占めるシェアは11.2%(12月末も同じ)横ばいであった。

(写真はイメージです/PIXTA)