2025年、いわゆる「団塊の世代」がすべて75歳の「後期高齢者」に突入します。その子の世代はちょうど「就職氷河期世代」のボリュームゾーンにあたり、親の介護の問題が襲い掛かります。そこで重要性を増してくるのが、介護と仕事を無理なく両立できるようにするための「給付」を軸とした「公的保障」の制度です。現状どうなっているのか、どのような問題があるのか、制度の内容と課題について、整理して解説します。

はじめに

統計によれば、就職氷河期世代の非正規で働く人々の平均月収は、「40歳~44歳」で21万円、「45歳~49歳」で20.9万円、「50歳~54歳」で21.2万円、「55歳~59歳」で21.0万円となっています(厚生労働省令和3年(2021年)賃金構造基本統計調査」参照)。

これは、手取りにすると月約16万円くらいということになります。多少の地域差はありますが、食べていくのに精一杯という水準です。

その状態でもし、親が介護状態になれば、さらに、介護の負担が重くのしかかることになります。

そこで、介護と仕事を無理なく両立できる体制の整備が急務ですが、現状、給付を中心とした公的制度はどのようになっているでしょうか。

介護休業給付金の制度

まず、「介護休業給付金」の制度があります。これは、家族の介護のために仕事を休業する場合に雇用保険から給与の約3分の2(67%)を受け取れる制度です。

家族1名あたり93日を限度に、計3回まで受給することができます。この「93日」という期間は、介護に関する長期的方針を決めるために必要と想定された期間です。

◆介護休業給付金を受けられる条件

介護休業給付金を受けられる条件は以下の2つです。

【介護休業給付を受けられる条件】

1. 常時介護を「2週間以上」必要とする状態にある「家族」を介護するために休業すること

2. 期間の初日と末日を明らかにして事業者に申し出を行うこと

「家族」は、配偶者のほか、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫をさします。配偶者は内縁(事実婚)を含みます。

また、「2週間以上」という数字は、勘違いしやすいので注意が必要です。これは、対象となる家族が「常時介護を必要する状態」の期間が2週間以上だという意味です。「介護のために休業する日数」ではありません。

介護のために休業する日数は、2週間未満でもよいのです。

たとえば、家族の介護をするために2人で交代して合計2週間以上取得する場合や、他の人に頼んで何日か代わりに介護してもらう場合も、介護休業給付金の対象となります。

「常時介護を必要とする状態」は、以下のいずれかです。

【常時介護を必要とする状態とは】

・要介護2以上の認定を受けている

・【図表1】の状態(1)~(12)のうち、「2」が2つ以上、または「3」が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続している

介護休業給付金は雇用保険に基づく制度ですので、雇用者の就業規則に規定されていなくても、要件をみたしていれば受け取ることができます。労働者から申し出があった場合には、雇用者は拒否が許されません。また、介護休業を取得したことを理由に不利益な扱いをすることも禁じられています。

◆介護休業給付金の受給資格

介護休業給付金の受給資格は、「正社員」と「非正規雇用労働者」(パート、アルバイト、派遣社員等)とで異なります。それぞれ以下の通りです。

【介護休業給付金の受給資格】

1.正社員:引き続き雇用された期間が1年以上

2.非正規雇用労働者:労働契約の期間が、介護休業開始予定日から93日経過日から6ヵ月後までに満了することが明らかでない

なお、非正規雇用労働者については、以前は正社員と同様に「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件をみたす必要がありました。しかし、制度改定により、2022年4月1日から撤廃されました。

これにより、制度上は、非正規雇用労働者も介護休業給付金を受けやすくなったということができます。しかし、そもそも雇用形態自体が不安定であることを考慮すれば、なお実効性に疑問があるといわざるを得ません。

介護「休暇」の制度はあるが、給付の制度は未整備

次に、「介護休暇」の制度です。介護休業給付金のところで述べた「介護休業」とは別に取得できます。

これは、家族が2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態にある場合に、介護のために取得できる休暇です。

対象となる「家族」の範囲と「常時介護を必要とする状態」の意味は、介護休業制度と同様です。

介護休暇は、1年度につき、家族1名あたり最大5日間取得できます。介護の対象となる家族が2名以上の場合は年間最大10日間取得できるということです。

また、1日単位だけでなく、時間単位で取得することもできます。

介護休暇の活用が想定されているケースは、家族の世話だけでなく、通院等の付き添いや、介護サービスの手続の代行、ケアマネジャーとの短時間の打ち合わせを行うといったケースです。

介護休業制度と同じく、法律上の制度なので、勤務先の就業規則に規定されているかいないかにかかわらず、取得が認められています。

労働者から申し出があった場合には、勤務先は拒否できません。また、介護休暇の取得を理由として不利益な扱いをすることも禁じられています。

しかし、介護休業と異なり、有給か無給かは勤務先の規定によります。また、以下の労働者は対象外です。

【介護休暇の対象とならない労働者

・入社6ヵ月未満の労働者

・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

これらのことは、特に、非正規雇用労働者にとっては、厳しいといわざるを得ません。

公的制度の速やかな拡充が求められている

今後、高齢化の進行により、仕事と家族の介護の両立の問題はさらに深刻化することが予想されます。

そんななかで、上述のように手取り平均16万円で「食べていくのがやっと」「自分自身を養うのが精一杯」の非正規労働者にとっては、過酷な負担が発生することになります。

せめて、介護休業給付金については、最低でも手取りの満額を保障するとか、介護休暇の場合にも給付金を受け取れるとかの対応をとらなければ、取り返しのつかないことになりかねません。

この「就職氷河期世代・非正規の親の介護」の問題は、「自己責任」「自助努力」で片づけてはならない問題です。

なぜなら、就職氷河期世代の人々は、他の世代よりはるかに過酷な境遇におかれていたうえに、時の政府の政策もあいまって、過剰なまでに「自己責任」「自助努力」を押し付けられてきているからです。

国会・政府には、雇用形態を問わず、介護と仕事を無理なく両立できる制度を速やかに整備することが求められています。また、国民一人一人にとっても、社会全体の責任として解決するよう、政治部門にはたらきかけることが求められています。

(※画像はイメージです/PIXTA)