フランスの航空会社では、かの「いかめし」のようなユニークな形状をもち、真っ赤なカラーリングが施された飛行機が存在します。今回、その機内やカラーリングの経緯を見聞することができました。

逆プロペラ、3対翼…これだけでも珍機!

日本で空の救急輸送はドクターヘリが一般的ですが、欧州では固定翼機も活躍しています。そのうちの1機、仏のオヨンエアー(Oyonnair)が運航する“空の救急車”、ピアッジオP.180「アヴァンティ」(Piaggio Avanti)は、駅弁としても有名な北海道郷土料理「いかめし」を思わせるユニークな形状と、まるでフェラーリのような真紅をまとっているのが特徴です。2023年6月に開かれたパリ航空ショーで展示された実機を見てきました。

「アヴァンティ」はプロペラ推進のターボプロップ機ですが、胴体最前に「カナード」とよばれる先翼、胴体やや後部に主翼、最後部に水平・垂直尾翼といった3対の翼を配置しています。そして主翼についた2基のエンジンは「プッシャー式」とよばれ、プロペラを翼の後方に備えるスタイルのものが採用されています。

通常、このクラスの飛行機は胴体中央部に主翼、最後部に水平・垂直尾翼を備え、エンジンはプロペラが翼の前方に配置されているのが一般的ななか、そのユニークなデザインは、見る角度によっては、まさに「いかめし」にそっくりです。

「アヴァンティ」はもともとビジネス機として1986年に初飛行しましたが、現在は受注生産のため、海外でも目にする機会は多くなく、レア度が高いと言って良い機体です。日本では陸上自衛隊の連絡偵察機LR-1(三菱MU-2)の後継機に提案されたこともあり、その印象的なルックスも合わせて、名前は比較的は知られていました。

このユニークな形状をもつこの機の内部を見ることができました。

機内はどんな感じ?そしてなぜこんなに赤いのか?

一方、オヨンエアーは患者や移植用の臓器を空輸する航空会社として、1989年に設立。仏リヨン・ブロン空港に本社を置き欧州全域や北アフリカを活動範囲とし、ほかにビジネスジェット機であるセスナ・サイテーションマスタングを運航しているということです。

「アヴァンティ」の機内は、遠くからでも目立つ真紅の外観とは異なり、患者用のストレッチャーが右側に置かれたほかは、座席があるのみ。内装も簡素でした。脇にいたオヨンエアー社員によると、ストレッチャーは左側にも1台乗せることができるそう。パンフレットには医療機器が搭載された写真が載せられていました。見た目は派手でも中身は機能に徹しているということです。

実はオヨンエアーで運航するほかのアヴァンティは、青色やグレーに塗られています。展示したアヴァンティの真紅には特別な意味が込められているといいます。本当に、フェラーリとのかかわりがあるのです。

アヴァンティはかつて販売数が伸びず、1998年フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリ氏の息子ピエーロフェラーリ氏が筆頭の投資グループから、資金援助を受けて生産を再開した経緯があります。

生産が続いたことから、オヨンエアーは2022年のファーンボロ航空ショーで、アヴァンティの改良型エボを発注することができました。こうした経緯もあり、オヨンエアーのアヴァンティはフェラーリでお馴染みの真紅をまとっているということでした。

患者や移植用臓器の輸送をスピーディーに行うのは、スーパーカーの高速性に似たものがあるのでしょう。機体の脇で説明をした社員も、「フェラーリと同じ真紅の機体を使うことができてとてもうれしい」と話していました。

パリ航空ショーに展示されていたオヨンエアーの「アヴァンティ」(加賀幸雄撮影)。