政府が東証プライム市場上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標を掲げたこともあり、女性社外取締役を選任する動きが加速している
政府が東証プライム市場上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標を掲げたこともあり、女性社外取締役を選任する動きが加速している

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタント坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「女性社外取締役」について。

*  *  *

女優のいとうまい子さんと何回目かに仕事でご一緒したとき、テレビスタッフがざわついていた。某社の社外取締役に就任なさったのだった。いとうさんは只者(ただもの)ではない。

収録の空き時間にはさまざまな情報収集を欠かさず、早稲田大学の博士課程で老化学を研究し、さらに会社経営まで。そりゃ普通の人なら芸能界でも生き残っていないけどさ。女性社外取締役の需要が高まるなか、いとうさんの人選は妥当だっただろう。

豊富な経験と卓越した専門性という条件ならば、芸能人やアスリートほど合致する職種はないだろう。最近発表された有名なところだけでも、水野真紀さん(女優)、内田恭子さんや中野美奈子さん(アナウンサー)、高橋尚子さん(ランナー)らが社外取締役に登用されている。

特殊な能力をもつ女性の第2キャリアの候補になったようだ。おっさんばかりの取締役会も華やぐだろうな、とか、事前説明を担当する秘書室社員は緊張するだろうな、とかは私のゲスな勘ぐりにすぎない。

ところで日本企業で働いていると、出世したら部長、実力があれば執行役員、そして運が良ければ取締役というイメージをもつ。

しかし元来、会社は株主のものだ。株主が取締役を選び、取締役会が代表取締役を決める。分離が進んでいない日本では連続体のように思われているが、取締役会は経営の方向を決定し、執行役員は文字通り執行を担う。

そして、社外取締役は取締役会で決定的な役目を果たすべき存在だ。代表的な仕事は経営者の監督であり、時には交代させることもある。さらに経営者の報酬を決め、企業戦略の構築も積極的に進言する。

私が思うに、使い放題の接待交際費、特別な別荘、転籍した子会社から受け取る退職金など、上場企業で慣例化している経営陣の「メリット」は、厳密にチェックすればいくらでも「株主利益の最大化に寄与していない」とみなされるだろう。

女性社外取締役の就任に際し、多くの場合、企業の広報から「うちの社長は報酬をもらいすぎか、外部の目で客観的に厳しく監視してほしい」などと発表されることはなく、「私たちにない視点からご意見をいただきたい」といったプレスリリースがあるのみだ。しかし、実際には独自の発想を会議でしゃべることは、その次の役割にすぎない。

東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードのなかで、社外取締役には他社での経営経験を有するものを含めるべきとした。あくまで「含める」ではあるものの、お飾りではないということだ。

もしかすると、就任のきっかけは経営陣と知り合いだったからかもしれないし、あるいは、女性社外取締役にふさわしい人材が不足しているから請われたのかもしれない。ただ、華やかな広報発表とは裏腹に、本来は重責だ。企業がよからぬ方向に進んだら、株主からの訴訟対象になるしね。社外取締役の選任も株主総会での決議しだいだから、あとは株主に任せよう。

女優の方も多く就任なさっているが、躊躇(ちゅうちょ)することはない。演技でもいいから啖呵(たんか)を切って、予定調和を乱してほしい。これから間違いなく女性の力が必要だ。取締役会が正当な意見でぶっ壊れたら、それこそが企業の刷新だ。女性が企業の助成のままではつまらない。

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。『営業と詐欺のあいだ』など著書多数。最新刊『調達・購買の教科書 第2版』(日刊工業新聞社)が発売中!

政府が東証プライム市場上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標を掲げたこともあり、女性社外取締役を選任する動きが加速している