独自の審美眼を貫く、世界のレジェンドたち。政治家から作家、思想家、建築家、ビジネスエリートまで、彼らが身に着ける品々から、その生き様も見えてくる。いかに洋服を楽しみ、相手への印象を考えて装っているのか、ドレスファッションに精通するスタイリスト四方章敬氏が解説。今回は日本が誇るプロボクサー、“ザ・モンスター”井上尚弥選手。バンタム級の4団体統一王者になった井上尚弥選手が有明アリーナでWBC、WBO世界スーパーバンタム級の“最強王者”スティーブン・フルトンに挑む日も迫ってきた。全階級の選手を格付けしたパウンド・フォー・パウンドPFP)で2位につける井上選手、ファッションスタイルでは首位を奪還できるか!?

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写真=アフロ 協力=四方章敬 編集・文=名知正登

ベルトと小物の“ゴールド”合わせで、チャンピオンらしさ満点

 2020年1月31日、WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者だった井上尚弥選手が東京・九段下のホテルグランドパレスで大橋秀行会長、井上真吾トレーナーと共に記者会見。ジョンリエル・カシメロ選手(フィリピン)とラスベガスでの試合が決まっていたが、新型コロナウイルスによるパンデミックで実現せず。

「グレーの3ピーススーツに白のTシャツを合わせてカジュアルダウンしているのが面白い着こなしです。ストライプの柄がはっきりしているので、がっしりしたボクサー体型を細く見せる効果も狙っているのかも。ベストの一番下のボタンをちゃんと外している点も抜かりない。ボタン全部留めている人も多いですからね。

 クロムハーツのネックレス、腕時計、ベルトのバックルをすべてゴールドで合わせているのもナイス。まとまりが生まれ、ラグジュアリーな雰囲気が漂っています。髪の色チャンピオンベルトのゴールドと合わせたのでしょうか。さすがチャンピオン! ただし、一般の人がマネすると、“強印象”になりすぎて、嫌味な人や悪徳業者に見えてしまうので要注意」。

縦縞のダブルスーツでボクシングスタイル同様、強気に攻める

 WBAスーパー&WBC&IBF統一世界バンタム級王者になった井上尚弥選手が2022年12月13日、東京・有明アリーナでWBO同級王者ポール・バトラー選手(イギリス)と4団体王座統一戦を行うことを正式発表。結果は、11回1分9秒で井上選手のKO勝ち! 全階級を通じて史上9人目、日本で初めてバンタム級初の主要4団体統一王者となった。

「強気なワイドピッチストライプのスーツスタイルがキマっています。主張の強いスーツを着こなせるのはさすが。ダブルブレストでワイドラペルにワイドピッチストライプと、かなり強気なスーツですが、サイズ感がバッチリなのとコーディネート自体がシンプルなのでうまく調和しているように思います。

 スーツのデザインが派手なぶん、白シャツ&無地タイといったシンプルなVゾーンで引き算されています。靴がシンプルなホールカットというのもグッド。井上選手のクレバーボクシングスタイル同様、野性味と知性が同居したスタイルですね」

ムラのあるヴィンテージ調の素材感でセンスの良さをアピール

 2022年6月27日に東京・丸の内の日本外国特派員協会で会見を行い、将来的なビジョンを明かした。この日の会見では井上選手は柔和なベージュスーツに身を包み、35歳まで現役を続ける意向を示し、最終的には無敗でプロキャリアを終えることを理想とした。

「ベージュのスーツに白シャツ、茶タイというベーシックなコーディネートですが、スーツの素材感が目を引きました。ヴィンテージ調の素材感があるスーツは珍しく、おそらくオーダーしたものではないかと推察されます。サイズも体格の良い井上選手にバッチリ合っていますし。

 さきほどのゴールドの色合わせのように、こちらはリングと腕時計のシルバーをカラーリンク。ネクタイがきちんと結ばれていたらもっと良かったのに! 詰めの甘さが実際の試合に出ないといいですが、井上選手の実力を考えたら杞憂に終わりそうですね」

ベージュのスエードスーツを身に纏い、王者の風格と貫禄を見せる

 世界バンタム級で4団体統一王者に輝くという金字塔を打ち立て、2023年1月にすべての王座返上とスーパーバンタム級への転向を発表。そして、来たる7月19日WBCとWBOの世界スーパーバンタム級2団体統一王者のスティーブン・フルトン(アメリカ)と、東京・有明アリーナで相まみえる。

「スエードのスーツにTシャツ、スニーカーといったスポーティなアイテムを合わせた“着くずし”がこなれ感を生んでいます。肩がアンコン、パンツの裾がリブなのでTシャツ、スニーカーとの相性がとても良いですね。通常ナイロン素材などでこういったスーツはあるのですが、スエード素材というのと色味もベージュなのがリラクシンで高級感を漂わせます。

 世界バンタム級で4団体統一王者になる前はアクの強いストライプスーツでこれ見よがしなスタイルが多かったですが、今は世界最強“モンスター”としての余裕が生まれているのかもしれません。フルトン戦も豪快なKO勝ちを期待しましょう!」

 ボクシング界の“光”を一身に浴び続ける井上尚弥選手。高校時代にアマ7冠、プロ転向後は国内最速6戦目で世界王座(WBC世界ライトフライ級)を奪取。2014年12月にWBO世界スーパーフライ級王座を獲得し、史上最速の8戦目で2階級制覇。2018年5月にWBA世界バンタム級王座を獲得し、3階級制覇。2019年にはWBA、IBF世界バンタム級王者になり、同年11月WBSSバンタム級トーナメント優勝。22年6月にWBCバンタム級王座を獲得、同年12月にWBOバンタム級王座を獲得し、アジア・日本人初の4団体統一に成功と、“ザ・モンスター”の異名にふさわしい怪物級の活躍を続けている。

 強敵を倒していくたびに、表に出るときのファッションはさながら減量のように削ぎ落とされ、落ち着きを見せていった。服装で威嚇し誇示するのではなく、拳だけが力を証明してくれるものだと自覚したかのように。2023年7月19日スティーブン・フルトン戦で勝利したとき、さらに研ぎ澄まされたスタイルで現れるのかもしれない。

 

四方章敬(しかたあきひろ)
1982年京都府生まれ。スタイリスト武内雅英氏に師事し、2010年に独立。ドレスファッションに精通し、「LEON」「MEN’S EX」「MEN’S CLUB」など、多くのメンズファッション誌からオファーを受ける敏腕スタイリスト。業界きってのスーツ好きとしても知られ、イタリアナポリまでビスポークに赴いた経験もある。最近はセレクトショップやブランドと共同でウェアのプロデュースを手掛けるなど、活躍の幅を広げている。 

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