コロナ禍で売り上げが減った企業を対象とする無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が今月から本格化しています。しかし、返済のための資金繰りに苦しむ企業が続出しています。決算書類を会計の知識ゼロの人でも簡単に読み解けることで評判の「風船会計メソッド」を考案した松本めぐみ氏は、「貸借対照表」を読むことができていればこのような事態は防げたはずだと指摘します。松本氏が「風船会計メソッド」を用いて解説します。

「お得だからとりあえず借りておく」で地獄を見ることも

筆者の周りの経営者仲間の企業には、ゼロゼロ融資を活用して助かった企業が沢山あります。しかし、他方で、ゼロゼロ融資という言葉に惹かれて安易に借りてしまった企業も多いように見受けられます。

資金が無利子・無担保で借りられるというのはかなり魅力的な話なのですが、「とりあえず安心のために借りておこう」という思いだけで借りるのは危険です。

その後のお金のコントロールを怠ると、後々、資金繰りに支障をきたし、最悪の場合、倒産の危機を招いてしまう可能性さえあります。

筆者は、そのような話を聞くにつけ、すべての経営者、あるいは経理担当者の方が「貸借対照表」をきちんと読めていたならば、と思わずにいられません。

既に困窮しているなら「借換保証制度」の活用を

とはいえ、既に資金繰りに窮して倒産危機が迫っているのであれば、まずは、その状況をなんとかすることが先です。

実は、資金繰りに苦しむ企業のために、2023年1月から、返済負担軽減のための信用保証協会による保証制度(コロナ借換保証)が開始されています。ゼロゼロ融資の上限額の6,000万円を上回る1億円まで借りられます。

もし、現時点で困窮しているのであれば、この制度を活用して借り換えることをおすすめします。

ただし、無利息ではなく、また、金融機関による継続的な伴走支援を受けなければなりません。「問題の先送り」になってしまう可能性もあります。今後、そのようなことにならないためにも、これから解説することを理解していただきたいのです。

「風船会計メソッド」で「お金の性質」をつかむ

以下、筆者が考案した「風船会計メソッド」をもとに、「ゼロゼロ融資」のような借入をした場合にどのように「貸借対照表」をみるべきか、解説していきます。まず、その前提として、本記事の解説を理解するのに必要な事項を簡単に解説します。

「風船会計メソッド」では、貸借対照表を「豚の貯金箱」に見立てて説明します(【図表1】参照)。

なぜ「豚の貯金箱」かというと、貸借対照表には会社がこれまでに貯めてきた「資産の残高」のことが書かれているからです。

◆「豚の貯金箱」の左側:資産

まず、豚の貯金箱の左側を見ていきます。ここには、自社の持っている資産がすべて書かれています(【図表2】参照)。

上半身の部分には、原則1年以内で現金化できるであろう「流動資産」が入ります。「現金・預金」はもちろん、「受取手形」「売掛金」「有価証券」「棚卸(在庫)」等が入ります。

これに対し、下半身には現金化することがほぼない「固定資産」が入ります。たとえば「機械設備」「建物」「不動産」といった、商品・サービスを生み出す資産です。これらを現金化することはほぼありません。なお、この固定資産が多すぎる「下半身太り」になっている場合は注意が必要です。なぜなら、不景気になった時に固定資産を売却して現金を得るという手段が現実には取りにくいからです。

◆「豚の貯金箱」の右側:「自己資本(純資産)」と「負債」

次に、豚の貯金箱の右側を見ていきます。右側は、左側に書かれている資産をどのように調達してきたかを示しています(【図表3】参照)。

「下方⇒上方」の順に説明します。

まず、下方には、今までに貯めてきた「税引き後の利益」や「出資した金額」が書かれています。これを「純資産(自己資本)」といい、「気球」で表します。

純資産」を「気球」で表すのには理由があります。それは、頑張って「利益」(ヘリウムガス(元素記号He)に見立てます)を注入することによって気球が膨らみ、どんどん浮かせれば、会社の経営が浮揚していくからです。

これに対し、上方には、「負債」が書かれています。「固定負債」と「流動負債」がありますが、ここではいずれも「返していかなければならない金額」だとイメージしておけば十分です。

「ゼロゼロ融資」で借りたお金を「豚の貯金箱」でみると

以上を前提に、ゼロゼロ融資でお金3,000万円を借りた時、豚の貯金箱(貸借対照表)でどのようにみるのか、解説します(【図表4】参照)。

まず、豚の貯金箱の左上の「流動資産」に現金が3,000万円入ります。これだけだと、資金が増えたことになるので、しばらくは安心なような気がします。

しかし、同時に、それを調達してきた手段として「負債」の部に3,000万円入ります。

ここで思い出していただきたいのですが、「負債」は、前述したように、いずれ「返していかなければならない金額」です。「負債」のところに書かれている以上、いずれ「返していかなければならない時」が来ることを心に留めておかなければなりません。

ゼロゼロ融資についていえば、「返済が始まった月」からが大変になります。

たとえば、その年度の「税引き後当期純利益」が1,000万円、そして「減価償却費」が800万円だった場合で考えてみます。

なお、減価償却費については、本記事では詳細な説明はしませんが、「費用に計上されているけれども実際には出ていっていないお金」くらいに考えていただければ大丈夫です。

この場合、その年度の営業活動で作れたお金はざっくり1,000万円+800万円=1,800万円ということになります。この1,800万円から、借入金の返済を賄わなければならないのです。

たとえば、その年度で、ゼロゼロ融資以外の借入金の返済額が2,000万円、ゼロゼロ融資の返済額が600万円だったとすると、合計で1年返済額が2,600万円になり、1,800万円の営業活動で作ったお金では返済がきません。その分は、現預金に余裕がなければ新たに借入をして返済をしていくしかありません。

またそこで新たな借入をすれば「負債」がさらに増えてしまいます。

このループができあがってしまうと、せっかく営業活動で作ったお金を返済支払って終わる。ということになってしまいます。

返済支払った後でもまだお金が残り、会社にお金が貯まっていくという仕組みができればベストです。

貸借対照表の読み方を理解していないと、このことが見えにくくなってしまうのです。

「借入金」であることを忘れないために「貸借対照表」でチェックを

ここまでご覧になって、「そんなこと長々と説明されなくたって、借入金なんだから返さなければならないのは当たり前じゃないか」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、それで済むなら、ゼロゼロ融資の返済難がここまで社会問題化していなかったはずです。

「ゼロゼロ融資」だけでなく、借入をした場合、当初はそれをいずれ返さなければならないことは当然わかっているでしょう。しかし、人間である以上、日常業務に忙殺されるなかで、そのイメージが薄れてしまうことはよくあります。

また、多くの中小企業の経営者の方は、「損益計算書」をみて、どれだけ利益が出ているかを気にしますが、お金の回り方はそれとはまったく別の問題なのです。

そんなとき、貸借対照表を折に触れて読み、借入金が「資産」の部と「負債」の部でそれぞれどのように扱われているかをチェックするようにすれば、返済のときになって資金繰りで慌てることは起こりにくくなるはずです。

松本 めぐみ

松本興産株式会社 取締役

情報イノベーション専門職大学 客員教授

(※画像はイメージです/PIXTA)