本記事は、フィデリティ投信株式会社が提供するマーケット情報『マーケットを語らず』から転載したものです。※いかなる目的であれ、当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。

FRS、ECB…主要な中央銀行が「逆ザヤ」に陥っている

米連邦準備制度(FRS)……昨年7~9月期中に地区連銀のキャッシュフローが赤字になり、9月に財務省への利益送金を停止。

欧州中央銀行(ECB)……昨年通年で、バランスシートのうち、準備預金とその見合い資産の部分については赤字(→今年はバランスシート全体で赤字になると目される)。

イングランド銀行(BoE)……今年1~3月期に資産買い入れファシリティのキャッシュフローが赤字に。

別途、「キャッシュフローの赤字」ではないものの、先週は、ブルームバーグ社が「ドイツ連銀がAPP購入債券で含み損拡大、政府の資本注入必要な恐れ」と報じました。昨年すでにオーストラリア準備銀行が保有債券の評価損によって債務超過に陥っています。

話を戻すと、今般の主要な中央銀行の「逆ザヤ」は、中央銀行が自身の抱える【負債】に対して支払う利息費用が、自身が持つ【資産】から得られる利息収入を上回ることで生じています。

そのカギを握るのが準備預金であり、「逆ザヤ」の背景は、

①中央銀行の量的金融緩和・QEによる準備預金の増加

②準備預金に対する付利の開始

③急速なインフレによる、大幅な政策金利≒付利金利の引き上げ

の3点にあると考えられます。

確認すると、上記①および②があれば、毎回の利上げ時にキャッシュフローが必ず赤字になるというわけではありません。実際、2015年12月から2019年1月までの利上げ時にはFRBのキャッシュフローは赤字にならず、財務省への送金が可能でした。すなわち、赤字になるかどうかは、上記③の金利の引き上げ幅に依存します。

さらに詳しくいえば、主要な中央銀行の「逆ザヤ」は、①資産サイドの大部分を占める有価証券(国債などの固定利付債券)については、QEが実施された時期はゼロ金利政策の実施時期でもあり、低利回りで固定されている一方で、

②負債サイドの(流通貨幣以外の大部分を占める)市中銀行準備預金およびリバース・レポ(預金取扱機関以外のFRBへの預金)については、利上げによって高い金利が付されているために、後者の支払利息(=準備預金残高×付利金利+リバース・レポ残高×応札金利)が、前者の受取利息(=有価証券残高×利回り+貸出残高×貸出金利)を上回ることで生じています。

FRBのバランスシートを見て思い浮かぶ「2つの疑問」

実際のデータを眺めてみます。2023年1~3月期の四半期会計報告に従うと、FRBは260億ドルのキャッシュフローの赤字を計上しています。

また、直近時点では、週当たり22億ドルのキャッシュフローの赤字を計上しています。バランスシートを削減している途上であるため、毎週数値は変化します。

こうしてFRBのバランスシートや赤字の現状をみると、2つの疑問が思い浮かぶかもしれません。

ひとつは「なぜ、市中銀行準備預金に付利をしたのか?」であり、もうひとつは「残高が2.4兆ドルもあるリバース・レポとはなにものか?」「なぜ、リバース・レポの残高は増えたのか?」です。

今日は、翌日物の資金貸借市場の状況を眺めつつ、1点目と2点目の一部について考えます。

翌日物市場の主要プレーヤーとFRBから得られる金利の関係

まずは、FRBの金融政策オペレーションの「主戦場」である翌日物の資金貸借市場で、どのような主体がどのように取引を行っているのかをみることで、準備預金付利金利やリバース・レポの役割を考えます。

翌日物の資金貸借市場は「レポ市場(有担保)」と「フェデラルファンド市場(無担保)」の2つに分かれます。FRBは、後者のフェデラルファンド金利(無担保翌日物金利)を誘導目標にしています。現在は、このフェデラルファンド金利を「5%~5.25%」のあいだに収めることが目標です。

FRBの資金循環統計(Z.1)に従うと、世界金融危機以降のレポ市場およびフェデラルランド市場における主要なプレーヤー(→ネット・ベース)は[図表4]に示すとおりです。

翌日物レポ市場とフェデラルファンド市場の2つの市場のプレーヤーは日々、互いに相手を見つけ合って資金貸借の取引を行います。ただし、これらのプレーヤーのうち、レポ市場で「資金の借り手」に属しているFRBは資金が不足しているわけではありません。

FRBは「1日の最後に余った資金」をリバース・レポによって翌日物市場から吸収する役割を担っています。

重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュー

首席研究員/マクロストラテジスト

(※写真はイメージです/PIXTA)