北極海とグリーンランド海をむすぶ「フラム海峡」の深海底で、奇妙な八角形のマークが発見された。
ドイツ、ライプニッツ海洋科学研究所の研究チームによる深海調査によると、4200mの深海の底で106個もの人工的な幾何学模様が見つかっている。
深海のミステリーサークルはいったい誰が、何のために作り上げたのだろう?
『Proceedings of the Royal Society B』(2023年6月28日付)に掲載された論文によれば、犯人はエサを食べるために潜ってきた深海タコの一種「ヒゲナガダコ(Cirroteuthis muelleri)」であることが判明したようだ。
人間にはあまりにも暗く寒い深海の底だが、多くの生物にとってはとても暮らしやすい場所だ。そうした生き物たちは、暗い海の底で暮らしながら、ときおり海底に足跡をつける。
もっと浅い海とは違って、深海には足跡を消してしまう海水の動きはほとんどない。だから、それはいつまでもそこにあり続ける。
タラバガニなら何かを刺したような足跡を残す。バナナのようなナマコの一種であるPsychropotes longicaudaなら波形紋様だ。 足跡どころか螺旋状の便を残すギボシムシ(Tergivelum baldwinae)のような生物もいる。
これらはいずれも有機的な出来栄えで、生物がつけたのだろうと推測できる。
・合わせて読みたい→浜辺に砂でできた謎の円盤状の物体が!海岸版ミステリーサークルの正体は?
ところが、海の底に幾何学的な模様があれば、深海に隠れている異星人では? と思いたくもなる。何しろ、海ではこれまでも謎の飛行物体が目撃されているのだ。
北極海とグリーンランド海をむすぶ「フラム海峡」の深海底では、まさにそんな奇妙なマークが発見されている。それはほぼ八角形をしていたのだ。
海底に残された八角形の幾何学模様 / image credit:A Golikov et al, Proceedings Of The Royal Society B c 2023 CC BY 4.0
犯人は深海タコ!ダンボ・オクトパスの仲間だった
だがライプニッツ海洋科学研究所の研究チームが潜水ドローンを潜らせて調査したところ、その痕跡はジュウモンジダコ属の「ヒゲナガダコ(Cirroteuthis muelleri)」という、まるで異星人のようなタコによるものらしいことが明らかになっている。
タコは大きくマダコ亜目とヒゲダコ亜目の2種に分類されるが、ヒゲナガダコは後者の仲間だ。深海で暮らすタコで、全長1メートルほどの優雅なフレアスカートをはいたような姿をしている。
また頭にはダンボのような大きな耳があるのも特徴的だ。そのため、ジュウモンジダコ属は「ダンボ・オクトパス」とも呼ばれている。
その胃を調べたこれまでの研究では、甲殻類のような海底で暮らす生き物しか見つかっていない。そのため、ヒゲナガダコはもっぱら海底のエサを食べているだろうことがわかっている。
・合わせて読みたい→深海の生物ってやっぱりすごい!ヒラヒラと舞うその姿はまさに異星クリーチャーなタコが撮影される(アメリカ)
今回の潜水ドローンを使った調査では、このことを裏付けるように、ヒゲナガダコが海底で狩りをしているらしき姿が観察されている。
Miles down for lunch: deep-sea in situ observations of Arctic finned octopods
タコが捕食する際についた模様だった
狩りをするヒゲナガダコたちはまず、海底のスレスレをゆっくりと漂う。
それから腕のスカートをふわっと広げては、すっとスカートをすぼめながら上へと伸び上がる。なんだか深海で舞踏会でも開いているかのようだ。
研究チームによれば、これはおそらくスカートの中にいるエモノを吸い出すためであるという。
つまりヒゲタタコは、餌を捕食する際に海底に飛び込み、その際に泥の中に鮮やかな八角形の痕跡を残しているのだという。
これが狩りだと思われる根拠はまだある。
ヒゲナガダコは、吸盤の吸い付く力が弱く、泳ぎもそれほど速いわけではない。だから海中のエモノを捕まえるには不向きと考えられる。
またタコから粘液や食い残しらしきものが落ちるところも撮影されている。
ヒゲナガダコが潜水ドローンに驚いて、普段と違う行動をとっている様子もなかったという。中には興味深げにカメラに近づいてくるものさえいたそうだ。
ちなみにヒゲナガダコのダンスのような狩りが観察されたのは初めてのことだが、深海魚やナマコの仲間が似たような行動をとっている姿なら過去にも目撃されているという。
こうした狩猟スタイルは、海流に乗って流されることで、外敵から逃れ、エネルギーを節約できるというメリットがある。
だがヒゲナガダコはこの漂流スタイルに、さらに優雅さや華やかさという彩りまで添えたかのようだ。
ヒゲナガダコの捕食形態 / image credit:A Golikov et al, Proceedings Of The Royal Society B c 2023 CC BY 4.0
日本に生息するフグも見事なミステリーサークルを描いていた
海にミステリーサークルを描くといえば、日本ではアマミホシゾラフグが有名だ。
奄美大島や琉球諸島近海に生息する、全長わずか10~15cmほどのアマミホシゾラフグのオスは、水深約10mから約30mの浅い海に生息し、自分の大きさの10倍以上になる直径2mほどの円形の見事な幾何学的な模様作り上げていたのだ。
2012年に発見された、アマミホシゾラフグのオスは、自分のからだとヒレだけをつかい、海底へ腹部を押し付け、サークルの中心となる部分にまず目印をつくる。
目印ができると、オスはひたすら海底を「掘削」するようにして、内側と外側を行ったり来たりし、これを繰り返しながら約1週間かけ、巨大な円形の模様を作り上りだす。
なぜオスはこのような巨大サークルを作り上げているのか?メスにアピールするための産卵巣(産卵床)ではないかと言われている。
産卵巣は文字通り産卵するための場所だ。オスは1週間もかけて休むことなくせっせとこのサークルをつくり、真ん中の着卵床にメスを呼んで卵を産んでもらい、精子をかけて繁殖を行う。繁殖が済んだ後は二度と使われないそうだ。
References:Maker Of Mysterious Octagons On The Seafloor Finally Revealed | Defector okaimoo / written by hiroching / edited by / parumo
コメント