※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。2023年6月のマーケットを振り返り、「1. 概観、2. 景気動向、3. 金融政策、4. 債券、5. 企業業績と株式、6. 為替、7. リート、8. まとめ」のそれぞれについて解説します。

1.概観

【株式】

6月の主要国の株式市場は、投資家のリスク選好姿勢が強まったことから、概ね堅調な展開となりました。米国株式市場では、米連邦準備制度理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)で年内にあと2回の利上げを示唆したものの、米景気がソフトランディングに向かうとの見方が強まったことから、NYダウが上昇しました。欧州の株式市場も、米国株式市場に連れて上昇しました。日本の株式市場は、円安の進展や金融緩和政策の継続、日本企業のガバナンス改革への期待から海外投資家の買いが続き、大幅に続伸しました。中国株式市場は、香港ハンセン指数が反発したものの、中国経済の減速懸念や米中関係の不透明感などから、上海総合指数は横ばいでした。

【債券】

米国の10年国債利回り長期金利)は、FRBがFOMCで利上げの見送りを決めた一方で、政策金利の見通しを年内に2回の利上げを見込む水準に修正したため、利上げが続くとの観測から上昇しました。ドイツ長期金利は、ECBが理事会で0.25%の利上げを決め、7月の会合でも利上げを継続する姿勢を示したことなどから上昇しました。一方、日本の長期金利は、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和策を維持したことから低下しました。

【為替】

円相場は、日本と米欧の中央銀行の金融政策の方向性の違いに着目した円売り圧力が強まったことから、主要通貨に対し下落しました。

【商品】

原油価格は、米国景気がソフトランディングに向かうとの見方が強まり、世界で原油需要が回復するとの期待が高まったことなどから反発しました。

2.景気動向

<現状>

米国の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.0%となり、2期連続で伸びが鈍化したものの、個人消費を中心に底堅さを示しました。

欧州(ユーロ圏)の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.0%となりました。前期比では▲0.1%と、2期連続のマイナス成長となりました。

日本の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.7%と、2期連続のプラス成長となりました。経済の正常化により個人消費や設備投資が堅調でした。

中国の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.5%と、前期から加速しました。ゼロコロナ政策が終了し、旅行や外食などの消費が伸びました。

豪州の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+2.3%と、前期から減速しました。インフレ上昇の影響で個人消費の伸びが鈍化しました。

<見通し>

米国は、FRBによる大幅な利上げと金融不安に伴う融資厳格化で金融環境が引き締まり、企業業績が圧迫されるため、年後半に景気が減速するとみられます。ただし、雇用が堅調なことから消費の腰折れは回避され、プラス成長を維持する見通しです。

欧州は、低成長ながら緩やかに回復するとみています。欧州中央銀行(ECB)の利上げ継続で年後半に金融引き締めによる景気抑制効果が強まるものの、財政の支援、労働市場の安定、エネルギー価格の安定とインフレピークアウトなどが景気を支えるとみています。

日本は、インバウンド消費の回復、設備投資の増加、経済対策を下支えに、内需主導の景気回復が続く見通しです。ただし、23年度後半は欧米を中心とした海外景気の減速により、回復ペースが鈍化するとみています。

中国は、ゼロコロナ政策を終了したことから経済正常化に向けた動きでリベンジ消費の増加などから景気回復ペースが高まりましたが、年後半は海外景気の減速や不動産市場の回復の遅れの影響で回復ペースが鈍化するとみています。

豪州は、海外景気の減速やインフレによる消費への下押し圧力を受けて成長率が鈍化するものの、緩やかな景気回復の流れが続く見通しです。中国経済が減速する可能性があるものの、企業の投資意欲、良好な雇用環境、コロナ下で積み上がった貯蓄などが、豪州経済を支えるとみています。

3.金融政策

<現状>

FRBは、6月のFOMCでフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を5.00~5.25%に据え置きました。政策金利据え置きは、2022年3月の利上げ開始以降初めてです。一方で、FOMC参加者の政策金利見通し(ドットチャート)では、年内あと2回の利上げを示唆しました。ECBは6月の理事会で8会合連続となる利上げを決めました。利上げ幅は2会合連続で0.25%でした。保有資産の圧縮については、7月に再投資を終えることを確認しました。日銀は、6月の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の維持を決めました。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の修正は見送り、長期金利の許容上限は0.5%程度のままとしました。

<見通し>

FRBは、根強いインフレ圧力を抑制するため、7月と9月のFOMCで、FF金利をそれぞれ0.25%引き上げると予想しています。FF金利を、5.50~5.75%の水準まで引き上げた後、据え置くとみています。ECBも、高止まりしている食品価格やコアインフレを抑制するため、利上げを続ける見通しです。7月、9月にそれぞれ0.25%の利上げを実施し、預金ファシリティ金利を4.00%まで引き上げた後、据え置くと予想しています。日銀は、7月にイールドカーブ・コントロールにおける長期金利の変動許容幅を±1%程度に拡大すると予想しています。

4.債券

<現状>

米国市場では、月初に米雇用統計で雇用者数の伸びが予想を大幅に上回ったことから10年国債利回り長期金利)が上昇しました。月中旬に開催されたFOMCで、FRBは利上げの見送りを決めた一方、政策金利の見通しを年内に2回の利上げを見込む水準に修正しました。その後、米長期金利はレンジ内でもみ合いましたが、月末にかけてやや上昇しました。ドイツ長期金利は、ECBが理事会で0.25%の利上げを決め、7月の会合でも利上げを継続する姿勢を示したため上昇しました。一方、日本の長期金利は、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和策を維持したことから低下しました。また、投資適格社債については、堅調な株式市場を受けて国債と社債の利回り格差が縮小しました。

<見通し>

米国の長期金利は、もみあいながら緩やかに低下する展開を予想します。底堅い雇用や粘着質のインフレからFRBの利上げが当面続くものの、最終盤にあると考えられ、先行きはインフレの鈍化と景気減速が見込まれるため、レンジ内でもみ合いながら小幅に低下するとみています。欧州の長期金利も、賃上げによるインフレ圧力などからECBが金融引き締めを続けるものの、米長期金利に連れて緩やかに低下する展開を予想します。日本の長期金利は、日銀の長短金利操作の修正により長期金利の許容変動幅が拡大され、やや上昇する展開を予想しています。

5.企業業績と株式

<現状>

S&P500種指数の6月の予想1株当たり利益(EPS)は233.6で、前年同月比▲2.8%でした。前月比は+0.3%と5ヵ月連続のプラスとなりました。一方、TOPIXの予想EPSは158.8、前年同月比は同+2.5%でした。前月比は+1.1%と3ヵ月連続のプラスでした。

6月の米国株式市場は大きく上昇しました。FRBが年内にあと2回の利上げを示唆したものの、米景気に対する楽観的な見方が株価を押し上げました。NYダウは前月比+4.6%、S&P500種指数は同+6.5%、NASDAQ総合指数は同+6.6%でした。日本株式市場も海外投資家の大幅買い越しの継続や円安の進展、堅調な米株市場などを背景に大幅高となりました。日経平均株価は前月比+7.5%、TOPIXは同+7.4%でした。

<見通し>

S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は4-6月期が前年同期比▲5.7%(除くエネルギーセクターで同▲0.1%)、7-9月以降は増益転換が予想されています(6月30日。リフィニティブ集計)。ただ、先月に比べて、景気減速がやや意識されて全般的に小幅な下方修正となっています。一方、TOPIX採用企業の23年4-6月期の純利益は前年同期比+27.9%と予想されており、好調を維持しそうです(7月3日。3月期決算企業で除く金融、QUICK集計)。

今後の米国株式市場は、粘着質なインフレへの対応から強気一辺倒とはいかない展開が想定されます。とは言え、2024年以降のインフレ低下や金融政策の転換を見越した金利低下などから、徐々にレンジを切り上げていく展開が予想されます。一方、日本株式市場では高値警戒感が取り沙汰されており、上値が重くなる可能性があります。ただ、長期的な観点に立てば、今後の株価純資産倍率(PBR)の改善期待や業績面から見た割安感があります。スピード調整はあっても引き続き堅調な相場展開が続くとみられます。

6.為替

<現状>

円相場は、日本と米欧の中央銀行の金融政策の方向性の違いに着目した円売り圧力が強まったことから、主要通貨に対し下落しました。円の対米ドルレートは、前月末の139円台からじりじりと弱含み、昨年11月以来の安値水準となる144円台まで下落しました。米景気の底堅さを示す堅調な経済指標を受けて、FRBの利上げが続くとの見方が強まったことなどから円売りが続きました。円の対ユーロレートは、前月末の149円近辺から大きく下落し、157円台で終了しました。ECBの利上げ継続観測から日欧金利差の拡大が意識され、ユーロ買い・円売りが強まりました。また、円の対豪ドルレートも、豪州準備銀行が2会合連続の利上げを実施したことを受けて、大きく下落しました。

<見通し>

円の対米ドルレートは、FRBの利上げが当面続くものの、最終盤に入りつつあるとみられることから、もみあいながら緩やかに上昇する展開を予想します。先行きは米国の景気とインフレが鈍化するため、FRBの利上げ停止と日銀の金融政策修正が意識され、円が小幅に上昇する展開を想定しています。円の対ユーロレートは、レンジ内でもみ合いながら緩やかに上昇すると予想します。ECBの利上げ継続がユーロのサポート要因となる一方、日銀の金融政策修正が円の買い材料となるとみています。また、円の対豪ドルレートは、もみ合う展開を予想しています。相対的に堅調な豪州景気がサポート要因となる一方、日銀の金融政策修正が意識されるためです。

7.リート

<現状>

グローバルリート市場(米ドルベース)は、米国のソフトランディング期待が高まり、投資家のリスク選好姿勢が強まったことから、上昇しました。米国リート市場は、FRBが政策金利の見通しを年内にあと2回の利上げを見込む水準に修正したことなどから長期金利が上昇したものの、堅調な米国景気を示す経済指標を受けて反発しました。一方、英国やアジアのリート市場は長期金利の上昇を受けて軟調に推移しました。日本リート市場も小幅に下落しました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)のリターンは前月末比+2.6%となりました。また、為替効果がプラスに寄与し、円ベースのリターンは同+6.1%となりました。

<見通し>

米国リート市場は、FRBの金融引き締め長期化観測や商業用不動産に対する融資厳格化が意識され、当面不安定な動きになることが見込まれます。ただし、米国経済は、FRBの大幅な利上げを受けても比較的軽微な減速にとどまるとみられ、底堅く推移する見込みです。過度な景気悪化懸念が和らげば、米国リート市場は緩やかに上昇するとみています。欧州リート市場は、ECBによる金融引き締めの継続から当面上値の重い展開を想定します。日本リート市場は、景気回復の動きが続くものの、日銀の金融政策の不透明感から当面レンジ内でもみ合うとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に緩やかに上昇するとみています。

8.まとめ

【債券】

米国の長期金利は、もみあいながら緩やかに低下する展開を予想します。底堅い雇用や粘着質のインフレからFRBの利上げが当面続くものの、最終盤にあると考えられ、先行きはインフレの鈍化と景気減速が見込まれるため、レンジ内でもみ合いながら小幅に低下するとみています。欧州の長期金利も、賃上げによるインフレ圧力などからECBが金融引き締めを続けるものの、米長期金利に連れて緩やかに低下する展開を予想します。日本の長期金利は、日銀の長短金利操作の修正により長期金利の許容変動幅が拡大され、やや上昇する展開を予想しています。

【株式】

S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は4-6月期が前年同期比▲5.7%(除くエネルギーセクターで同▲0.1%)、7-9月以降は増益転換が予想されています(6月30日。リフィニティブ集計)。ただ、先月に比べて、景気減速がやや意識されて全般的に小幅な下方修正となっています。一方、TOPIX採用企業の23年4-6月期の純利益は前年同期比+27.9%と予想されており、好調を維持しそうです(7月3日。3月期決算企業で除く金融、QUICK集計)。

今後の米国株式市場は、粘着質なインフレへの対応から強気一辺倒とはいかない展開が想定されます。とは言え、2024年以降のインフレ低下や金融政策の転換を見越した金利低下などから、徐々にレンジを切り上げていく展開が予想されます。一方、日本株式市場では高値警戒感が取り沙汰されており、上値が重くなる可能性があります。ただ、長期的な観点に立てば、今後の株価純資産倍率(PBR)の改善期待や業績面から見た割安感があります。スピード調整はあっても引き続き堅調な相場展開が続くとみられます。

【為替】

円の対米ドルレートは、FRBの利上げが当面続くものの、最終盤に入りつつあるとみられることから、もみあいながら緩やかに上昇する展開を予想します。先行きは米国の景気とインフレが鈍化するため、FRBの利上げ停止と日銀の金融政策修正が意識され、円が小幅に上昇する展開を想定しています。円の対ユーロレートは、レンジ内でもみ合いながら緩やかに上昇すると予想します。ECBの利上げ継続がユーロのサポート要因となる一方、日銀の金融政策修正が円の買い材料となるとみています。また、円の対豪ドルレートは、もみ合う展開を予想しています。相対的に堅調な豪州景気がサポート要因となる一方、日銀の金融政策修正が意識されるためです。

【リート】

米国リート市場は、FRBの金融引き締め長期化観測や商業用不動産に対する融資厳格化が意識され、当面不安定な動きになることが見込まれます。ただし、米国経済は、FRBの大幅な利上げを受けても比較的軽微な減速にとどまるとみられ、底堅く推移する見込みです。過度な景気悪化懸念が和らげば、米国リート市場は緩やかに上昇するとみています。欧州リート市場は、ECBによる金融引き締めの継続から当面上値の重い展開を想定します。日本リート市場は、景気回復の動きが続くものの、日銀の金融政策の不透明感から当面レンジ内でもみ合うとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に緩やかに上昇するとみています。

(2023年7月4日

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『日本の株式市場は大幅続伸。高値警戒感が取り沙汰されるが…6月のマーケット振り返り【三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジストが解説】』を参照)。

(※写真はイメージです/PIXTA)