サントリー美術館では、2023年7月22日(土)より、『虫めづる日本の人々』を開催する。   

日本人には虫の鳴き声を「声」として認識できる、世界的にも特殊な能力が備わっている。近年インターネット界隈でよく目にするトリビアだが、すでに12世紀には『虫めづる姫君』という物語が生まれたように、古来日本人は虫たちに親しみ、物語や和歌、様々な美術作品に虫を登場させてきた。同展は、特に江戸時代に焦点を当て、『源氏物語』の時代から続く、虫と日本人との親密な関係を改めて見つめ直す展覧会だ。

めづるとは、心がひかれるという意味だが、まず日本人の虫めづる文化は、平安時代、貴族文化の中ではぐくまれる。『源氏物語』や『伊勢物語』に代表される王朝文学では、登場人物の心情を表す時に、鈴虫や松虫の鳴き声や、蛍の光などが、重要な役割を果たしているが、実際には宮中でも「虫聴(むしきき)」や「蛍狩(ほたるがり)」など、虫に関する風流な行事も行われた。

酒器や染織品、簪など様々な道具のデザインに、蝶や蜻蛉、鈴虫、蜘蛛などがあしらわれるなど、虫は日本人の生活用具にも登場する。立身出世や子孫繁栄などの吉祥をあらわす虫や草花を描いた「草虫図」が中国から伝来し、それらを学んだ日本の絵師たちが、画題として広げたことも、日本人の虫への愛着を深めるきっかけとなった。

さらに江戸時代中頃になると。「虫聴」や「蛍狩」といった宮廷文化が、江戸の庶民の夏の風物詩として広がり、後期には博物学的な見地から、虫の特徴を的確にとらえた精微な図譜も制作された。それらの影響は、伊藤若冲や酒井抱一、喜多川歌麿、葛飾北斎など作品のなかに見ることができる。

明治時代に来日した小泉八雲ラフカディオ・ハーン)ら海外の人々は、みな一様に、日本人が虫好きなことに驚いたそうだが、その遺伝子は間違いなく、現代の日本人にも伝わっている。最終章では、令和の世に受け継がれた日本人の虫めづる精神についても紹介する。

<開催情報>
『虫めづる日本の人々』

会期:2023年7月22日(土)~9月18日(月・祝)
会場:サントリー美術館
時間:10:00~18:00、金土、8月10日(木)、9月17日(日)は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:火曜(9月12日は開館)
料金:一般1,500円、大高1,000円
公式サイト:
https://www.suntory.co.jp/sma/

《虫豸帖》(部分) 増山雪斎 四帖のうち「夏」 江戸時代 19世紀 東京国立博物館 Image: TNM Image Archives  【全期間展示】(ただし場面替えあり)