子供の頃、アニメの魔法少女なりきり衣装を「似合わない」と言われてしまった爽子。大人になり、他人の“可愛い”を楽しんでいた彼女は、ある日出会った「あいな」から、一緒にコスプレをしようと提案され……。

「わたしが推しになる魔法」(01)

漫画家の真田往里(@sy14kkk)さんが描くオリジナル漫画「わたしが推しになる魔法」は、胸にしまい込んだ幼い頃の憧れを、大人になって違う形で叶える現代の変身譚(へんしんたん)だ。「くらげバンチ」(新潮社)上や作者Twitterにて公開された同作には、読者から「素敵なお話」「泣いた」「よい意味で最後が想像と違いました」とさまざまな反響が集まっている。

作者の真田往里さんは、第18回くらツイ漫画賞にて期待賞を受賞し作品制作を続ける新鋭。ウォーカープラスは今回、反響を集めた同作の舞台裏や、漫画家としての今後の目標についてインタビューした。

■小さい頃魔法少女に憧れた女性、コスプレに誘われるも踏み出せずにいたが…

カメラ小僧から転じて、アイドルやコスプレイヤーを撮影することを趣味とする“カメコ”。主人公の「伊達爽子」(だてさわこ)は、コスプレイヤーのカメコとして充実した日々を送っていた。

なかでもお気に入りは、“まほミラ”ことアニメ「魔法少女ミラクルピンキー」のコスプレイヤー。メインヒロインのミラクルピンキーに憧れ、親にせがんでなりきり変身セットを買ってもらったほど、爽子にとって思い入れの深い作品だった。

そんな爽子はあるコスプレ会場で、ピンキー姿のコスプレイヤー「あいな」と出会う。同じ作品を愛する者同士すっかり意気投合したあいなは、一緒に“まほミラ”のコスプレをやらないかと誘うが、爽子はそれを断ってしまう。

実は爽子にはトラウマと言える出来事があった。なりきりセットで“変身”した幼少時代、弟から「似合わねー」と言われ、それ以来「私には可愛いピンキーは無理なんだ」という思いがトゲとなり心に刺さっていたのだ。

事情を聞いたあいなは数日後、再び爽子と会う約束を取り付ける。待ち合わせに現れたあいなを見て、爽子は仰天する。あの日コスプレで魔法少女に変身していたあいなは、実は男性だったのだ。「男の俺でも魔法少女になれちゃうんだ!」と、再び爽子をコスプレに誘い、彼女も今度は「やってみたい…ですっ…!」と本心を告げ――、という物語。

■「前進するために頑張る人が好きだし描きたい」作品誕生のきっかけ

生まれ持ったものや周囲の環境、さまざまなことで純粋な憧れを諦めてしまうという経験は誰しも身に覚えがあるだろう。同作で爽子が“変身”するのは憧れのミラクルピンキーではないという結末を含め、どんな形でも人は一歩を踏み出せると勇気をもらえるような作品だ。

そんな同作が生まれたきっかけや、作品にこめた思いを、作者の真田往里さんに聞いた。

――「わたしが推しになる魔法」を描いたきっかけを教えてください。

くらげバンチさんのTwitter漫画賞に応募して、今の担当さんに付いて頂いたのがきっかけで、『まずは短編を』ということでお話作りがスタートしました。この作品は『なにかを打ち破る、前進するために頑張る人が好きだし描きたいな…』というところから考え始めました」

――本作はコスプレが物語の軸になっています。このアイデアを選んだのは?

「先に話した“何を頑張っている人か”という部分で、始めは自身も好きで経験のある同人活動が浮かんだのですが、登場人物の見た目が変化するようなお話が好きなのでコスプレイヤーの話になりました。

また、フリルやレースを描くのが好きなので、魔法少女やアイドルのような衣装を描けるお話……、と考えていき『わたしが推しになる魔法』が出来ていきました」

――コンプレックスという重くなりがちな題材ですが、カメコ時代のさわこも「楽しい日々」として描かれ作品の雰囲気が絶妙でした。作品のバランスで意識されたところは?

「コンプレックスというのは、ともすれば本当に重いテーマだと思います。現実はこんなに簡単にはいかないし、多分あんなに簡単に自分に協力的な友達が現れるとも限りません。

ただ私は基本的に『読後感のよい漫画』を描きたいということと、漫画の中ぐらい現実であり得ない景色を見たいと思っているので、作品の中に『こんなことが起こったらいいな』『こんなシーンが見たいな』を詰め込んでいます。無意識ですが、そういった気持ちがこの作品のトーンになっているのかと思います」

――また、作中作のキャラクターと、コスプレをした登場人物それぞれのかわいらしさや違いが伝わる作画も魅力的でした。

「私自身が漫画を読む際、第一に絵柄を見て『読みたい!』と思うことが多いので、漫画のビジュアルはとても大切だと思っていて、自身の漫画も魅力的なビジュアルで描くように常に心がけています。

また、今回の話は変身ものなので、変身前と変身後で読者の方に驚きを与えられるような作画にすることを意識しました。あとは主人公の感情が動くシーンは、感情に合わせて魅力的に見えるように描きました。変身後の爽子が特にキラキラしているように読者さんに見えていたらうれしいです!」

――ちなみに、ご自身でお気に入りのシーンはありますか?

「気に入ってるカットは、6ページ目のあいなと爽子が初めて会うシーンです。爽子があいなに衝撃を受けるとともに、爽子が変わるきっかけの出会いでもあるので大事に描きました」

――本作は担当編集の方と作り上げていったとうかがいました。どんなアドバイスを受けたかや、実際に作中にどのように反映されていったかを教えてください。

「初めての商業作品だったので、いろいろアドバイスをいただいたのですが、なかでもネームの段階で『なんとなく描きたい、描けそうな物語』になっていると言われたのは衝撃的でした。以前は無意識に、自分が描けそうだなと思う範囲内で話を考えていて、その言葉には『確かにその通り!!』と思い、そこから自分の漫画作りへの意識がかなり変わったと思います。

今思うと描き手としてなかなか致命的なことをしていたので、担当さんのこの言葉はとても有り難かったです。それ以降はその枠を取って話を考えられるようになりました。まだまだですが、以前よりは自分の作品を好きだと思えるようになりました」

――自分が最初に憧れたものと違っても“変身”できた、という結末が胸を打ちます。こうしたラストになった背景を教えてください。

「まずはストーリーとキャラを考える中で、爽子というキャラクターは、少なくとも今回はピンキーになることを選ばないなと思いました。もしかしたらいつかはなるかもしれないのですが。ただ、 本人が満足していれば、初め思い描いていた形とは違う形で夢が叶うこともとても素敵だと思い、このラストになりました。ラストの爽子はとても満足しています。それと、初期の段階で私が最後にパープルローズになった爽子が見たいなと思っていたのもありましたので(笑)」

――今後の漫画制作での目標や、描いてみたい題材などがあれば教えてください。

「筆が遅いので制作のスピードを上げることが第一目標です。ファンタジー漫画が描きたいので今後、より一層頑張っていきたいです!」

取材協力:真田往里/新潮社

本当の気持ちを閉じ込めていた女性が、幼い頃憧れた“魔法少女”のコスプレに挑む「わたしが推しになる魔法」/(C)真田往里/新潮社