指原莉乃がプロデュースするアイドルグループ・=LOVE (イコールラブ)のメンバーであり、アニメ好きの野口衣織が「神セリフ」からアニメの魅力をひもといていく連載企画。第21回では、ホラー漫画の鬼才・伊藤潤二の傑作をアニメ化した「伊藤潤二『マニアック』」について語る!(※この記事には、作品のネタバレが含まれています)

【写真】ホラーアニメ大好きな=LOVEの野口衣織

■「伊藤潤二『マニアック』」ってどんな作品?

日本のホラー漫画界を牽引してきた鬼才・伊藤潤二が描く独特な狂気に満ちた傑作の中から、選りすぐりの20タイトルをアニメ化したシリーズ。「富江」や「双一」、「首吊り気球」などの人気タイトルがラインナップされ、伊藤潤二の“マニアック”な魅力にどっぷりと浸れる意欲作!Netflixにて世界独占配信中。

■怖さに全振りせず、ストーリーとしても面白いんです

夏といえばホラーということで、今回はこの作品を選びました!私もNetflixで公開されてからお気に入り登録していて、夏も近くなってきたしそろそろ見ようかなと思って最近見たアニメです。

以前、お仕事で図書館みたいなところへ行った時に空き時間があったので、少しでしたが伊藤潤二さんの作品集を読んだことがあったんです。その時にすごく面白いなと思ってアニメを見たのですが、この「伊藤潤二『マニアック』」の前にもう1作品「伊藤潤二『コレクション』」もあると聞いて、そっちも是非見てみたいなと思っています!

夏にやる王道のホラー番組とかって、驚くポイントをある程度は予測できたりするじゃないですか?それに対して、伊藤潤二さんのホラーは予測できない怖さがあるなと思っていて。ジェットコースターに乗った時の臓器が浮くような怖さにも近くて、不安になったり気持ち悪くなったりする感じ。私は絶叫系が苦手なので、めちゃめちゃ怖いんです。

でも、怖いだけじゃなくてどこか狂気的な面白さがあると思います。現実にはあり得ないストーリーだけど、本当にあったら…と思わず考えてしまいますし、普通は思いつかないような発想もたくさん散りばめられているので、どういう意味が含まれてるのかなって考えながら見るのも楽しくて。怖さに全振りせず、ストーリーとしても面白いんです。脅かされる怖さというよりはじわじわ感じる怖さ、“考えるな感じろ”系の怖さなのでホラーが苦手な方も見られるんじゃないかなと思います。

■明確なオチがないところが、一番怖い!!

確か以前少し読んだ漫画に入っていたお話で、アニメにもあったのが「侵入者」。これは、自分以外いないはずの屋敷から誰かの足音がする…という悩みを抱えた押切という男の子が、オカルトや心霊が好きな神山・渡辺・小泉の3人組と出会って、自分の家に招き入れるお話です。

その時も、屋敷の中で4人一緒にいて他には誰もいないはずなのに、どこからともなく足音が聞こえてきます。その足音の正体は庭にいて、押切と瓜二つの姿をしているんですね。あれは異次元の押切なんだと話しながら4人が建物の中から観察していると、神山を土に埋めてるんですよ。異次元の押切は殺人鬼で、それを隠蔽しようとしてるんだと。

異次元の押切が姿を消した後にみんなで庭へ見に行くと、なんとオカルト好きの3人が全員、土に埋められてたっていうお話で…。それだけでも十分、怖いじゃないですか?でも、それで終わりなんです。その場にいる自分たちも、異次元の押切に殺されちゃった!みたいなオチがないんです。そこが一番怖い!!

伊藤潤二さんがこの話のどこに重きを置いてるかっていうのが、見る人によって変わるのが面白いんですよね。どういう意味だったんだろうって見終わった後もずっと考えちゃいます。

■心の中に取り込む=“心中”を表しているんじゃないか

他にも好きな話がたくさんあって、例えば「睡魔の部屋」。これはカップルの話で、彼氏の雄二が「もう3日間寝てない」と彼女のマリに相談するところから始まります。雄二によると、自分の夢の中にいるもう1人の自分が外の世界に出てこようとするんだと。マリは最初全く信じていなかったのですが、雄二があまりにも真剣なので、結局心配になって彼の家に行くことにします。

ガムテープで自分の手足を縛らせて、雄二は一旦寝ることに。でもマリは優しさからテープをほどいてしまいます。そして自分も眠りに落ち、物音で目を覚ますと…なんと雄二の口から手が!!よく見てみると、雄二の片腕が体に埋まってそれが口から出てきてる状態で、起きた雄二は必死に自分の手を飲み込むんですけど、軍手を脱ぐと指の部分が裏返るじゃないですか?あんな感じになっているので、指の部分も1本1本、元に戻していきます。

人間は裏返ったら内臓が出てしまうはずなのに…と言いながら呆然とするマリに、雄二は、家族を失った時から自分は空っぽなのかもしれない、と話します。夢の中の方が自由に生きられたり、楽しかったりするじゃないですか?でも雄二は空っぽ何もないから、多分夢の中の自分の方が、自我が強いんですよね。ああしたいこうしたいという夢があるから、それを叶えたくて出てくるんじゃないかなって。

そして、夢の中の自分と本当の自分に共通していることは“マリのことが大好き”ということ。だから夢の中の自分もマリを欲していると。マリは「私が引っ張り出す」と、限界を迎えて目を閉じた雄二の腕と自分の腕をテープで結ぶのですが、夢の中の雄二が出てくるとマリの腕ごと飲み込んで、そのまま逃げられなくなり…。「私も行く」という言葉を残して、取り込まれてしまいます。

そして最後に警察がマリを探しに来ると、意味不明なことを口走る雄二だけが部屋にいる、というシーンで終わります。

このお話を見た私なりの考察なんですが、“心中”を表してるんじゃないかなと思っていて。心中って“心の中”と書きますよね。雄二はマリのことがすごく好きで、夢の中の自分は独り占めしたいと思っている。一方のマリも雄二が好きだからこそ助けたかったし、最後は雄二の中に取り込まれることを選ぶわけです。

お互いのことが大事で大好きという気持ちが裏返しになって、2人で心の中に入っていく。そうやって心の中に閉じ込めることで、裏の自分たちが本当になるというのが、まさに“心中”を表しているなって思ったんですけど…伝わりますか!?

最後、警察から見たら支離滅裂なことを言っていた雄二も、このお話を見てる我々からしたら何となく言っていることがわかるんです。だから、他人から見て意味がわからないことって、実はこういうことなのかな?と思ったりもしましたし、メリーバッドエンドという感じで考えさせられるお話でした。

■髪を切って断ち切れなかった人の末路を形にしたお話だと思います

もう1つ好きなのが、「屋根裏の長い髪」。これもカップルの話で、今まで何でも彼氏に合わせてきて、「絶対似合うよ」と言われたことで髪も伸ばしていたチエミという女性が、重いという理由からフラれてしまいます。その場では「さよなら」とお別れするのですが、彼女の中では忘れられない男の人になっていて、帰って涙を流しながら眠りにつくんです。

一夜明けると、屋根裏に生息していたネズミがなぜかチエミの長い髪に絡まっていて、まるで髪がネズミ捕りのような状況に。それで髪を切ろうとするんですけど、妹がハサミを取りに行ってる間に、チエミが血まみれになった上に首から上が無くなるという不自然な死を遂げてしまいます。

チエミの死から少し経って、落ち込む父親を見かねた妹が空気を変えようと、屋根裏のネズミ捕りを確認することにします。父親が屋根裏に上がると、そこには長い髪が柱に絡みついて宙ぶらりんな姉の首が…。それを見た父親は心臓が止まって死んでしまい、妹は絡まった髪を解こうとするんですけど、髪の毛の殺傷能力が高すぎて手は血だらけに。首はぴょんぴょんと飛んで外へ出ていき、まるで髪が生きているようだと思った妹はこう呟くのです、「お姉ちゃんじゃない。あれは髪!」と。

その髪が向かった先は、自分のことをこっぴどく振った元カレのところ。チエミが死んだ頃にちょうど別の女性と一緒にいたベッドで、元カレが髪の毛に絡まったまま死んでいる姿が映って終わります。

失恋したら髪を切って断ち切ることですっきりしたり、後悔なく頑張れるかも!という前向きな気持ちになれたりするっていうじゃないですか。でもこれは、そうなれなかった人の末路を形にしたお話なのかなと思います。しかも髪を伸ばした理由が元カレだったということもあって、余計に念が強すぎたのか、髪の毛自体が意識を持つようになっちゃったんだろうなって。

女性が被害者なのはすごくわかるんですけど、結末が残酷すぎて彼氏側にもちょっとだけ同情しました。でもきっと、女性側の気持ちとしてもそこまではいってなかったと思うんですよ。髪の毛を切って忘れたかったはずなのに、きっとどこかにあった「どうして?」とか「裏切られた」という気持ちを、髪の毛が引き継いでるだけ。しかも1000倍くらいにして(笑)。

でも、もっと何か隠された意味がありそうだなと思っています。髪の毛をネズミ捕りにした理由とかもあるんじゃないかと、ずっと考えてるんですけど、自分の発想力では何も思いつかなくて…。これを見た他の人にも、是非意見を聞いてみたいです!!(笑)

■“人の無防備さ”がいっぱい盛り込まれてる気がします

「姉貴 開けてくれてありがとう」首吊り気球の洋介(第3話「首気球」より)

今回、神セリフとして選んだのは「首吊り気球」に出てくるセリフです。人気アイドルの女の子・輝美が突然首つり自殺してしまうお話で、その友達・和子が主人公なんですけど、ニュースでは芸能活動についてすごく悩んでたとか言われていて、そんなの何も聞いてなかったと落ち込みます。更に輝美はどうやら白石という彼氏がいたらしく、彼も自分が追い詰めたかもしれないと後悔していて。

それから数日経って、今度は彼女の幽霊を目撃する人が続出してるというニュースが流れ始めます。大きな彼女の顔が空に浮いてるのを見たという話で、イラスト化されたり専門家がコメントしたりして、数日前まではみんな悲しんでいたはずなのに、急に彼女の死を笑い話にする人たちが増えてくるんですね。それを見た和子が白石に大丈夫?と声をかけると、まさかの白石も幽霊を見たと。その日の夜なのか、白石から電話がかかってきて和子が見に行くと、本当に輝美の大きな顔が空に浮かんでいたのです。

白石が木に登って、気球みたいな輝美の顔に対して泣きながら手を伸ばすと、急に空から降りてきた縄に首を吊られてしまいます。その縄の先を見ると、白石の大きな顔の気球がついていました。そして2人の気球が、首を吊られた白石を揺らしながら上空で何度もキスを…。その光景はもちろん気味悪いんですけど、なんかちょっと綺麗で。お互いの傷をなめ合うというか、癒やし合っているような感じにも見えました。

その後、自分の顔をした首つり気球に首を吊られるということで、世界中が大パニックになります。しかも気球を壊そうとすると本体の自分も死んでしまうので、みんな家に閉じこもるしかなくて。徐々に食料とかもなくなっていくので、和子のお父さんや弟は大丈夫だからと言ってみんな外に出てくんですよ。

最終的に和子だけ部屋に閉じこもって隠れていると、窓の外から弟の声が聞こえてきます。確かに弟は外に出ていったけど、首吊りの縄に傘を引っかけてかわしたところを和子は見ていたので、生きてる可能性がある唯一の人物だったんですね。だから和子は、やっと帰ってきた、私1人じゃないんだって喜んで、窓を開けてしまいます。でもそこにいたのは、傘と一緒に無残な姿で首を吊られている弟の姿…。

そこで気球の方の弟が「姉貴 開けてくれてありがとう」と言い、その隣には静かに和子の気球が飛んできて、今まさに縄が首に引っかかる!というところで、終わります。

なぜこのセリフを選んだかというと…ただただ、ひどい!!(泣)親友が自殺して悲しんで、苦しんでいたことを知らなかったと悔やんで、親友の死をエンターテインメントっぽくされて傷ついて…とあまりにも和子が振り回されすぎて、最後くらい生き残って欲しかった!

しかも最後も、自分の命を守るためみたいなエゴとかじゃなくて、弟を助けるための行為、純粋な家族愛を利用されたわけじゃないですか。そこまでして殺そうとする意図は何!?もはや、意図が1つもわからないですよ!輝美にも辛いことがあったんだと思いますが、他人を巻き込みすぎじゃない?とも思います。

でもこのお話で描かれている通り、本当かどうかもわからない噂をみんなが鵜呑みにして、最近まで悲しんでたことがエンターテインメントとして消化されるというのは、現実でも起こることですよね。それに、みんなが気球に吊るされちゃったのも、どこかで「自分なら平気だ」っていう気持ちがあって無防備だったからだと思うんです。

それって、SNSとかも同じだと思っていて。傷つけるつもりはなくても、ちょっとした心無い言葉がその人にとっての引き金になっちゃったりとか、自分は大丈夫だろうと思ってやった行為が損害賠償に発展したりするわけじゃないですか。輝美が自殺してしまった理由はわからないけど、その理由に可能性として結びつけられる“人の無防備さ”がいっぱい盛り込まれてる気がしました。

輝美に対する心無い言葉や配慮に欠ける内容が匿名で発信されていたのなら、輝美にとっては誰が言ってたかわからないので、世界中が巻き込まれたということも考えられますよね。加害者になる可能性があった人たちがみんな死んだという形にも見えて、誰も幸せになれなかったんだなと悲しくなりましたし、だからこそ、気をつけなきゃいけないなとも強く思いました。

このお話はとにかく情報量が多いので、これも見た人の意見を聞きたいです!見る人によって怖いと感じる部分も、興味深いと感じる部分も絶対違うので、みんなで丸くなって語り合いながら見たい作品です。

=LOVEの野口衣織が「伊藤潤二『マニアック』」を語る!/ 撮影=booro/スタイリスト=稲葉有理奈(KIND)/ヘア&メーク=あきやまひとみ