劇団鹿殺し 2023本公演 ザ・ショルターパッズ『この身ひとつで』が、2023年7月13日(木)下北沢・本多劇場で開幕した(7月18日(火)まで本多劇場にて上演)。同公演では2020年初演の『鹿版 銀河鉄道の夜’23』に加え、新作『鹿版 The Wizard of OZ』を回替わりで上演する。ザ・ショルダーパッズとは「男性の衣装は2枚の肩パットのみ」で、「シンプルな肉体と、想像力の翼のみを武器に、演者と観客、双方の世界を無限に解放することに挑戦する、劇団鹿殺しの伝統表現」のこと。文字通り"この身ひとつで"演じるがゆえにシンプルだが限りない可能性を秘める。ここでは、公演初日7月13日(木)に行われた『鹿版 The Wizard of OZ』ゲネプロ(総通し稽古)の模様をレポートする。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

『鹿版 The Wizard of OZ』は、ライマン・フランク・ボームが1900年に発表した児童文学「オズの魔法使い」を原作とする。アメリカ・カンザス州に住む少女ドロシーが、飼い犬のトトとともに竜巻に巻き込まれ魔法の国へと誘われるファンタジーは、1939年にジュディ・ガーランド主演で映画化(邦題「オズの魔法使」)されたのをはじめ、舞台ミュージカルにもなるなど広く親しまれている。『鹿版 The Wizard of OZ』では、脚本:丸尾丸一郎×演出:菜月チョビという鹿殺しの黄金コンビが、原作にオマージュを捧げつつ、舞台を沖縄に移し変えて翻案した。

冒頭、黒い服をまとった菜月が登場し、鹿殺しの座長として観客に向けてあいさつをする。兵庫県西宮市で劇団を旗揚げし、上京後は貧乏生活に耐えながら演劇活動を続けるなかで、下北沢・本多劇場の入口を見上げながら「いつかはここで公演をしたい」というふうに願い続けてきたという。演劇製作には少なからぬ予算がかかるが、「西日暮里の生地屋で見かけた安い肩パットを用いて衣装代を安く上げられないか」と考え、そこからザ・ショルダーパッズが生まれたと明かす。あいさつが終わると、「ザ・ショルダーパッズのテーマ」が流れ、女優たちがタキシードを着た男たちの服を脱がし、彼らは前張りだけになり、歌って踊りはじめる。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

続いて舞台は沖縄へ。ドロシー(丸尾)は東京生まれの19歳だが、沖縄の村で祖父のオジー(鈴木浩文)と祖母のオバーと暮らしていた。しかし、オジーが借金を作り、オバーは病死し、ドロシーは借金返済のためアルバイトに勤しむ。オジーが連れてきた毒蛇ハブにーに(橘輝)が心の友だ。ドロシーは村はずれで犬のトト(菜月)と出会うが、一緒に交通事故に遭い、オズの世界へ飛ばされる。『鹿版 The Wizard of OZ』は、トトの視点からドロシーを描く物語だ。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

ドロシーとトトは、かかし(浅野康之)、ブリキの木こり(中西智也)、ライオン(前川ゆう)と出会い、西の魔女(島田惇平)、東の魔女(有田あん)、北の魔女(内藤ぶり)、南の魔女(川平花)、マンチキンの娘(藤綾近)らと絡みながら、それぞれの願いをかなえるため、偉大な魔女オズが棲むというエメラルドの都を目指すが――。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

男性の衣装だけでなく舞台美術も限られたシンプルな空間。しかし、役者たちの言葉(台詞)と音楽(歌)と身体表現(ダンス)が掛け合わさり、イマジネーション豊かな世界を立ちあげる。出演者の多くは一人で何役かをこなし、カラスやマンチキンウィンキーの男、百姓、森の動物、木の怪物、大蛇、毒蛇などに扮する。ドロシーとトトが虹の上を渡る場面では、傘を差した人々も現れファンタスティクだ。かかしが二人の百姓と歌い始めるラップに呼応するリズミカルなダンスなど、ダンサブルな場面も多い。ドロシーたちと猿たちの歌合戦もスリリングだ。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

伊真吾の音楽は、沖縄の風土色豊かな響きほか場面に応じた楽曲だけでなく、丸尾の作詞による歌入りの曲が舞台を盛り上げて楽しい。振付は井手茂太。NODA・MAPや東宝『千と千尋の神隠し』など話題の舞台の振付を数多く手がけているが、ここでは日常的な動きにひねりを利かせてフィジカルに魅せる。井手が主宰するイデビアン・クルーの作品に男性が褌姿で踊る舞台もあったが、演者の肉体そのものから発する動きの虚飾のないおもしろさは、「シンプルな身体」ありきのザ・ショルダーパッズのコンセプトと合っているのではないか。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

一時間半弱の上演時間があっという間。ボームの原作の流れを汲みながら、鹿版ならではの多彩な仕掛けが凝らされていて目が離せない。大魔女のオズはいかなる存在なのか? ドロシーとトトは沖縄に帰ることができるのか? 冴えわたるストーリーテリングと匠の技といえる演出、そして何よりもあふれる肉体のエネルギーを存分に味わってほしい。

(写真:和田咲子)

(写真:和田咲子)

取材・文=高橋森彦

劇団鹿殺し 2023本公演 ザ・ショルターパッズ『この身ひとつで』『鹿版 The Wizard of OZ』