7月15日から30日まで『バーチャルマーケット2023 Summer』が開催される。「バーチャルマーケット」とは、株式会社HIKKYが運営するギネス世界記録にも認定された世界最大のVRイベントだ。一般参加者のブース以外にも企業が多数参加しており、それぞれ工夫を凝らしたブースを用意。そして、企業が出展しているブースのあるワールドは、実際にある都市をメタバースで表現する「パラリアル化」をしているのも特徴だ。

【画像】美少女がムキムキマッチョの“カップヌードル大帝”に変身させられる様子

 今回、リアルサウンド テックでは、アメリカ・ラスベガスをパラリアル化した「パラリアルラスベガス」を先行体験した。本稿では、その一部を紹介する。(東雲りん)

 まず紹介するのは、日清食品のブースだ。今回が初の出展となる日清食品のブースは、これまでバーチャルマーケットのさまざまなブースを見てきた筆者からしても、「企業ブースもここまで来たか……」と驚かされるものだった。

 日清食品ブ-スでは、ユーザーが工場見学をしていると、突然催眠ガスで眠らされ、地下研究室へと連れ去られてしまう。そこで待ち受けていたのは、人間と「カップヌードル」が融合した超人“カップヌードル大帝”(※) 。ユーザーは改造手術後、広大な街並みへと導かれていく。

(※カップヌードル大帝…… キン肉マンでおなじみのゆでたまご氏デザインのオリジナルキャラクター)

 ユーザーは“カップヌードル大帝”の特殊能力として手から麺を発射できる“ヌードルワイヤー”を駆使して広大な街並みを縦横無尽に飛び回り、「カップヌードル」の工場で3分間の爆破ミッションに挑むことになる。……「カップヌードル大帝」と聞いて、「何を言っているんだ」と思った方もいるかもしれない。

 今回の日清食品のブースは、同社のCMで展開されるようなあの“カオスさ”をそのまま持ってきたような、非常に攻めた世界観となっている。しかし、話を聞いてみると今回の企画はHIKKY社発案によるものなのだそう。企画を考える際に同社の担当者たちは普通のアイデアではなくとにかくユニークな企画、尖った企画を、とアルコールを飲みながら考えて提案したとのことで、一見ふざけているようにも思えるが、これには理由がある。というのも、「とにかく来場したユーザーに楽しんでもらえなければやる意味がない」という思いが日清食品にはあったそうで、あたりさわりのない企画ではなく、むしろ今回のような尖った企画が好まれたというのだ。

 肝心のブース体験だが、これだけで1つのワールドを作れるのでは、と思うほどに本格的だ。両手から射出できる「ヌードルワイヤー」をバーに向けて発射することで、バーからバーへと移動できる。 難しそうに聞こえるかもしれないが、バーに飛び乗ったあとはそのままにしても地面に落ちない。また、バーからバーへと連続して移動しないといけないわけではなく、落ち着いて移動できるので、見かけほど難しくないので安心してほしい。

 その後に待ち受けるミニゲームも秀逸で、日清食品のカオスな世界観をしっかり踏襲した仕上がりとなっているので、バーチャルマーケットが開幕したら真っ先に体験してもらいたいブースだ。

 続いて紹介したいのは、ヤマハ発動機が提供するメタバース空間専用の移動体「VRパーソナルビークル」だ。近未来感あふれるデザインは、同社のデザイン担当者がいちから起こしたものとのことだ。

 この乗り物の面白い点は、その操作方法にある。もともと『VRChat』におけるバイクなどの乗り物は、スティックで移動操作をするのが一般的。だが、今回ヤマハ発動機が展示する移動体は、現実の身体を傾けることでカーブするシステムを採用している。レースゲームで、コントローラーを持ちながら傾いてしまう人がいると思うが、その光景をイメージしてもらいたい。

 実際に体験してみたところ、スティック操作では味わえないような一体感のある乗り心地を感じることができた。こうした乗り物は、人によってはVR酔いを引き起こしてしまいがちだが、この「VRパーソナルビークル」はカーブをするときに身体を実際に動かすため、三半規管と視覚情報がしっかりリンクする。そのため、VR酔いの原因とされる「認知のズレ」が起こらず、酔いにくくなっているのも嬉しいポイントだ。ぜひとも会場を移動する際は、このメタバース専用の移動体に乗ってみてもらいたい。

■インパクト抜群の“広瀬香美の仮面” 本人も企画にノリノリ

 3つ目に紹介するのは、湖池屋のブースだ。

 湖池屋といえば『ポテトチップス』を思い浮かべる方が多いだろう。だが、工場で製造されてから3日以内に出荷される「工場直送便」のポテトチップスがあるということをご存知だろうか。出来立てゆえに食感がよく、そしてなにより香り高いということで、ひそかに人気がある一品だ。なんと今回のブースでは、そんなポテトチップスの作り方を学びながら、実際に工場直送便のポテトチップスを購入することができるのだ。

 またブース内には休憩スペースもあり、湖池屋らしくポテトチップスがおいてあるほか、ビールサーバーも用意されている。グラスにビールを注いで乾杯をすることもできるので、休憩スポットとしても利用するといいだろう。

 最後に紹介するのは、JVCケンウッドのブースだ。去年のバーチャルマーケットでお披露目された広瀬香美アバターが全面に押し出されたブースとなっている。広瀬の楽曲「ゲレンデがとけるほど恋したい」を彼女のピアノをバックに踊ることができるスペースがあったり、ちょっとしたミニゲームが楽しめるエリアも。なお、ダンスの振り付けは、2022年にTikTokで話題を集めた「ロマンスの神様」の動画に振りをつけたタイガ氏が担当しているとのこと。

 踊りは自動でおこなわれ、ユーザーはそれを三人称視点で見る形になるのだが、アバターの背後にはなぜか広瀬の顔をプリントした仮面がぐるぐると回る。「これは一体……」と思うかもしれないが、HIKKY担当者が提案し本人も乗り気になったアイデアだそうだ。体験するときは、背後に回る広瀬の仮面にも注目してほしい。なお、この仮面自体もJVCケンウッドオーディオ製品・カーナビシステムなどと一緒に展示されている。顔に被せて「広瀬香美ごっこ」を楽しんでみてはいかがだろうか。

■最後に

 今回企業ブースを体験してみて、全体的に「バーチャルだからできること」についての解像度が高まっていると感じた。HIKKY社としても、バーチャルマーケットに出展する企業には「リアルでできることではなく、バーチャルだからこそできる企画」で出展するように勧めているようだ。

 バーチャルマーケットは今回で10回目の開催となる。長寿イベントとして継続してきたこともあってか、さまざまな事例が増え、工夫を凝らした企画が増えている。前述したように、参加する企業も「メタバース」への理解度を少しずつ高めており、より来場者が楽しめる展示が増えていると感じられた。

 『バーチャルマーケット2023 Summer』および『VRChat』は、パソコン単体からでも入場できる。企業が出展するブースは会期中のみの公開なので、ぜひともこの機会を逃さず見に行ってもらいたい。

(取材・文=東雲りん)

『バーチャルマーケット2023 Summer』