WOWOWにて放送中のオリジナルドラマ『ああ、ラブホテル ~秘密~』より、第5話「再見、生活費」と最終話ダイバーシティ・ラブホテル」の現場レポートが到着した。

『ああ、ラブホテル ~秘密~』は、2014年にWOWOWで放送されたオリジナルドラマの9年ぶり復活作。ラブホテルというワンシチュエーションで起きる、カップルの数だけ生まれるちょっと大人なコメディドラマだ。前シーズンから引き続き、藤村享平、大九明子が参加。さらに、二ノ宮隆太郎、内山拓也、松本優作、近藤啓介、阪元裕吾、淺雄望といった映画、ドラマ界で注目される若手監督たちが脚本も担当し、全18エピソードが制作された。

まずは、内山拓也監督による「再見、生活費」の撮影現場へ。初監督作品『ヴァニタス』でPFF アワード 2016観客賞を受賞し、『佐々木、イン、マイマイン』でも注目を集めた、期待の新進監督だ。

千葉県柏市にある「ホテル ブルージュ」の一室を借り切って行われた、本作の撮影。部屋に入るとあちこちに散りばめられたSMグッズが目に飛び込んできた。ここにはいつもの撮影カメラはない。内山監督は、コンパクトさが特長のカメラ「GoPro」を部屋の各所に設置し、GoProだけでドラマを作ろうとしているのだ。芝居を行うあらゆる場所にカメラを潜ませ、同時に撮影していく。通常のカメラでは撮影できないような位置からも撮影が可能ということで、ほかでは見られない映像に期待が持てる。

ラブホテルを訪れていた治と杏子の夫妻。治が買い物に出ていき、杏子ひとりだった部屋にドンドンとドアを叩く音が響く。杏子がドアを開けると、警官のコスプレをした見知らぬ若い女性が息せき切って入ってきた。助けを求めてきたのは中国人のリン。隣室で男性と一緒に入室していたが、相手が暴力を振るうので助けてほしいと言う。そこに戻ってきた治だったが、リンの顔を見ると挙動不審になり……。偶然の出来事によって関係性が急展開する、女2人と男1人のドタバタ劇。治役を瀬戸康史、杏子役を瀧内公美。リン役を三村朱里が演じる。

GoProのみで撮影するこのドラマは、カメラセッティングが鍵を握る。部屋中にカメラを設置し、なおかつお互いのカメラが映らないよう、カメラを巧妙に隠す。飾られたマスクの中、天井、死角になったベッド正面。さらには冷蔵庫の中、水槽の中にまで。ポテトチップスの袋の中にカメラを見つけた瀧内も、「こんなところにもある!」と驚いている。瀬戸も、「面白い撮影方法ですよね」とワクワクした表情だ。撮影時は俳優だけの空間になるこの部屋。監督はどこで映像を確認しているかというと、部屋の中にある小さなバスルーム。そこにはそれぞれのカメラと接続したiPhoneやiPadが並んでいた。これがモニター代わりというわけだ。

大まかなセッティングが終わり、内山監督と俳優3人による動きの確認(段取り)が始まった。基本的には長回しで撮影していくため、この確認も各自しっかりと行っている。段取りの時点で俳優たちの芝居は熱を帯びていき、「めっちゃ面白い!」と内山監督もニンマリ。段取りが終わり、スタッフたちがカメラの最終確認をする間、瀬戸と瀧内はセリフを合わせながらコミュニケーションを取っている。中国語のセリフが多い三村は、中国語が堪能なスタッフ に発音を確認してもらっていた。

俳優たちがカメラの位置を頭に入れ、全スタッフが部屋から退出。テストと本番が始まる。15分ほどカメラを回したところで、カットがかかった。内山監督が全カメラの映像をチェック。OKとなり、次の撮影へ。GoProを設置する位置は事前に29カ所が想定されており、シーンに合わせて内山監督と撮影監督が慎重に選定。5〜7個ほどのカメラを同時に撮影していく。iPhoneのインカメラを使いながらアングルを考えていたのは内山監督。「脳みその、いつもは使ったことのない部分を使っている感じ」と頭を抱えながらぼやいている。なにせ、俳優たちの動きを頭に入れながら、カメラの位置を時間内に決めなければならないのだ。

リンがかぶる制帽の中にカメラを仕込もうとしたり、柱についているおもちゃのガスマスクの中に設置しようとするもうまくいかなかったりと、トライ&エラーを繰り返すスタッフたち。誰もが気軽に使えるツールだけに、想定外のことが起こることもある。セッティングに時間をかけ、カメラが回ると俳優たちだけの空間になる。誰もが撮影を楽しんでいる、そんな内山組だった。

「ダイバーシティ・ラブホテル」撮影レポート

連続ドラマW-30『ああ、ラブホテル ~秘密~』より「ダイバーシティ・ラブホテル」写真

7月14日(金) でいよいよ最終回。放送される2作は、どちらも『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』などで映画ファンからの支持も熱い、大九明子監督による短編だ。そのうちの一遍「ダイバーシティ・ラブホテル」の撮影も、「ホテル ブルージュ」で行われた。

ホテル ブルージュは、ヨーロッパ貴族の館のような荘厳な建物が最大の特長。中に一歩入った瞬間から非現実の世界に誘ってくれる。放送では「ああ、ラブホテル〜写真館〜」と題し、日本全国にある一度は行くべきラブホテルの写真を掲載するなど、現存するラブホテルを重視しているこのドラマ。数々の映像作品で撮影に使われているホテル ブルージュは、撮影場所に最適だ。天蓋付きベッドがあるロマンチックな部屋が、この日の舞台となる。

弁護士のショウタとパラリーガルのトオルが、その日の裁判を終えてホテルにやってきた。歳の差があるカップルだけに、同じゲイでも視点が少し違っている。共に法律家でもあるだけに、何かが気になると遠慮せず議論を戦わせる。

トオルラブホテルに来るのが初めて。それだけにあらゆることが気になってしまうが、ショウタは早くトオルとイチャイチャしたい。2人の愛を守るため、ラブホテルダイバーシティ化構想が始まる。先輩のショウタ役を林遣都、後輩のトオル役に板垣李光人。2人とも大九組の常連俳優。お互いの信頼関係の高さがうかがえる。

2人が部屋に入った後、利用客たちによる雑感ノートを見たり、腕時計をはずしたりジャケットを脱いだりという、なにげないけれど少しずつその時に近づいていく流れを撮影していく大九監督。服を脱ぐのにかかる時間などを確認し、まずは段取りをやってみることに。林と板垣が芝居をする周りで、楽しそうな表情をしつつ動きながらカメラアングルを決めていく大九監督。ショウタのハイテンションを活かすためか、林にはシャツとズボンを一気に脱いでもらうことになった。

2人が部屋で読むノートには、「愛のノート」という名前がついている。適度に使い古され、これまでにこの部屋を利用してきた客たちが愛の言葉を書き連ねているという設定。ストーリーにとっても欠かせないこの小道具だが、実は現場のスタッフたちが、台本をもとに総出で字を書いたもの。夫婦で来たという設定で書いていたりと、スタッフの工夫が表れている。物語の中で、トオルがこのノートに新たに書き込もうとする。書いているところを真俯瞰で撮影中、大九監督から「もっと速く、2倍ぐらいのスピードで書いて」という指示が入る。2人が芝居に没頭すると、大九監督ははしゃぐような笑顔でモニターを見ていた。芝居の流れを固めると、あとは俳優たちに託す。お互いをリスペクトし合いながら着々と撮り重ねていく仕事ぶりにプロフェッショナルを感じた、大九組の現場だった。

取材・文=大曲智子

<番組情報>
連続ドラマW-30『ああ、ラブホテル ~秘密~』

毎週金曜 23:00~(全9話/18エピソード)

第1話
監督・脚本:藤村享平
出演:「狐と狸」坂東龍汰、石川瑠華/「運命の2人」岡山天音、小野花梨

■第2話
監督松本優
脚本:松本優作、島田雄史
出演:「愛してれば、関係ない」松本まりか、三浦貴大/「壁の落書き」皆川猿時、桜田ひより

第3話
監督・脚本:淺雄望
出演:「落とせたら10万円」堀田真由、井之脇海/「2人合わせて5万円」鈴木杏、石井杏奈、林田洋平(ザ・マミィ

■第4話
監督・脚本:二ノ宮隆太郎
出演:「子猫ちゃん」磯村勇斗、三浦透子/「早春」荒川良々、木竜麻生

■第5話
監督:内山拓也
脚本:内山拓也、木村暉
出演:「再見、生活費」 瀬戸康史、瀧内公美、三村朱里/「愛しき隣人」酒向芳、光石研

■第6話
監督・脚本:近藤啓介
出演:「フロント9番」金子大地、片山友希、中村無何有/「十八番」櫻井健人、大鷹明良、芹澤興人、成嶋瞳子

■第7話
監督・脚本:阪元裕吾
出演:「HAPPENING KILLER」伊能昌幸、中村ゆりか、坂口涼太郎/「思ってたのと違う」小野莉奈、前田旺志郎

■第8話
監督・脚本:藤村享平
出演:「記憶」加藤諒、岡田結実/「やさしいホスト」森崎ウィン、佐藤玲、髙石あかり

最終話
監督・脚本:大九明子
出演:「ダイバーシティ・ラブホテル林遣都、板垣李光人/「あああラブホテル」 坂井真紀、岡田義徳、北村優衣、山崎竜太郎、山脇辰哉

■全話「清掃員部屋」
監督・脚本:藤村享平
出演:稲川実代子、高井佳佑(ガーリィレコード)、リロイ太郎、中井千聖

特設サイト:
https://www.wowow.co.jp/drama/original/lovehotel/

連続ドラマW-30『ああ、ラブホテル ~秘密~』より「再見、生活費」写真