アメリカ海軍ビッグEの愛称でも親しまれた、旧原子力空母「エンタープライズ」の解体をどのように進めるべきかの論議がここ数年アメリカ国内で続いていましたが、ようやくまとまる気配をみせつつあります。

停泊しているだけで数百万ドルを費やす船に

アメリカ海軍で「ビッグE」の愛称でも親しまれた、旧原子力空母エンタープライズの解体をどのように進めるべきかの論議が、ここ数年アメリカ国内で続いています。

同空母は世界初の原子力空母として、2012年12月に退役するまで55年以上に渡りアメリカ海軍の象徴ともいうべき存在でした。

退役後も除籍はされていませんでしたが、ついに2017年2月正式にアメリカ海軍から除籍され、式典がバージニアノーフォークで行われました。その後、同艦はバージニア州のニューポートニュース造船所に置かれており、一時期は記念艦として保存する計画もありましたが、搭載する原子炉の関係などから解体する方針となりました。

同艦は詳細が決まれば、世界初の解体される原子力空母となりますが、全てが初めての試みということで、なかなか方針が決まらず。艦の維持費に年間数百万ドルを費やすという、かなりお金のかかる退役艦となっていました。

ネックは8基も搭載されている原子炉

2023年6月30日に海軍が発表した同艦の解体に関する報告書では、数十年使用した原子炉の廃棄が生態系に及ぼす危険性のほか、同艦の解体方法について提案されています。

解体案について複数用意されているようで、そのうち軍が使用するピュージェット・サウンド海軍造船所で解体する案の場合、解体中は同艦にスペースと時間を取られることになる造船所が逼迫し、他の艦船の保守管理に支障が生じる可能性があると、海軍は難色を示しています。

海軍が最も望んでいる案は民間業者に委託して解体する方法です。最も大きな懸念材料は8基搭載されている原子炉の処分で、選択肢としては、民間業者を使って艦船の3分の2まで解体し、推進スペースと原子炉はそのまま残して、最終処分のためにピュージェット・サウンド海軍造船所に送る方法のほか、民間業者が容器まで完全に解体し、原子炉プラントと関連部品を梱包して出荷、認可を受けた施設で処分する方法があるようです。

なお、原子炉を有した艦ということで、周辺環境への影響やスタッフの安全には細心の注意を払う必要があり、どちらの方法を選んだにしても、コストは莫大な額がかかると見込まれています。

どれだけ厳重にやるかによっても費用はまちまちのようですが、アメリカ国内でこれまで報じられている、予想額を参考にすると、おおよそ7億ドル(約970億円)から14億ドル(約2000億円)の額がかかり、解体期間は5~15年になる見込み。ちなみに、現在アメリカ海軍が配備を進めているサン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦の建造費が約14億ドルと言われているので、最大のコストになると、解体するだけで新しい揚陸艦が作れてしまいます。

海軍としては、より多くの作業を民間に委託した方が費用を安く抑えられると見解を述べています。民間に委託された場合はバージニア、テキサス、またはアラバマにある認可された商業解体施設まで曳航される見通し。

なお、2025年頃にはニミッツ級原子力航空母艦の「ニミッツ」が退役の予定です。その後は10年以内に退役する予定のミニッツ級が9隻も控えています。原子炉の数こそ2基と「エンタープライズ」よりは少数ですが、アメリカ海軍と国防総省は、それらの艦が退役するまでに、原子力空母解体の基本的な方針を決めておかなければなりません。

50周年イベント時の「エンタープライズ」(画像:アメリカ海軍)。