JR成田駅で発車を待つ185系電車C1編成。行き先票と呼ぶのがふさわしいヘッドマークには「広島―銚子」と記されます

千葉県銚子電気鉄道(銚電)が開業100周年を迎え、2023年7月8、9の両日、記念イベントが開かれました。8日は先に宮島線が100周年を迎えた広島電鉄(広電)から、LCCとJRを乗り継いで銚電にバトンをつなぐ、移動距離1000キロ超の「100周年記念バトンリレー」、9日は犬吠駅前広場での「銚電まつり」。9日は電車が無料運行され、「銚電、次の100年に向けたスタート」(竹本勝紀社長)を力強くアピールしました。

鉄道ファン一番のお目当ては、JR成田線成田―銚子間に運転された、8日の臨時列車「100周年バトンリレー号」。国鉄時代に「新幹線リレー号」として上野―大宮間を結んだ185系(※)が、バトンリレーの大役を務めました。

成田駅の電光掲示板には銚電の終点「外川」の駅名。国鉄時代、銚子から外川行きの直通臨時列車が運転されたこともありました

※注……過去に新幹線リレー号に抜擢されたのは185系の200番台であり、今回の「100周年バトンリレー号」に充当されたのは「踊り子」などに使用された0番台のC1編成。ですが、このC1編成も2022年の「鉄道開業150年」を記念した団臨において、200番台の塗装で運転した実績があります(鉄道チャンネル編集部)

国鉄時代の「新幹線リレー号」が100周年のバトンをつなぐ

まずは、鉄道ファン注目の「バトンリレー号」。もう40年も前の話なのでご存しない方も多いでしょうが、東北・上越新幹線は最初から東京・上野が始発だったわけではありません。

東京都内の用地買収の遅れなどから、1982年6月に開業した東北新幹線、同11月開業の上越新幹線は、1985年3月の上野延伸開業まで大宮駅が始発でした。

この間、新幹線を快適に利用してもらおうと、国鉄当局がひねり出したのが「新幹線リレー号」です。上野ー大宮間の直通列車で、原則東北・上越新幹線利用客だけが乗車可能。車両は初期はさまざまな形式が充てられたようですが、やがて特急仕様の185系電車に統一されました。

185系は国鉄が最後に製作した特急用車両で、伊豆特急のほか着席通勤のライナー列車に使用されました。長く活躍しましたが、老朽化で廃車が進み、現在残るのは6両編成2本だけ。うちC1編成は、国鉄時代の新幹線リレー号塗装に戻されています。

JR東日本千葉支社広報担当にうかがったところ、「千葉支社管内へは、2023年3月の成田駅撮影イベントでやってきたことはあるものの、実際に乗客を乗せて走るのはおそらく初めて」とのことでした。

今回は、定員120人のツアーが設定されて完売。始発の成田、到着の銚子、途中停車駅の佐原の3駅には、ファンが殺到、走行中も沿線にはカメラの放列が敷かれました。

佐原駅には千葉県チーバくんと、地元・香取市出身で江戸時代に“50歳の地図”を測量・作図した伊能忠敬マスコットキャラクター「ちゅうけいSUN」が列車をお出迎え

「古い車両は時代の空気感が感じられる」

佐原駅では、40分ほど停車時間があったので、ツアー参加者の方に話を聞きました。熱心にシャッターを切っていたのは、地元・成田市在住の20歳代のファン。鉄道会社のツアーには、参加約10回とのことです。

185系のような古い車両に乗ると、列車が走ってきた時代というか、独特の空気感が感じられます。それが好きなんです」。ベテランらしい言葉にうなずかされます。

好きな鉄道は北海道。「長時間乗車でき、『鉄道旅をした』という充実感に浸れます。今、北海道の鉄道は難しい状況にあるようですが、何とか立ち直って列車旅の魅力をつないでほしい」と話してくれました。

2期連続で最終黒字

ここから本題の銚電100周年。山あり谷ありの歴史は、本サイトなどで語り尽くされています。1913年に銚子―犬吠間が開業したものの、業績不振で1917年に廃止された銚子遊覧鉄道を前身に、地元有志の手で会社を設立。旅客のほか、貨物も海産物や特産の醤油を輸送しました。

マイカー普及や少子化2000年代初頭からは何回もの経営危機に見舞われましたが、ぬれ煎餅やまずい棒などのヒット商品を生み出して、経営を立て直しつつあります。

銚電は2023年6月30日、走る電車内で定時株主総会を開催。2021年度、2022年度と2期連続で最終黒字を計上しました。

地方鉄道と積極的に相互交流

もう一つ、銚電の取り組みに地方鉄道との積極交流が挙げられます。竹本社長は話上手。「電車屋なのに自転車操業」、「まずい棒、まずいのは経営状況」といった自虐ネタは、多くの地方鉄道に共感を呼びます。

ひたちなか海浜鉄道茨城県)、えちごトキめき鉄道新潟県)など姉妹鉄道の輪を拡大。広電とのリレーイベントも、銚電が広電のイベントに参加したのをきっかけにアイディアが生まれました。

この日、広電の手で広島市内を出発したバトン代わりのタブレット(通票)は、広島空港で広電の椋田昌夫社長から、広島―成田線に就航するLCCスプリングジャパンの米沢章社長に、次いでJR成田駅で米沢社長からJR東日本の土澤壇執行役員・千葉支社長に、さらに185系が到着したJR銚子駅では土澤支社長からアンカーを務めた、銚電の竹本社長へとつながりました。

銚電の「バトンレシーブ号」は3000形電車で運行。元京王電鉄5000系電車で、四国の伊予鉄道を経て2016年から運行されています

犬吠駅での到着セレモニーでは、4社代表が「これからも相互協力して、鉄道・公共交通ネットワークを盛り上げたい」(土澤JR千葉支社長)などとアピールしました。

硬券名刺、ぬれ煎餅入りチーズパン……

100周年を迎えた銚子電鉄は話題満載。2023年4月以降では、「乗車券付き硬券名刺」、「チーズパン(銚子電鉄のぬれ煎餅入り)」、「あなたのコメントを中吊り広告に」、「飲む、ぬれ煎餅プロテイン」、「世界初のきっぷ専用ポケット付きシャツ」といった新製品や新サービスが続きます。いずれも、専門企業とのコラボで生み出されました。

竹本社長は最後に、「当社が目指すのはリニアモーターカーならぬシニアモーターカー。浮上はしないけれども、地に足を付けて地域やファンの皆さんに愛され続ける鉄道をつくり上げたい」とコメント。自称、“日本一のエンタメ鉄道”らしいセリフでイベントを締めくくりました。

次いで、竹本社長は9日の「銚電まつり」で、新車投入を発表しました。詳細はこれからですが。ファンは期待して待ちましょう。

犬吠駅前広場に勢ぞろいした椋田広電社長、米沢スプリングジャパン社長、土澤JR東日本千葉支社長、竹本銚電社長=写真左から=

記事:上里夏生
(写真は全て筆者撮影)