世界最大の資産運用会ブラックロックが「ビットコインの現物ETF」を申請したことが、大きな注目を集めています。本ETFが承認されると、ビットコインの資産価値は大きく上昇する可能性があります。そのようななか、マネックス証券暗号資産アナリストの松嶋真倫氏は、ビットコインETFへの期待の背景には「金」との関係あるといいます。“最新技術のデジタル資産”と“古くからある現物資産”にどのような関係があるのか、みていきましょう。

ブラックロックによるビットコイン現物ETF申請を受けて相場は強気へ

2022年、米国でテラショックやFTXショックといった相場暴落をともなう大事件が起きてから、各国で暗号資産規制を強化する動きがあり、暗号資産相場の低迷期が続いています。米国では証券取引委員会(以下、SEC)を中心に暗号資産関連企業の取り締まりが厳しくなっており、一部では訴訟問題に発展するなど規制に関して不透明感が強まっています。

こうしたなか、2023年6月に世界最大の資産運用会社「ブラックロック」がビットコインの現物をベースとしたETF(上場投資信託)を申請したことが話題になりました。

これまでETFに投資したことがある人であれば、「iシェアーズ」という同社ブランドを目にしたことがあるでしょう。世界でもっとも有名なETFブランドの商品ラインナップのなかに、ビットコインが加わる可能性が出てきました。これに追随するかのように、フィデリティやウィズダムツリーなど他の金融機関も同様の申請を出しています。

米国の規制状況を考えれば、まさかこのタイミングでビットコイン現物ETFが承認されることはないだろうと思われます。米SECはビットコインの現物取引における相場操縦リスクなどを問題として、これまですべての申請を拒否してきたためです。

一方、世界でもっとも信頼されている資産運用会社が名乗りを挙げたことで、米SECがその姿勢を変えるのではないかとの期待が高まっています。ブラックロックのCEO自らがビットコインを支持する発言をしたことも注目されています。

ビットコインは、2023年5月以降に米SECと大手暗号資産取引所(コインベースやバイナンスなど)との対立が激化したことにより価格を下げていました。しかし、ブラックロックによるビットコイン現物ETF申請を受けて相場は強気に転じ、年初から100%超上昇となる450万円にまで一時高騰しました。

これまでの経験から、米SECは慎重な判断が求められるため、今回のビットコイン現物ETFに関する審査もひとまず延期になる可能性が高いです。それによってビットコイン価格も下がるかもしれません。

しかし、審査期間の最大である240日間のうちに米国の規制環境が改善されれば、それが晴れて承認され、大きな上昇トレンドを生み出す可能性もあります。

2024年前半には金融市場において各国の利下げ転換がスタートし、金融資産の買いが強まることも考えられます。また、暗号資産市場ではこれまでのバブル周期として意識される4年に1度の「ビットコイン半減期マイニングによる新規発行量が半減するイベント)」も控えています。これらにビットコイン現物ETFの承認が重なり、暗号資産市場に再び大相場が訪れることに期待です。

ビットコインへの期待を裏づける「金」との関係

そもそも、なぜビットコイン現物ETFがこれほどに期待されているのでしょうか。その理由は、「ビットコイン」と「金」との関係にあります。

ビットコインは金に似た性質を持つ“デジタルゴールド”として語られることが増えています。金の埋蔵量が限られているように、ビットコインの発行量も2,100万枚と決められているほか、金もビットコインも特定の管理者が存在しないため、国や企業の情勢に影響を受けづらいからです。

ここで金の歴史を振り返ると、いまでこそ金への投資はリスクヘッジ手段としても一般化していますが、そのきっかけとなったのはETFでした。2004年には、「SPDRゴールド・シェア(GLD)」という金ETF(図表2参照)が米国で承認されたことで、金市場に大きな影響を与えました。GLDの承認により、個人投資家や機関投資家が簡単に金への投資を行えるようになり、需要が急増。これにより金価格が急騰し、金に対する関心も高まったのです。

ビットコイン現物ETFが承認された場合、金と同様の効果が生じる可能性があります。ビットコインはいまでも暗号資産取引所を通じて売買が可能ですが、暗号資産そのものの理解がおよんでいないところもあり、多くの投資家にとって直接的に投資することは敷居が高いままとなっています。

一方、ETFは従来の金融市場においても馴染みのあるものであり、ETFの枠組みでビットコインへ投資できるようになることで、より多くの投資家が暗号資産市場に参入しやすくなることが予想されます。

最近では個人投資家だけでなく、機関投資家も暗号資産への関心を高めています。彼らが暗号資産へ投資する際には、現物を直接保有するよりもETFのような形で間接的にエクスポージャー(リスクにさらされている資産の割合)をとれたほうが運用しやすいでしょう。

ビットコイン現物ETFの承認が実現すれば、機関投資家の多様な投資戦略の一部としてもビットコインが取り入れられ、大きな資金が暗号資産市場に一気に流れる可能性があります。それによりビットコインの価格も大きく上昇することが期待できます。

2021年10月に米国でビットコインの先物をベースとしたETFが承認されたときも、ビットコインは高騰しました。つい先月には米SECによってレバレッジ型のビットコイン先物ETFも初めて承認されました。

しかし、やはり本命はビットコインの現物価格と連動したETFです。はたしてブラックロックがその重たい扉を開くのか、今後の相場を占うためにも、審査の状況は注意して見るようにしましょう。

松嶋 真倫

マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ

暗号資産アナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)