スペイン領のラ・パルマ島に打ち上がったマッコウクジラから50万ユーロ(約7700万円)相当のお宝が発見されました。

このお宝は「龍涎香(りゅうぜんこう)」というマッコウクジラの腸内からのみ採取できる結石です。

龍涎香は非常に希少性の高い香料として高値で取引される物質です。

通常は海に漂っているものを偶然に発見するしかないため、非常に希少性が高く、キロ当たり数百万円の高値がつきます。

ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア大学(ULPGC)によると、今回見つかった龍涎香は直径60センチ、重さ9.5キロに及ぶ巨大なものだったとのことです。

目次

  • 打ち上がったクジラから「7000万円越えのお宝」が見つかる
  • 「龍涎香」はどうやって作られる?

打ち上がったクジラから「7000万円越えのお宝」が見つかる

マッコウクジラの死骸が打ち上がったのは今年5月21日スペインカナリア諸島の一つラ・パルマ島(La Palma)」の浜辺でのことでした。

ULPGCの動物衛生・食料安全保障研究所のアントニオフェルナンデスロドリゲス(Antonio Fernández Rodríguez)所長は、報告を受けて現場に駆けつけました。

当時は海がかなり荒れていて、激しい波が浜辺に打ち付けていたものの、ロドリゲス氏は「死因を突き止めるためにその場でクジラの解剖をしようと決意した」と話します。

ラ・パルマ島に打ち上がったマッコウクジラの死骸
Credit: Universidad de Las Palmas de Gran Canaria (The Guardian , 2023)

マッコウクジラの全長は約13メートルで、体重は同サイズの健康な個体より5〜10トンも少ないと推定されました。

そこで消化器系の問題を疑ったチームは、クジラの腹部を切開して腸内を調査。

すると結腸のあたりに大きくて硬い岩のようなものが見つかりました。

これがまさに直径60センチ、重さ9.5キロの巨大な「龍涎香」だったのです。

胃の中から見つかった巨大な龍涎香
Credit: Universidad de Las Palmas de Gran Canaria (The Guardian , 2023)

マッコウクジラはこの龍涎香が詰まっていたことで通常の食事ができなかったと考えられます。

ロドリゲス氏によると、今回見つかった龍涎香は50万ユーロ以上(約7700万円)の価値に達するという。

では、龍涎香とはそもそもどうやって作られるものなのでしょうか?

「龍涎香」はどうやって作られる?

龍涎香は英語でアンバーグリス(Ambergris)」と呼び、”灰色の琥珀”を意味する古フランス語のambre gris(アンブル・グリ)に由来します。

アンバーグリスを作るのは絶滅危惧種に指定されているマッコウクジラのみです。

しかも全てのマッコウクジラから得られるのではなく、約100頭に1頭の割合でしかアンバーグリスは作られません。

こうした要因もアンバーグリスの希少価値を高めている理由の一つです。

過去に北海で採れたアンバーグリス
Credit: en.wikipedia

さて、ハクジラ類の最大種であるマッコウクジラは普段、歯を使ってイカやコウイカを大量に食べています。

しかしそのほとんどは消化できずに吐き出されてしまいますが、一部が未消化のまま体内に残されます。

イカには硬いクチバシがあるため、これが塊になると柔らかな胃や腸を傷つけかねません。

そこでマッコウクジラは彼らに特有のワックス状物質を分泌し、未消化の塊を包み込みます。

そしてワックスに包まれた塊が排出されないと、腸管に沿って移動し、直腸を塞ぐように塊がどんどん溜まって結石化していきます。

これがいわゆる「アンバーグリス」です。

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アンバーグリスは運がよければ便と共に排泄されますが、あまりに大きくなりすぎると腸を破って体外に飛び出します。

いずれにせよ、アンバーグリスを手に入れるには、海に漂っているものか浜辺に打ち上げられたものを見つけるしかないので、よく「海を漂う黄金(floating gold)」と称されます。

アンバーグリスの主な使い道は、高級香水などの香りを持続させるための保留剤です。

アンバーグリスはビャクダンのような甘い香木の香りを持つ一方で、アンブレインという芳香性物質も含んでいます。

これが香りを固定して長持ちさせたり、媚薬効果を生み出す働きをしているのです。

取引後のお金は何に使う?

絶滅危惧種マッコウクジラの捕鯨は国際条約で禁止されていますが、アンバーグリスは動物の廃棄物とみなされているため、多くの国々で取引が合法となっています。

(アメリカ、オーストラリアインドでは禁止されている)

カナリア諸島を含むEUでも合法であり、ロドリゲス氏らは現在、今回見つかったアンバーグリスの買い手を探しているとのことです。

ロドリゲス氏自身は「取引で得られた金額は、2021年にラ・パルマ島の火山噴火で被害を受けた住民の支援に使われることを願っている」と話しました。

ラ・パルマ島では2021年9月19日にクンブレ・ビエハ火山が噴火し、約5000人(総人口は約8万5000人)が被害を受け、被害総額は8億ユーロ(約1243億円)にのぼると推計されています。

【編集注 2023.07.17 09:30】
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参考文献

$500,000 chunk of ‘floating gold’ found in dead whale https://www.livescience.com/animals/whales/dollar500000-chunk-of-floating-gold-found-in-dead-whale Pathologist finds €500,000 ‘floating gold’ in dead whale in Canary Islands https://www.theguardian.com/environment/2023/jul/04/las-palmas-pathologist-ambergris-block-dead-sperm-whale
打ち上がったマッコウクジラから7700万円相当の「龍涎香」が見つかる!