本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が6月21日に配信したレポートを転載したものです。

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足元の株高により強気相場入りした米国株

足元で米国株の上昇基調が強まりつつあります。

6月8日にはS&P500指数が直近安値からの上昇率が20%を超えて強気相場入りしたほか、ハイテク銘柄の比重が大きいナスダック総合指数は年初からの上昇率が30%超に達しています(図1)。

こうした足元の米国株堅調の背景として、次の4つの点を指摘することができます。

足元の米国株堅調を支える4つの背景

第一に、米債務上限問題の解決です。米国の債務上限の効力を2025年1月まで停止する財政責任法は、上下両院での可決を経て6月3日バイデン大統領によって署名され、懸念された米国債デフォルトは回避されました。

第二に、米半導体大手の決算発表などをきっかけに、生成AIブームへの期待がハイテク株上昇の主導役となっていることが挙げられます。

第三に、6月13-14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けても、市場では先行きの追加利上げに対して懐疑的な見方が優勢であることです。今回のFOMCでは年内にあと2回の利上げを想定していることが示唆されたものの、先物市場では年内の追加利上げの織り込みは引き続き限定的に留まっています(図2)。

第四に、米国経済が予想以上の底堅さを示していることが挙げられます。軟調な傾向にある米国の景気先行指数は引き続き先行きの景気後退の可能性を示唆する一方、景気一致指数は生産や雇用などの実際の経済活動が底堅さを維持していることを示しています(図3)。

ただし、足元の米国株上昇には不安定感が残る

もっとも、上昇基調が続く米国株式市場にも、大手ハイテク株に偏重した株高やバリュエーションの割高感などの面で不安定さが残されています。

S&P500指数のパフォーマンスを要因分解してみると、年初来での堅調な株価上昇はハイテク大手7社によって概ね主導されており、その他銘柄の株価の回復は限定的に留まっています(図7)。

また、足元の株価上昇によって、ナスダック総合指数の12ヵ月先予想PERは30倍超へ上昇するなど、ハイテク株中心にバリュエーションの割高感が高まる兆しもみられます(図8)。

今後の米国株は強気相場の持続性が焦点に

今後の米国株の焦点は強気相場の持続性に集まりそうです。特に米国株が2023年後半も安定傾向を維持できるかは、次に挙げる3つの点がカギを握ると考えられます。

注目①:米国のインフレ見通しと利上げの行方

第一に、2023年後半には改めて米国のインフレと金融政策の行方に市場の注目が集まると考えられます。

前述の通り、6月のFOMCを受けて、今後の利上げ見通しを巡ってFOMC参加者と市場の間で見方の乖離が生まれています。足元の米国のインフレ率は、消費者物価指数CPI)やコアCPIの伸び率の鈍化傾向が顕著となっています(図4)。

ただし、米国の雇用環境の底堅さから賃金上昇率が高止まりし、今後のインフレ率が想定ほど低下しない場合には、FOMC参加者が想定する年後半の追加利上げの現実性が高まると考えられます(図5)。

一段の利上げ懸念の再燃は、割高感が高まりつつあるハイテク株を中心に米国株の調整圧力となる可能性があります。

注目②:米国企業の収益見通し

第二に、米国企業の収益見通しの行方が注目されます。

これまで米国株の2023年の利益予想(市場コンセンサス)は、景気後退リスクを織り込む形で下方修正が進んできました。しかし、足元では利益予想の下方修正が一巡する兆しが見え、米国企業の収益環境が徐々に最悪期を脱し始めた可能性があります(図6)。

また、米国株の2024年の利益は引き続き前年比で二桁台の成長が見込まれています。今後、市場の注目が2024年の利益見通しにシフトするに連れて、収益回復の面から米国株が下支えされることが期待されます。

注目③:米国企業の株主還元への再評価

最後に、米国企業の株主還元への再評価が広がるかも年後半の米国株式市場の注目材料と言えます。

2023年の米国株式市場では、不透明な市場環境の中、現金保有比率の高い銘柄ほどパフォーマンスが改善する傾向がみられます(図9)。米国企業は依然として多額の手元資金を抱えており、配当や自社株買いなど株主還元への有効活用の余地が残されていそうです(図10)。

和泉 祐一

フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社

シニア リサーチアナリスト