厚生労働省が2023年7月4日に公表した「国民生活基礎調査」のなかで、2021年の「ひとり親世帯」の相対的貧困率が44.5%と半分近くが貧困状態にあることが判明しました。ひとり親世帯は経済的に困窮しやすいのは間違いなく、公的な給付や税制優遇制度は余すところなく活用したいものです。本記事では、それらの制度のなかでもまだ知名度が低く、誤解も多い「ひとり親控除」について、税理士の黒瀧泰介氏が解説します。
「ひとり親控除」とは
ひとり親控除とは、シングルマザー・ファーザー、すなわち「ひとり親」が、毎年「35万円」の所得控除を受けられる制度です。
後述する要件をみたす限り、子が何歳でも利用できます。
2020年度分から施行された制度で、まだ知名度が低く、活用していない世帯も多いことが想定されます。
特に、婚歴の有無が条件となっていないので、婚歴のない「ひとり親」の方は、ぜひとも活用していただきたい制度です。
ひとり親控除ができる以前は、似た制度として「寡婦控除」「寡夫控除」がありました。しかし、いずれも婚姻歴があることが必要とされており、未婚のシングルマザー・ファーザーは対象外でした。
それでは憲法が定める「法の下の平等」(憲法14条)に違反する疑いがあるということで、婚姻歴を問わない制度として定められたのが、「ひとり親控除」です。
ひとり親控除を受ける要件
ひとり親控除の要件は以下の通りです。
【ひとり親控除の要件】
1. 現に婚姻していないこと、または配偶者の生死が明らかでないこと
2. 事実婚(内縁)と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
3. 生計を一にする子がいること
4. 子の所得の合計額が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていないこと
5. 合計所得金額が500万円以下であること
注目すべきは、子の年齢が要件になっていないということです。子が成年に達していても、上記要件をみたす限り、ひとり親控除の対象となるということです。
また、「合計所得金額が500万円以下」という所得制限があります。「合計所得金額」は、所得が給与所得だけの場合は「年収677万7,778円以下」ということになります。
「ひとり親控除」の手続き
「ひとり親控除」の手続きは、給与所得者(会社員・公務員等)と個人事業主とで異なります。
◆給与所得者は「年末調整」
給与所得者は、勤務先で10月頃から年末調整の書類が配られるので、そのなかの「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記入して提出します。
「区分C:障害者、寡夫、ひとり親又は勤労学生」の「ひとり親」の欄にチェックを入れます。
個人事業主は、確定申告の際に、確定申告書の「第一表」の「寡夫、ひとり親控除」の欄に金額「350000」を記入し、「第二表」の「本人に関する事項」の「ひとり親」欄に〇をつけます。
「申告を忘れた!」という人でも今なら間に合う
「ひとり親控除」の制度は、まだ十分に周知されているとは言い難い状況です。
たとえば、過去の「寡婦控除」「寡夫控除」には婚姻歴が要求されていたことから、婚姻歴がない方が、自分は対象にならないと思い込んで、申告していないケースが考えられます。
また、子が未成年でなければ申告できないと思い込んで申告していないケースも考えられます。
しかし、「安心してください! 間に合いますよ!」
「更正の請求」という制度があります。これは、過去の年度の分について税金を計算し直し、払いすぎた額について「還付」を受けられる制度です。5年前まで遡れるので、「ひとり親控除」が始まった2020年以降の分については、現状、すべて対象となります。
この制度を利用すれば、各年度の税金を「ひとり親控除」を利用した想定で計算し直されるので、払いすぎた分を取り戻すことができます。
更正の請求の申告書は、国税庁HP「確定申告書等作成コーナー」の「更正の請求書・修正申告書作成コーナー」で、簡単に作成できます。
案内に従って必要事項を入力すれば、「更正の請求書」のデータが作成されます。あとはプリントアウトして最寄りの税務署に送るか、「e-Tax」で申告すれば手続きは完了です。
「ひとり親控除」は、要件をみたす方にとっては、毎年35万円の所得控除を受けられるもので、累積での税負担軽減効果が大きくなります。また、過去に不知や勘違い等によって申告しなかった場合も今ならば「更正の請求」の手続きによりカバーできます。ぜひ、積極的に活用していただきたいと思います。
黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ 共同代表
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