税務調査は「高圧的な調査官に尋問されると」いった怖いイメージを抱いている人も少なくありません。しかし、実際には人あたりの柔らかい税務調査官も多く、むしろ“やり手の調査官”ほどその傾向が強いと、多賀谷会計事務所の現役税理士・CFPの宮路幸人氏はいいます。ただ、宮路税理士は、そのような調査官に当たった場合“雑談”に注意が必要だと警告します。それはなぜか、詳しくみていきましょう。

税務調査は「怖い」?

相続税の税務調査というと、映画『マルサの女』のように、「令状を手にした調査官がいきなり乗り込んでくる」という怖いイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

しかし実際には、事前に税務署から「相続税の税務調査に伺いたい」との連絡があるのが一般的です。マルサが行う強制捜査は、検察官への告発を目的とした犯罪捜査であるため、裁判所から許可を得て査察調査を行います。したがって、ごく一部の相当悪質な場合以外は、「いきなり乗り込まれる」といったことはありません。

以下で、税務調査の流れについて詳しくみていきましょう。

1.税務調査の連絡が来る

まず、税務調査にあたっては、先述したように税務署から「税務調査に伺いたい」と事前に連絡があります。この際、相続税の申告書を税理士に依頼した場合はその税理士に、ご自身で申告した場合は自宅に連絡が入ることになります。

そこで相続人や税理士と話し合い、税務調査の日程を決定します。日程調整の際は税務署も柔軟に応じてくれますので、都合が悪い場合は素直にその旨を伝えましょう。また、相続人は慣れない調査で緊張しているでしょうから、税理士がついている場合は事前によく打ち合わせをしておくとよいでしょう。

2.被相続人の自宅で税務調査が行われる

相続税の税務調査が行われる場所は、原則として被相続人が生前暮らしていた家で実施されます。調査官は、通常2名で来るのが一般的です。

調査が行われる時間帯は、午前は10時~12時まで、昼に食事休憩を挟み、午後は13時~16時、最大17時ぐらいまで行われます。このように税務調査はほぼ1日かけて調査が行われます。

税務調査の際は「正直に話す」のがポイント

税務調査において一番重要なポイントは、「正直に答えること」です。税務調査官は事前に被相続人や相続人の口座における資金の流れをある程度把握しているため、嘘をついているのが知られてしまうと調査官の心証が悪くなります。「他にもなにか隠しているのではないか」と調査が長引くケースもあります。

もし記憶が曖昧なことを聞かれた場合は、中途半端に答えるよりは、「よく覚えていない」とはっきり答えるほうがよいでしょう。

やり手の調査官が仕掛けてくる“雑談”に要注意!

納税者にしてみると、「税務調査官は怖い」という印象を持っている方が多いかと思いますが、筆者としては実際には人あたりが柔らかい調査官も多い印象です。特にやり手の調査官のほどそういう傾向が強く、その分人からうまく話を引き出すのが上手です。

調査官が来たあとも、すぐに「相続財産のあれを見せてください」「これはなんですか」とは始まりません。まずは被相続人の人となりを聞くような雑談から始まることが多いです。

ただし、この調査官との“雑談”にもっとも注意すべきです。この雑談で申告漏れが発覚することが多いためです。

必要以上に警戒して無口になる必要はありませんが、雑談中も「調査されている」という意識で対応することをおすすめします。また、調査官は調査で自宅に伺った時から、家の外部や室内に何があるか、申告漏れ財産につながるものはないかなどをよくチェックしているのは忘れないでください。

税務調査で聞かれる「3つの質問」

税務調査で聞かれる質問にはいくつかの種類がありますが、そのなかでも主に「故人(被相続人)の暮らしぶり」「趣味」「相続人の暮らしぶり」の3つが挙げられます。

とくに、人あたりの柔らかい優秀な調査官は、何気ない雑談のなかで“核心を突く質問”を織り交ぜてくるため、つい話しすぎないよう注意が必要です。

1.「出身はどちらですか?」…故人の暮らしぶり

税務調査のなかでは、まず個人について「出身はどちらですか?」「どのような生活を送っていたのですか?」「亡くなられる直前はどのような生活を送っていたのですか?」といった、故人の暮らしぶりを聞かれることが多いです。

これは一見雑談のように思えますが、「故人が以前住んでいたところに財産があるのではないか?」「亡くなる直前に預金の引き出しがあるが、認知症や重い病気にかかっていた場合誰が引き出していたのか?」といったことを確認したいために聞かれています。

また、銀行から100万円単位の大きな引き出しをしている場合、誰かに贈与したのではないか? あるいはタンス預金にしてどこかにあるのではないか? などと疑われますので、大きな預金の流れなどはある程度答えられるようあらかじめ準備しておきましょう。

2.「趣味はなんでしたか?」…故人の趣味

その次は、被相続人の趣味などを聞かれることも多いです。ゴルフが趣味であればゴルフ会員権などを所有しているのではないか、ヨットなどお金のかかる趣味などはしていないか、美術品や骨とう品といった高価なものを収集していないかなどが探られています。

また、その暮らしぶりを聞き、月々生活費がだいたいどれぐらいかかっていたのかなどを把握されます。お金がかかる趣味がなく、質素に暮らしていたわりに相続財産が少ない場合、「もっと財産があるはずではないか?」などと疑われます。

3.「あなたはどのような生活を送っていますか?」…相続人の暮らしぶり

また、配偶者や子、孫などの相続人の職業や暮らしぶりなどを聞き、おおよその暮らし向きなどを確認されます。専業主婦なのに預金残高が多い場合や、子どもが収入以上の暮らしぶりをしている場合などは、故人からの贈与であったのではないかなどが疑われます。

◆まとめ

相続税の税務調査は、誰もが慣れていないため緊張しているので、人当たりのよく感じのいい税務調査官である場合、ついつい、いろいろなことを話しすぎてしまいがちです。しかし、その「雑談」も税務調査の一環です。あらかじめ準備しておくことをおすすめします。

宮路 幸人

多賀谷会計事務所

税理士/CFP

(※写真はイメージです/PIXTA)