ボーナスシーズンを迎え、多くの銀行が「夏のボーナス特別金利」などとうたった円貨・外貨の定期預金のキャンペーンを行ってます。超低金利の今、まとまったお金が少しでも増えるよう、定期預金に預けるのは一つの選択肢です。しかし、そのお金を長期間使う予定がないなら、利回りが定期預金より高く、比較的安全な金融商品に投資するという選択肢もあります。本記事では、そのなかの一つ、「ゼロクーポン債」について解説します。

ゼロクーポン債のしくみ

ゼロクーポン債は、アメリカ等の国が発行する「債券」の一種です。

債券には「償還期間」があり、債券を購入した人は償還期間中、利子(利金)を受け取れます。そして、償還の時には「額面金額」が戻ってきます。

ふつうの債券は、購入額と「額面金額」がほぼ同じです。しかし、ゼロクーポン債は購入額が「額面金額」より割安に設定されています。つまり、購入した額よりも、償還期間が終わって返ってくる額の方が大きくなっているのです。

その代わり、償還期間中に1円も利子を受け取ることができません。

たとえば、以下の債券があったとします。

・額面金額100万円

・購入価格58万円

・償還期間17年

58万円を払い込んで17年後に100万円が償還されるので、償還差益が総額42万円発生し、約72.4%増えたことになります(【図表】参照)。

これは、利回り約3.2%で17年間、「複利」で運用されたのと同じといえます。

複利は、利息に利息がつき、等比級数的に増えていくという意味です。

ゼロクーポン債は、ふつうの債権と違って利金を受け取れない代わりに購入価格が割安に設定されており、全期間トータルでみて、高い利回りを得られるということです。

ゼロクーポン債が向いているケース

ゼロクーポン債が向いているのは、以下の2つの条件を両方ともみたすケースです。

【ゼロクーポン債が向いているケース】

1. まとまった額の現預金があるが、当面使う予定がない

2. 株式投資より低リスクの金融商品を選びたい、または、株式とリスク分散をしたい

◆条件1|まとまった額の現預金があるが、当面使う予定がない

まず、まとまった額のお金があるけれども、当面の間、そのお金を使う予定がないことです。

たとえば、今ある数百万円、数千万円のお金があり、将来、住宅の購入資金、子どもの学資や結婚資金、老後資金等のためにとっておきたいと考えている場合、ゼロクーポン債を活用すれば、効率よくお金を増やせる可能性があります。

◆条件2|株式投資(投資信託を含む)に抵抗がある、または、株式とリスク分散をしたい

それに加え、株式投資に抵抗があるか、株式投資とのリスク分散をしたいと考えていることです。

株式投資は大きな利益を得られることがある反面、ハイリスクであり、安定性・確実性に欠けます。

これに対し、債券は、国家が発行するものであり、利回りも約束されているので、安定性・確実性が高いといえます。

ゼロクーポン債を活用する場合のリスク・注意点

ただし、ゼロクーポン債にも、リスク・注意点があります。とりわけ重要なのは以下の3つです。

1. 「円高」があまりに進みすぎると損失が発生するリスクがある

2. 償還時の差益に約20%の税金がかかる

3. 途中で売却すると損をする可能性がある

◆「円高」があまりに進みすぎると損失が発生するリスクがある

まず、最も重要なのが、債券の償還時に、購入時と比べてあまりに「円高」になっていた場合、損失が発生するリスクがあります。

そこで、重要なのは、為替相場の変動による損益分岐点、つまり、どこまで円高が進めば損失が発生するかを見極めることです。

たとえば、以下の内容のアメリカのゼロクーポン債があったとします。

・額面1万ドル

・購入価格5,800ドル

・償還期間17年

これを1ドル138円で購入すると、日本円での購入金額は138円×5,800米ドル=800,400円です。

17年後、1万ドルが償還されるときになって、1万ドルが日本円に換算して800,400円を下回らなければ、損失が発生しないことになります。

したがって、損益分岐点は1ドル=80.04円ということになります。

なお、ゼロクーポン債に投資する場合は、アメリカをはじめとして、通貨が安定している国を選ぶことをおすすめします。たとえば、新興国のゼロクーポン債は、利回りが高く設定されていても、通貨の安定性が低いので、要注意です。

◆償還時の差益に約20%の税金がかかる

次に、償還時の差益は税制上、「上場株式等にかかる譲渡所得」にあたるので、20.315%の所得税が分離課税でかかります。

なお、株式の場合は売却益が非課税になる「NISA」のような税制優遇の制度がありますが、ゼロクーポン債にはそのような制度がありません。

◆途中で売却すると損をする可能性がある

最後に、債券は、途中で売却すると損をする可能性があります。

どういうことか、改めて【図表】をご覧ください。

債券の価格は、購入後、償還時に向けて変動し、償還時に額面の価格になります。もし、期間の途中、額面価格が購入価格を下回っているタイミングで売却すると、損失が発生してしまうのです。

ゼロクーポン債は、購入して償還期間まで保有し続けることで、比較的低リスクで、お金を大きく増やせる可能性が高いものです。もしも、当面使い道がないお金があって、それを将来の住宅資金、子どもの学費、老後資金等のためになんらかの方法で運用したいのであれば、銀行の定期預金でもなく、株式でもない選択肢の一つとして、検討してみることをおすすめします。

(※画像はイメージです/PIXTA)