欧州のベルギーというと、あまり航空機産業と馴染みがないと思うかもしれませんが、実はそうではありません。ユニークな翼型をもつ新型消防飛行艇に、そのポテンシャルを見ることができました。

2030年の初飛行を目指す、ベルギー産飛行艇

欧州のベルギーというと、チョコレートが有名で、ブリュッセルにEU(欧州連合)本部が置かれていることなどで知られていますが、実は機械産業や金属工業が盛んな国でもあります。そのベルギーで、少し変わった翼型をもつ消防飛行艇「シーガル(カモメ科)」の開発が進行中。消防飛行艇と言えば、カナダのCLシリーズが有名ですが、それより鋭角的なデザインをしたシーガルは2030年の初飛行を目指しています。

「シーガル」を開発すべく取り組んでいるのは、ベルギーの「ロードフォー(ROADFOUR)」という会社です。2023年6月に開催されたパリ航空ショーに飾られた水陸両用とされる模型は、黄色と赤色の塗装こそCLシリーズと同じでしたが、よく見ると、主翼は名前の通り羽ばたくカモメのように付け根から斜め上に伸び、エンジン取り付け部で折れ曲がっています。また、機首も船のへさきのように尖っており、6枚羽根のプロペラも合わせて鋭角的なデザインをしています。

「シーガル」は、CLシリーズと同じ双発ですが、機体の全長が24m、横幅が35mとやや大きいサイズです。乗員は正副操縦士に地上との連絡員3人。消火用に1万2000リットルの水を積む計画ということです。

「シーガル」は老朽化するCLシリーズの代替を狙って開発が始まりましたが、バックとなるのがベルギーの工業力です。実は、日本ではチョコレートで知られるようにソフトなイメージがありますが、あまり知られていないものの、航空機関連では国内に約1000社があるほどの航空産業が盛んな国なのです。

「ベルギーの航空機産業」実際どうなの?

ヨーロッパの巨大航空機メーカーのエアバス、仏の複合企業体サフランベルギーから受ける部品供給率は5~10%になり、実は製品の各種デザインもベルギーで行われていると言います。最近では、仏独スペインが開発中の将来戦闘機FCAS(Future Combat Air System)」計画における、ベルギーの参画が報道されています。

また、先日のパリ航空ショーでも各国のメーカーが参加したホールの一角を、ベルギーの企業が占めていました。

ロードフォーのパンフレットによると、消防飛行艇の需要は2030年から2050年にかけて300機ほどがあるとのこと。国別の内訳を見ると、カナダで57機、スペインで21機、米国で10機などとなっています。ただし、日本では1機もありませんでした。

ロードフォー側は、かつて日本で試験的に消防飛行艇へ改造されたPS-1とその結果も知っていたので、日本を需要予測に入れていないのでしょう。

ベルギー発の消防飛行艇を日本で見ることはないかもしれません。しかし、ベルギーの挑戦は、同国の航空機開発が、いつでも海外へ乗り出すほどの状況にあることを示しているのかもしれません。

ベルギー産消防飛行艇「シーガル」の模型(加賀幸雄撮影)。