北朝鮮当局が先月から、凶悪犯罪の絶えない両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)に社会安全省(警察庁)政治大学の検閲隊を派遣し、現地の幹部や住民が緊張していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

現地のある情報筋はRFAに対し、「今年5月の1カ月間、両江道恵山市で報復殺人や強盗、密輸が相次いで発生した」とし、「このような報告を受けた金正恩総書記が6月5日、社会安全省政治大学検閲隊を恵山市に派遣した」と伝えました。

北朝鮮の中でも山間へき地に当たる恵山だが、国境の川の対岸には中国の長白朝鮮族自治県がある。中央の監視の目が届きにくいこともあって「密輸の本場」となっているため、各種の利権をめぐる争いも絶えず、中央政府による粛清で多数が一度に公開処刑された例もある。

検閲隊は、卒業を控えた学生らで編成されている。本来は任官前の実地研修を兼ねて行われるものだが、今回はどうやら「抜き打ち」的な効果をねらい、使命感に燃える若者たちに特命を与えたようだ

「社会安全省政治大学の検閲隊を派遣するに際し、金正恩は『非社会主義、反社会主義を根絶するまで検閲をやめるな』と指示した。そのため今回の検閲は他の従来と異なり、検閲期間が特に決まっていない」(情報筋)

情報筋はまた、「恵山市は過去にも数回にわたって検閲を受けた経験があり、幹部や住民が感じる恐怖感は非常に大きい」と付け加えた。

恵山に対する検閲で最も凄惨な結果につながったのは、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」に際して行われたものだ。当時、北朝鮮国内では治安が乱れ、力で抑え込もうとする当局が公開処刑を乱発した。

恵山では、いわば軍内の秘密警察に当たる保衛司令部が検閲を行い、少なくとも幹部19人を公開銃殺にした。非公開で処刑された人々も加えたら、いったいどれほどの犠牲者が出たかもわからないとされ、デイリーNKの現地情報筋は以前、別件の記事の中で「当時の記憶は今も生々しい」と語っていた。

北朝鮮の準軍事組織・労農赤衛軍の兵士ら(ウェブサイト「朝鮮の今日」)