本格的な夏を迎え、海水浴や釣りなど海へ行く機会が増える人も多くいるでしょう。海水浴場で素潜りなどをしていると、魚や貝、タコ、なまこなどに遭遇することがあります。また、時折、磯に打ち上げられた海藻類やアサリなどを目にすることもあります。個人的に食べることを目的にしていても、捕ったり、持ち帰ったりすると密漁になるのでしょうか。芝綜合法律事務所の弁護士・牧野和夫さんに聞きました。
シジミ・アサリなどを採った男女が密漁の疑い 書類送検されたケースも
Q.まず、漁業権の説明をお願いします。
牧野さん「漁業権は、漁業法に規定される特定の漁業について、特定一定の水面で、一定期間、漁業を排他的に営む権利であり、他の者の侵害に対して差止請求ができる権利です。大きく分けて、大型定置などの『定置漁業権』、真珠養殖や藻類養殖、魚類小割式養殖といった『区画漁業権』および、採貝採藻といった『共同漁業権』の3種類があります。詳細は以下です」
(1)定置漁業権(存続期間:5年)
大型定置(身網の設置水深が原則27メートル以上の定置)等を営む権利。
※小型定置は、共同漁業権等に位置付け。
(2)区画漁業権(存続期間:5年又は10年)
一定の区域において養殖業を営む権利。
ひび建て養殖(ノリ)、築堤式養殖(くるまえび)、藻類養殖(昆布、わかめ)、垂下式養殖(かき、ホタテ貝)、小割り式養殖(クロマグロ、ブリ、マダイ)
※このほか、第三種区画漁業たる貝類養殖業
(3)共同漁業権(存続期間:10年)
採貝採藻など、漁場を地元漁民が共同で利用して漁業を営む権利
Q.どのような生物を捕獲すると密漁になるのでしょうか。
牧野さん「アサリ・シジミやサザエ、ワカメ、伊勢エビ、ウニなどの定着性水産動植物は、地元の各漁業協同組合に『第一種共同漁業権』が免許されており、漁業権又は組合員行使権を侵害するといった漁業権侵害にあたる行為には、漁業法第195条1項の規定に従って、100万円以下の罰金が科せられます。
2020(令和2)年12月1日から改正された漁業法132条1項では『何人も、特定水産動植物(財産上の不正な利益を得る目的で採捕されるおそれが大きい水産動植物であって当該目的による採捕が当該水産動植物の生育又は漁業の生産活動に深刻な影響をもたらすおそれが大きいものとして農林水産省令で定めるもの)を採捕してはならない。』とあります。
アワビ、ナマコ、シラスウナギ(ウナギの稚魚)が特定水産動植物として指定されたことにより、密漁に対して『3年以下の懲役又は3000円以下の罰金』の罰則と厳しく規制されており、密漁(許可なく採取)すると漁業法189条の罰則が適用され、3年以下の懲役又は3000万円以下の罰金が規定されています。
Q.磯遊びや海水浴をしていて、少量の貝や小魚を採った場合も漁業権などは発生するのでしょうか。
牧野さん「海水浴場にたまたま迷い込んだ貝や小魚を採った場合は、漁業法第195条1項の『組合員の漁業権や行使権を侵害』する行為に当たらないでしょう」
Q.では、海岸に打ち上がった貝やウニなどの場合はどうでしょうか。
牧野さん「海水浴場にたまたま打ち上がった貝やウニなどを採った場合は、『組合員の漁業を営む権利を侵害』する行為に当たらないでしょう」
Q.堤防や海岸で釣りをする場合の法的問題や注意点を教えてください。
牧野さん「海で釣りをすることは基本的には問題ありませんが、立ち入り禁止区域で釣りをした場合は漁業法など法規制に違反する可能性がありますので、注意してください。川で釣りをする場合は、基本的に『游漁券』が必要となり、禁漁期間や禁漁区域などが決められているので注意が必要です」
Q.ちなみにアサリやシジミなどの潮干狩りも法的規制を受けることがあるのでしょうか。
牧野さん「アサリやシジミなどは第一種共同漁業権の対象になっていますので、漁業法第195条1項の罰則(100万円以下の罰金)が適用される可能性がありますので注意が必要です。ただし有料の潮干狩り場で潮干狩りをする場合は問題ないでしょう。
Q.過去に密漁で逮捕されたなどの例はありますか。
牧野さん「2019(令和元)年6月、愛知県・三重県の海岸付近でシジミ・アサリ・ハマグリを採った男女23人が密漁の疑いで海上保安部によって書類送検された事例があります。
また、養殖されている貝類を無断で採捕した場合や定置網の中の魚などを取った場合には、窃盗罪(刑法235条、10年以下の懲役または50万円以下の罰金)になる可能性があります。養殖されている貝類は占有が支配・管理されていますし、定置網内にいるサケが水揚げされる前であっても、定置網を仕掛けた者が事実上占有を支配・管理しているといえるため、定置網内のサケの取得が窃盗罪にあたるとされました。
今回は、海水浴場で個人的に食べるケースでの注意を牧野さんに解説していただきました。自身が遊ぶ場所をちゃんと把握することが重要だということです。地区によって漁業権の侵害、漁具・漁法の禁止などがされているため、事前に調べたりして、判断・行動するようにしましょう。
オトナンサー編集部
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