猫を可愛いがる男性は、男らしい、か──。なるほど、考えたことがなかった。7月28日(金) からYEBISU GARDEN CINEMAほかでロードショー公開される『猫と、とうさん』は、そんなテーマがこめられたドキュメンタリーだ。原題は『Cat Daddies』。9組の猫ちゃんとそのダディ、飼い主というより「とうさん」といった方が似合う男たちの物語。猫好きはもちろん、そうでなくても確実に89分の上映時間中、心あたたまるひとときを過ごせます。そのうえで、「男らしさ」って何だろう? そんなことを考えさせてくれる映画です。

『猫と、とうさん』

ダディたちの職業はさまざまだ。俳優、消防士、トラック運転手スタントマン、警察関係、エンジニア、教師、無職の人もいる。住んでいる場所も、ニューヨークロサンゼルスといった大都会だけでなく、アメリカ全土のあちこち。彼らに共通しているのは、猫と出会い、暮らしている点だ。

この映画を企画し、監督したのは、ロサンゼルスを拠点に活動するドキュメンタリー作家、マイ・ホン。数年前に猫を引き取ることになり、一緒に暮らすうちに、それまでは猫が好きではなかった夫が猫を愛するようになって、ひと言でいえば、変わった。

ホンは「彼はより柔らかく、より忍耐強く、何より思いやりのある人間に成長したようです。そのため、同じような変化を遂げた男性を探し、そのストーリーを記録したいと思うようになりました」と語っている。

「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」という言葉がある。「男は泣いてはいけない、タフであれ、感情を表に出すな」、そんな、男はこう振る舞うべきだといわれてきたことに、マイナス面もあるという考え方。

映画に登場する9人は、伝統的に男っぽい仕事をしている男性たちが多いが、みな一様に、そういった負の側面から解放されているようにみえる。やさしく、他者に対して思いやり深い。それはどうやら、猫たちの「教育」によるもののようだ。

撮影が始まったのは2020年。コロナの感染拡大に直面し、おのずから、パンデミックに彼らがどう対応したかをカメラに収めることになる。外出もせず、ペットたちと共に、静かに身を潜めるようにして暮らした日々は、彼らの絆を一層強くしたにちがいない。

特に、ニューヨーク路上生活者で、脳性麻痺になってしまうデヴィッドと、彼の生きがいであり、希望の星であるラッキーにとっては、まさに試練の1年。このストーリーだけでも、映画1本になるくらいドラマチックだ。

画面にはたいてい猫がいる。撮られているのがわかると、カメラの方を向いてくれないなんてことはよくあるもの。監督によれば「警戒心のある猫にトラウマを与えることだけは絶対にしたくなかったので、とても社交的な猫たちを選びました。穏やかな猫であっても、見知らぬ人間には警戒心を抱くことがありますから。時にはクルーを撤収させて、撮影監督のロバート独りで必要な映像を撮影してもらうこともありました」。相当忍耐と時間をかけての撮影だったようだ。

この1年、SNSが猫ととうさんたちに与えた影響も大きい。かわいがっている猫ちゃんをインスタにあげているダディも多い。俳優のネイサンは猫たちをキャストにして人気者になったし、猫と旅するトラック運転手、立ち上がってサッカーのキーパーのような格好をする「ゴールキティ」……それによって実益を得ている人もいる。

男たちは一様に幸福そうだ。猫ちゃんたちはどうなんだろう。映画を観てると、幸福とかそういう次元ではなく、どこか、人間たちを高見の見物しているようにも思える。猫はいるだけで、ひとをなごませてくれる。一緒に暮らせば、飼う人の内面まで変えてくれる。が、手間もすこぶるかかる。猫がいちばんエライのだ。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)Gray Hat Productions LLC 2021.

『猫と、とうさん』