どの国の言うことも聞かず、自らの利益を追求するトルコのエルドアン大統領。輩たちの「元締め」は彼なのかもしれない
どの国の言うことも聞かず、自らの利益を追求するトルコエルドアン大統領。輩たちの「元締め」は彼なのかもしれない

ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索する!

 * * *

佐藤 いま、米国の力が及ばない所で、世界ではいろいろな「多極化」が進んでいますね。

――米国の力が落ちたことによって、世界の情勢がいままでよりもややこしくなっている、ということなのでしょうか?

佐藤 その通りです。ややこしくなった結果、いろいろな輩(やから)が立ちまわれる余地が増えてきているのだと思います。

――いろいろな輩とは、たとえばどんな人たちなのでしょう?

佐藤 もし米国でバイデン政権が続かなければ、ウクライナ戦争は店じまいに入るでしょう。その時、米国が「なし崩し的に武器供与をして戦争を長引かせてしまいました」と"詫び"を入れるのが筋です。しかし、誰にも詫びたくないという国が米国です。

この米国の政治文化を考慮すると、うまい落とし所を探す、という仕事が生まれます。フランスのマクロン大統領はそれに勘付き、動き出しています。

――輩①はマクロン仏大統領ですか。では輩②は誰ですか?

佐藤 複数の国をまたがる団体です。

――輩の団体があるんですか!?

佐藤 筆頭は人口500万人のフィンランドです。前のマリン首相はロシアと緊張を作り出してしまう、戦略的思考に長けていない方です。ロシアからすれば「おおいに頑張って下さい。やりたいんだったらやったらいいじゃん」という感じだと思います。ロシア旧ソ連と戦争してフィンランドは勝った事がないですから。

――フィンランド制作の戦争映画を結構見ているんですけど、絶対にロシア旧ソ連に勝てないと痛感しています。微妙なバランスの上で"非同盟"にしていたフィンランドはなぜ、NATOに入ったんですか?

佐藤 米国からの圧力が凄かったのです。北欧のフィンランドやスゥェーデンに対して、「あなたたち西側の一員ですよね? とりあえずNATOに入ったらどうですか」といったような圧力をかけたのです。あとは病的に「ルサフォビア(ロシア嫌い)」です。

――それって、田舎町の弱小暴力団たちが、広域暴力団に飲み込まれる形であります。世界の「多極化」には、弱くなった米国がもっと弱い子分を沢山作ろうとしている側面もあるのですか?

佐藤 入っていると思います。フィンランド、スゥェーデンは比較的お金があるので、お金はないけど威勢のいい、バルト三国ポーランドの「軍事兵器伝票」をそちらに回すのです。

――米国はお財布代わりに使うのですか。怖い...。

佐藤 では、バルト三国エストニアの人口推移を調べてみてください。

――かつて155万人あったのが1992年辺りから下がり始めて、いまの総人口130万人です。

佐藤 次にラトビアはどうでしょう。

――この30年間で70万人程度減っています。

佐藤 リトアニアは?

――400万人から279万人。130万人減っています。

佐藤 このバルト三国に未来の展望はあると思えますか?

――フランスの人口統計学者、エマニュエル・トッド氏に言わせれば「滅亡する国」です。

佐藤 だから、バルト三国にはほっといてもロシアの影響力が拡大します。NATOが絡もうが第三次世界大戦になろうが、とにかくロシア人に入って欲しくないと思っているのがバルト三国。国力が著しく減退してはいますが。

――ということは、この国々が「輩団体」ですね。

人口を合計すると東京都くらいになるこの4か国は、多極化で伸び伸びとやりたいことをしようとしている。ただ、その動きで世界を滅亡に導こうともしていると。

佐藤 そういうリスクはありますね。だから、それぞれの国がそれぞれの国力に応じた場所で我慢できればよいと思います。

――それって、キリスト教の教義にありませんでしたっけ?

佐藤 「プロテスタンティズム」ですね。

――滅亡を静かに受け入れる多極化ですか...。「よい多極化」はないのですか?

佐藤 トルコエルドアン大統領が再選しましたね。エルドアンは米国の言うことは聞かないし、ロシアの言うことも聞かない。さらにウクライナの言うことも聞かないで、自分の利益だけを追求している人です。だから今の混乱要因の源みたいな人ですね。

――輩たちの"元締め"ですかね。

佐藤 ウクライナに対戦車無人機を売りつけながら、一方ではロシアから穀物を引き出す仲介役になっている。この混乱要因がそのまま残存することによって、現状が維持されているのです。でも、トルコ大統領ウクライナ寄りにならなかったのは、プーチン大統領にとっては一番良い話ですね。

――よい多極化のなかに良い話が一つだけあるのですね。

その輩の御先祖さまみたいなお方、100才になられたキッシンジャー元米国務長官(1971年、ソ連を牽制するために米中関係の正常化に動いた)がこう言っています。

ウクライナがソ連から離れた時の国境線の引き方がおかしい。最初からロシアの部分であるクリミア半島を入れたのがおかしい。だから、一回、国境線を引き直して、戦争を止めろ』

佐藤 その通りですよ。ウクライナ共和国は第二次世界大戦中のドイツが引いた国境線で、かなり東に入っている。プーチン大統領も2021年の演説の中で詳しく述べています。『プーチンの10年戦争』(東京堂出版)の中で池上彰さんと私が翻訳しているので、それを読めば良く分かると思います。

だいたいいま、ロシアが併合した地域が新しい国境にしようということはほぼ、同じです。

――米国の重鎮の発言ですね。気になっている方々は米国にいますか?

佐藤 共和党ですね。

――あっ!! だからバイデンの再選が無くなれば、ウクライナ戦争が店じまいとなるのか。

佐藤 そういう事ですね。

次回へ続く。次回の配信は8月の予定です。

撮影/飯田安国
撮影/飯田安国

佐藤優さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省ラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

取材・文/小峯隆生 写真/Beata Zawrzel/NurPhoto/共同通信イメージズ

どの国の言うことも聞かず、自らの利益を追求するトルコのエルドアン大統領。輩たちの「元締め」は彼なのかもしれない