1960年代、中央アジアで謎めいた未知の言語が刻まれた岩が発見された。今回、ドイツ、ケルン大学の研究チームが、この謎の言語の解読に成功し、これらの文字がシルクロードの交易商の間で使われていたことを明らかにした。
クシャーナ朝(クシャーン帝国)は、紀元1世紀から紀元3世紀にかけて、中央アジアからインド北部で栄えたイラン系の大帝国である。
クシャーナ教は、仏教、ゾロアスター教、ヒンドゥー教の影響を受けていて、これら宗教はすべて、シルクロード交易を通じて、クシャーナ文化に浸透した。
ケルン大学の言語学研究チームが、これまで未知の文字とされていた、古代クシャーナ文字の60%を解読したそうだ。
クシャーナ朝は匈奴に圧迫されて移動を開始した遊牧民族の月氏(ゲッシ)が起源で、現在のアフガニスタン地域に定住し、これら月氏の一部がクシャーナ人となり、巨大帝国を作り上げたとされている。
ユネスコによると、サンスクリット語とプラクリット語は、どちらもクシャーナ朝以前から存在し、バクトリア語とソグディアナ語は、中央アジアのシルクロード交易にたずさわっていた商人たちによって話されていたという。
これら言語体系については、よく知られているが、クシャーナ朝の言語については、まだ発見されていないものが多い。
いわゆる「未知のクシャーナ文字」と言われるものは、1960年代に最初に確認されているが、ケルン大学の研究チームのスヴェンヤ・ボンマン教授、ヤコブ・ハーフマン氏、ナタリー・コロブゾウ氏が、中央アジアの国々の洞窟壁、土器や鉢に刻まれた未知の文字を調査してきた。
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古代クシャーナ文字が刻まれているとされる、さまざまな碑文の発見場所マップ / image credit:Bonmann, S. et. al. / CC BY-NC-ND 4.0
2023年3月1日、タジキスタン共和国科学アカデミー主催のオンライン会議で、研究チームは、この言語の一部解読を初めて発表した。
現在、『Transactions of the Philological Society』誌に、「未知のクシャーナ文字部分解読」というタイトルで掲載されている。
発表によると、紀元前200年から紀元700年にかけて、中央アジアで広く使われていた未知のクシャーナ文字のおよそ60%を解読するのに成功したという。
タジキスタン北西部アルモジ渓谷で見つかったストーン1には、未知のクシャーナ文字の碑文が刻まれている / image credit:Bobomullo Bobomulloev / CC BY-NC-ND 4.0
クシャーナ語の音声特性を理解することがカギに
これまで知られているクシャーナ文字のほとんどは、現在のタジキスタン、アフガニスタン、ウズベキスタンで見つかっている。
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ところが2021年、タジキスタン北西部アルモジ渓谷の岩に文字が刻まれているのが発見され、そこには未知のクシャーナ文字だけでなく、バクトリア文字も含まれていることがわかった。
ケルン大学研究チームは、ロゼッタストーンに刻まれていたエジプトのヒエログリフを解読するための方法論を始めとした、古代言語を解読するテスト済みの手段に頼った。
この新たな研究論文は、今回の画期的な成果は、バクトリア語の対訳テキストに書かれていた「ヴェマ・タクトゥという王の名」を解読したことから始まったとしている。
それから、「王の中の王」という言葉が一致する箇所が特定されたという。
クシャーナ語の研究では、こうした事実が明らかになったのは「基礎となる言語の良い指標となることが証明された」と言っている。
研究チームは、バクトリア語の対訳テキストを使って、文字列を分析し、個々の文字の音声特性を明らかにした。
未知のイラン系クシャーナ文字をついに解明
新たな研究では、この未知のクシャーナ文字は、まったく知られていなかった中部イラン言語で、バクトリア語とも、かつて中国西部で話されていたホータン・サカ語とも一致しないと結論づけている。
新たに解読されたこの言葉は、おそらくこれらの言語が発展途中のときに中間に位置していたものと考えられている。
では、誰がこの忘れられた言語を使っていたのだろうか? 研究者たちは、現在のタジキスタンの一部である、バクトリア北部に定住していた人たちの言葉だったのではないかと考えている。
だが、中国北西部を起源とする内アジアの遊牧民族「月氏(げっし)」族の間でも使われていたのではないかとも推測されるという。
「王の中の王」という言葉は、左のアルモジ渓谷で見つかったサンプルと、ダシュティ・ナーヴル3世を示すクシャール文字の中で確認された / image credit:Bonmann, S. et. al. / CC BY-NC-ND 4.0
シルクロードに沿って広まった文化と言語
スヴェンヤ・ボンマン教授は、エジプトやマヤの象形文字の解読のおかげで、エジプト文明、マヤ文明の理解が進んだのと同様に、今回の解読成果は、中央アジアやクシャーナ朝の言語と文化史の理解を深めるのに役立つと言う。
この研究が本質的に示していることは、新たに特定できたイラン系言語(暫定的にエテオ・トカラ語と名づけられている)が、クシャーナ朝で使われていた公用語のひとつだったということだ。
この古代のコミュニケーションシステムが、バクトリア語、ガンダーリ/中期インド・アーリア語、そしてサンスクリット語と同時期に、シルクロードの交易商人たちが使用していたという仮説もたてている。
References:A Partial Decipherment of the Unknown Kushan Script* - Bonmann - Transactions of the Philological Society - Wiley Online Library / 2,000-Year-Old Unknown Kushan Language Is Finally Deciphered / written by konohazuku / edited by / parumo
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