J1リーグ上半期で印象的だった攻撃陣をフカボリ!
J1リーグ上半期で印象的だった攻撃陣をフカボリ!

不動のボランチとしてジュビロ磐田黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカープレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第61回のテーマは、2023年J1リーグ前半戦で印象的だった攻撃陣。今季のJ1リーグも前半戦を終え、各クラブがそれぞれ印象的なサッカーをしている。その中でも、より魅力的な攻撃を展開していると感じる3クラブを福西崇史に解説してもらった。

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まずは昨季王者で、今季ここまで44得点と最多得点を記録する横浜F・マリノス。徹底的に相手守備ラインの裏を突いて、ボールホルダーを味方がどんどん追い越していく。縦に速い攻撃的なスタイルは、今季も抜群の破壊力と相手を押し込む圧力があり、見ていて非常に楽しいサッカーです。

その攻撃の象徴となるのが、アンデルソン・ロペス、エウベル、ヤン・マテウスのブラジル人3トップ。とくに得点ランキング単独1位につけるアンデルソン・ロペスの安定したパフォーマンスは、横浜FMの攻撃を牽引しています。

得点力だけでなく、裏へ抜ける、体を張ってボールを収める、ライン間に落ちてシンプルにさばいて起点になるなど、札幌時代よりもやれることが増え、調子の波もなく、非常に洗練されたFWに成長していると思います。今や替えの利かない存在です。

それからヤン・マテウスが右ウイング定位置を掴んだことも大きなポイントだと思います。スピードの生かし方やカットインしたときの周りの動くタイミングなどが噛み合い、3トップの中で効果的に力を発揮できています。左のエウベルが止められたとしても右のヤン・マテウスがいることで、縦の破壊力はより強力なものになっています。

また、西村拓真も相変わらず高いパフォーマンスを披露していて、2列目からの飛び出しと、ライン間で巧みにボールを受ける動きで前線を活性化しています。さらに水沼宏太宮市亮といったゲームチェンジャーとしても高い能力を発揮するバックアッパーは、今季も大きなアドバンテージとなっています。

次に挙げるのは、横浜FMに次ぐ41得点を記録する北海道コンサドーレ札幌です。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の指揮も6年目となり、確固たるスタイルが確立されています。前線の選手たちが流動的に動きながら相手守備ラインの裏を素早く突くスタイルは、非常に攻撃的で魅力あるサッカーです。

攻撃的ゆえに、相手に守備ラインの裏をカウンターで突かれてしまうリスクが高いスタイルでもありますが、そのやるかやられるかという危うさも含めてエンタメ性が高く、見ていて楽しいサッカーと言えるでしょう。

前線の流動性というところでは、前線の選手たちは高さがない代わりに機動力に優れていて、2トップにしたり、1トップ2シャドーにしたり、両ウイングバックの金子拓郎、ルーカスフェルナンデスを含めて前線の形を変化させていきます。流動的にいろんな選手が動き出す攻撃はとても面白いので、ぜひ見ていただきたいポイントのひとつですね。

そんなチームの中で、今季加入した浅野雄也のハマり具合はとても大きいと感じています。相手の守備からすると、札幌の攻撃の潰しどころとなりそうな場面でも浅野の素早いステップワークで相手をかわせたり、時間を作ったりすることができます。少しルーズなボールでも追いつくスピードと食らいつく執着心があって、相手からすると怖い存在だと思います。

また、シュートも上手く、高い決定力も発揮しています。加入直後から小柏剛や駒井善成など、機動力のある前線と噛み合い、すでに欠かせない戦力として存在感がありますね。

守備に関しても前線からマンツーマンでハメにいくスタイルは非常に攻撃的で、それが勢いのある攻撃にもつながっています。攻守にアグレッシブな札幌のサッカーは、Jの中でも屈指の楽しいスタイルだと思います。

最後に挙げるのは、今季昇格組のアルビレックス新潟です。ここまで22得点でリーグ15位の得点数。決して高い数字ではないですが、その攻撃的なスタイルには感銘を受けますし、見ていて楽しいチームの一つです。

GKを含めた最終ラインからビルドアップで丁寧にパスをつなぎ、相手の守備ラインを鋭く崩していく攻撃的なサッカーでJ2を制覇し、そのスタイルがJ1でも通用するのか注目されていました。

序盤こそサンフレッチェ広島川崎フロンターレなど、昨季の上位勢を破る快進撃を見せていました。しかし、徐々に競り負ける試合が増え、苦しい試合が多くなってきました。

そんな中でも伊藤涼太郎という個の力によって、ひっくり返した試合もあるし、食らいついた試合もあったと思います。ただ、伊藤がベルギーシント=トロイデンVVへ移籍し、その穴をどうチームで埋めるかが、新潟の課題になってくるでしょう。

ただ、新潟のスタイルは、伊藤ひとりが抜けたところで崩れるものではありません。後方の選手がボールを持ったときに前の選手がパスを受けに入るタイミング、縦パスを入れた後のサポートの距離感やタイミングは絶妙で、その洗練されたパスワークはJ1でも唯一無二の機能美だと思います。

先日行われた第21節の札幌対新潟は、個人的にも注目したカードでしたが、決勝点となった鈴木孝司のゴールまでの崩しは見事でした。高宇洋がボールを持ち、星雄次へ横パスを入れるタイミングで藤原奏哉がハーフスペースへ入り込み、そこへ星がワンタッチで絶妙なスルーパス。新潟らしい非常に連動性の高い崩しでした。

伊藤が抜けたことで、個の力でのタメはなくなるかもしれないけれど、それで逆に、より縦へのスピード感が上がるかもしれない。新潟がこれからどのように進化して、今季を戦い抜くのか楽しみです。

構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜

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