類稀な美貌と澄んだ歌声、神秘的ともいえる存在感で人々を魅了してきた酒井法子。デビューから35年を経てもなお、その魅力は健在だ。そしてこのたびリリースされる35周年記念の3枚組ベストアルバム『Premium Best』は、彼女がいかにその時代ごとに自分を磨き続けてきたかがよくわかる一作となった。しかし、さらに驚くべきことは、その中に収録された新曲「Funny JANE」で、よりアグレッシブな進化を見せていることだ。これまでにないファンキーな曲調と前衛的な歌詞、伸び伸びとしたボーカル。35年の実績を披露しつつ、新たな領域へと自分を押しやった現在の酒井法子は、じつにカッコいいと思う。

──デビューしてからの35年というのは酒井さんにとってどんな年月でしたか?

35年……14歳でオーディションを受けて、ご縁があって芸能界に入れていただいて、長くもあり、あっという間でもありました。西鉄バスのチケットが全国共通だと思っていて、東京のバスで「これは使えません」と言われたくらい何も知らない中学生でしたから(笑)。

でも、芸能界に入るのはずっとやりたかったことなので、努力しなければ夢はかなわないと思いながらがむしゃらに頑張りつつ、いろんなことにときめく日々を送ってたのを覚えています。
だって事務所に行くと、大好きな(松田)聖子さんが「天国のキッス」のときに履いていた靴とかがあるんですよ。手にしようと思えば触れられるところにそういうものがあって、私はすごいところに来ちゃったんだなと思ったり。

──デビューしてすぐに人気を得ましたが、最初に自分の中で壁にぶつかったのはいつ頃でした?

やっぱり私も10代のころは悩みました。もともとは聖子さんとか明菜さんとか、いわゆるキラキラした女子になりたかったんです。でも、どちらかというと「のりピー」とか「のりピー音頭」とか、おもしろい女子になっちゃったなというか(笑)。

10代後半って女性がきれいになっていく時期で、周りの方たちは恋愛の歌とか歌っているのに、なぜ私は…って自分を持て余している時期があって。きゃぴきゃぴ楽しくやってる裏側では、違う自分を求めていたんですよね。でも、二十歳を過ぎた頃にドラマに出させていただくようになって、それをきっかけに周囲からの評価が「のりピー」から「酒井法子」に変わった。役が自分の年齢に追いついたというか、マッチしていたおかげですごく楽になれたんです。

──世間的なイメージと自分のギャップを、演じる役柄がつないでくれたわけですね。

そうですね。役に自分を投影できたのが大きかったんだと思います。私、特別お芝居が得意だと思っていませんでしたし、セリフを一度噛んでしまうとそれまで覚えてたものが真っ白になっちゃうタイプだったんです。でも、ちょうどそのときに『星の金貨』でセリフを言わなくていい役をいただいて。

まず台本にすごく共感できて、初めて自分の心が震えたんです。だから演じることが楽しかったですし、かつセリフがないぶん体を使って表現できるようになって、それが自分にとってすごく転機になったんですよね。特に手話って、相手の目をみてやらないと伝わらない。

そのおかげで、演じながら余計なことを考えなくなったんです。お芝居は自分の心が動かなきゃ伝わらないし、心が動くってこんなに楽しいことなんだなってことを知りました。若い頃にそういう作品との出会いを持てて、本当に良かったと思っています。

──活動歴が長くなるにつれ、目の前のお客さんにリアルタイムで歌や演技を披露することが増えたように思います。舞台に立つにあたり、心がけていることはありますか?

私、どちらかというと舞台とか生のコンサートのほうが好きなんです。それもきっと、わぁっと全部出し切ってしまうほうが、細かいこと考えないで済むからなんですよね。
例えば、「碧いうさぎ」を何万回も練習して歌って、「今日はあの音を外さずに歌えた!」とかこっちが思っていても、聴いてる側はそんなことよりもっと曲の全体を聴いて、何か感じてたり楽しんだりしてくれてる。音程ももちろん大事だけど、それ以上にもっとトータル的な感動を与えるようにできなきゃいけないな、と思うんです。

この間ラジオで、スターダストレビュー根本要さんに伺ったんですけど、すごい風邪で声が出ないときもライブをやるんですって。「それで“こんなもんなんだ、俺なんて”って思えばそれでいいじゃん?」みたいなことをおっしゃっていて、深く納得したんですよね(笑)。
今の自分の声の中で、最高のものを出す。本当はもっと歌えるのに!と思いがちなんだけど、今はこれだと自覚する。すごく面白いし、すごく素敵な考え方だなと思いました。

──35年の軌跡を収めたベストアルバム『Premium Best』は、まさにそのときそのときの自分の表現と向き合ってきた姿がよく見える作品ですよね。

そうですね。制作にあたりレーベルの方がすごく寄り添ってくださって、「夢冒険~Cute Songs~」「碧いうさぎMellow Songs~」「Funny JANE~Groovy Songs~」の3枚からなる仕上がりにしてくださいました。どの曲にもその時代その時代の思い出があるし、私という人間が生きてきた軌跡がすごく鮮明な色で記録されているんです。耳触りのいい音源にしてくださって、今の私がきちっと描かれているところにすごく感動しました。

──そして一曲だけ新録で入っている「Funny JANE」が、ファンキーでダンサブルで、めちゃめちゃカッコいい曲ですよね。35周年ベストに収録する新曲として、ここまで攻めた曲を入れるんだ!と驚きました。

それはうれしい! ディナーショーとかライブをやらせていただく中で、「碧いうさぎ」とか「鏡のドレス」とかみなさんに聴いてほしい曲を並べていくとメロウな曲が多いんです。「座ってゆっくり聞いてください」みたいな曲が多くなってしまうので、もっとみんなで踊れるような曲がほしいなと思って、この曲を作っていただきました。

どんな曲がいいかという打ち合わせでは、「今の私が歌う曲というのは想像がつきやすいから、興味がなくて。どちらかというとまったくの異空間に私を放り込んでもらいたいです」みたいなオーダーをさせていただいたんです。

──ものすごい異空間がやってきましたね。

そこで自分を演じるようなことをしてみたかったんです。それに、もともと私はダンスが好きで、自分も習ったり、ダンサーさんたちのステージを見に行ったりすることが多いんです。ダンサーさんたちの生きざまや考え方もすごくカッコいいな、素敵だなと思っていて。私は何年も同じ曲を歌ってますけど、彼女たちはそのときの自分が感じるものを投影して振りをつけて、表現している。そういう彼女たちに引っかかるような、ダンスをつけたくなるような曲が持ちたいなと思ったんですよね。それをライブで歌うことで、お客さまが「おぉ!」って楽しんでくれたらいいなっていう。そうしたら歌詞もね、森雪之丞さんが、雑談しながら私が歌詞について言った言葉を全部入れて、ひとつの歌詞にしてくださったんです。

──ステージで、ガールズ系な衣装を着て踊る酒井さんを想像しましたが(笑)。

恥ずかしい(笑)。みんなが踊ってるのを見ながら、私は一生懸命歌いたいなって思っています。この曲、本当に難しくて。レコーディングのときもどうやって歌えばわからない~って半泣きだったんです。でも、歌ううちに技が出せるようになって、どんどん楽しくなってきて。ライブでカッコ良く歌えるように育てていきたいと思います。

──新しい自分にトライしていけるのって素敵なことですね。

それをやらせていただける環境にいることが幸せだし、頑張ってきたことがあるからこそ、神様やファンの方、スタッフの方が見てくれていて、こんな素敵な機会を与えてくださったんだと思うので。自分のことも褒めてあげながら、もっと頑張っていきたいと思っています。

Text:川上きくえ Photo:小境勝巳

<リリース情報>
酒井法子 デビュー35周年ベストアルバム『Premium Best』

7月19日(水) リリース

初回限定盤(CD3枚+DVD+スペシャルBOOK):9,900円(税込)

酒井法子『Premium Best』初回限定盤ジャケット

●通常盤(CD3枚)4,400円(税込)

酒井法子『Premium Best』通常盤ジャケット

【CD収録内容】
■Disc1:夢冒険 ~Cute Songs~
01. 夢冒険
02. お願いダーリン
03. 男のコになりたい
04. 渚のファンタシィ
05. ノ・レ・な・い Teen-age
06. GUANBARE
07. Bタイプが好き
08. 1億のスマイル -PLEASE YOUR SMILE-
09. アクティブ・ハート
10. HAPPY AGAIN
11. きらいよ・・・
12. ホンキをだして
13. かわらないでね
14. おとぎの国のBirthday
15. 少しづつの恋
16. 幸福(しあわせ)なんてほしくないわ
17. 微笑みを見つけた
18. イヴの卵
19. キャンプファイヤー・ソング
20. のりピー音頭

■Disc2:碧いうさぎMellow Songs~
01. 碧いうさぎ
02. Love Letter
03. さよならを過ぎて
04. あなたに天使が見える時
05. WE NEED LOVE
06. あなたが満ちてゆく
07. 笑顔が忘れられない
08. Here I am ~泣きたい時は泣けばいい~
09. 鏡のドレス
10. Star Talk
11. 涙色
12. 9月の海
13. 横顔
14. 幸せに出会う方法
15. PURE
16. miracle
17. 世界中の誰よりきっと

■Disc3:Funny JANE ~Groovy Songs~
01. Funny JANE
02. ALL RIGHT
03. ダイヤモンド☆ブルー
04. モンタージュ
05. 涙がとまらない ~HOW!AW!YA!~
06. 軽い気持ちのジュリア
07. TUESDAY TIKI
08. 渚のピテカントロプス
09. たぶんタブー
10. 何にもしないクリスマス
11. 誘われて・・・
12. あなたと見た空
13. OH OH OH ~We are the Winners~
14. ミルクティー
15. WORDS OF LOVE
16. Miss You
17. 天下無敵の愛
18. 永遠の宝物

【DVD収録内容】※初回限定盤のみ
・テレビ映像コレクション
・「エーゲ海の誘惑」
・「Funny JANEレコーディングメイキング

収録曲の詳細はこちら:
https://www.jvcmusic.co.jp/-/News/A000342/11.html

酒井法子 公式サイト:
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A000342.html

酒井法子