豪在住のある女性が先日、緩和ケアのために自宅から専門施設に移動することになった。ストレッチャーに乗せてもらった女性は、搬送を担当した救急隊員に「夫とビーチで出会ったの」と話し始めた。これを聞いた救急隊員は少し回り道をし、施設へ向かう前に女性を海へ連れて行くことにした。「もう思い残すことはないわ」と笑顔になった女性は、この翌日に息を引き取ったと、豪ニュースメディア『ABC News』などが伝えた。

豪ニューサウスウェールズ州ウォーカプで、救急隊員として勤めるデイヴ・モランさん(Dave Moran)とレイ・スマイスさん(Ray Smythe)は、同州ポート・マッコリーに住むメイヴィスさん(Mavis、85)を自宅から緩和ケア施設へ搬送することになった。

メイヴィスさんの自宅に到着したデイヴさんとレイさんは、ストレッチャーにメイヴィスさんを乗せ、救急車に乗り込んだ。車内で世間話をしていると、メイヴィスさんは「クロベリー・ビーチ(Clovelly Beach)で夫と出会ったの。人生で最も幸せな瞬間だったわ」と、65年も連れ添ってきた夫のロンさん(Ron)との思い出話を始めた。

運転していたデイヴさんはこの話を聞き、「ビーチに寄って行きませんか?」と提案。メイヴィスさんの病状の詳細は明かされていないが、自由に出掛けられるような体調ではなかったため、彼女はデイヴさんの提案に喜んだ。

話に出たクロベリー・ビーチではないが、近場のフリンズ・ビーチ(Flynns Beach)に到着し、メイヴィスさんが乗ったストレッチャーを外へ出した。この日は空がきれいに晴れ渡っており、メイヴィスさんはストレッチャーから降りることはできなかったものの、青い空の下で気持ちの良い海風を満喫した。

レイさんは「メイヴィスさんは感激していましたよ。クジラの姿も見つけていましたね」と当時を振り返る。30分ほど時間を取り、デイヴさんとレイさんと並んでゆっくりと海を眺めたメイヴィスさんは、満足そうな笑顔で救急車の中へ戻った。「メイヴィスさんは私の手を握って、ずっと『ありがとう』と言っていました」と話すレイさんは、無事にメイヴィスさんを緩和ケア施設へ送り届けた。

ところがこの翌日、デイヴさんとレイさんはメイヴィスさんが亡くなったことを知った。「彼女は自分の命がもう長くないことは分かっていて、車内で『もう(死ぬ)心の準備はできている』と言っていました。でも、まさか翌日に亡くなるとは…。ショックでしたね」とレイさんはコメントし、デイヴさんは「誰かの最後の旅のために行動を起こすことができ、良い体験となりました」と述べた。

デイヴさんによると、これまでも今回のように特別な旅を可能な範囲で提供するように努めてきたという。数年前にも、脳腫瘍を患った女性の「最後にもう一度ビーチに行きたい」という願いを叶えたそうだ。

なお2019年2月には、「夫とビーチで夕焼けが見たい」と願う末期がんの女性のため、病院や救急隊の協力を得て、最期の願いが叶えられたケースが話題を呼んでいた。

画像は『NSW Ambulance 2023年7月2日付Facebook「ONE LAST LOOK: Wauchope paramedics Ray and Dave were transferring 85-year-old Mavis to a palliative care unit last week when she mentioned something special.」』『ABC News 2023年7月5日付「Wauchope paramedics take palliative care patient for final trip to the beach」(Supplied: NSW Ambulance)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)

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