医学雑誌「ランセット」が発行する『eClinicalMedicine』発表の最新研究結果を紹介します。

 

医学雑誌ランセット『eClinicalMedicine』

 

 

世界で最も評価が高い医学雑誌の一つ「ランセット」が発行する『eClinicalMedicine』発表の最新研究で、定期的くるみの摂取は、思春期の認知機能の発達と心理的成長にポジティブな影響を及ぼす可能性があることが明らかになりました。

1日ひとつかみのくるみ(30g)を含む食生活を送った中高生の、注意欠陥多動性障害(ADHD)を含む注意機能の改善や流動性知能関連の機能向上、神経心理学的機能の改善が報告されています。

くるみナッツの中で唯一、発育段階における脳の発達に重要な役割を果たし、体内で生成されず食品から摂る必要があるオメガ3脂肪酸(α-リノレン酸=ALA)を豊富に含んでいます。

近年、子どもだけではなく大人も診断されることから、認識が広まりつつある注意欠陥多動性障害(ADHD)。

日本国内のADHD有病率は、成人対象の調査で1.65%となっており、小児期では男児にやや多い2.5~5.1%と報告されています。

2022年に発表された「ADHD発生率の推移を調査したコホート研究(2010-2019年度)」では、2019年度のADHDの年間発生率は2010年度と比べ0~6歳の小児で2.7倍。

7~19歳では2.5倍となっており、20歳以上の成人では21.1倍と、顕著に増加していることが報告されています。

このようなADHD有病率増加の背景には、ADHDなどの発達障害に対する認識が向上したことや、診断基準(DSM-5)が定められたことなどの影響も考えられています。

思春期の脳は、論理的思考・行動などの認知機能を制御する上で重要な役割を果たしている前頭前野が成熟しておらず、特定の食品や栄養素、生活習慣が敏感に影響を受ける時期です。

脳の発達には大量のエネルギーと栄養素を必要とするため、必須栄養素が不足すると、最適な成熟が妨げられる可能性があります。

オメガ3系脂肪酸は、脳の発達と機能に重要な栄養素と考えられています。

今回発表された研究は、スペインバルセロナ市内の12の中学と高等学校に在籍する11~16歳の生徒700人の任意参加者を、対照群と実験群の2つのグループに無作為に分けて実施。

実験群は、ひとつかみ相当のくるみ(30g)1パックを6カ月間与えられ、毎日1パック摂取するよう指示されました。

その結果、最低100日間のくるみの継続摂取により、注意機能の向上が見られ、注意欠陥多動性障害(ADHD)を発症している者については、他動性や不注意が低減するなど、授業中の態度に改善が見られました。

*日本では一部、小学校に該当する年齢の参加者を含みます。

IISPVのニューロ・エピア研究グループの首席研究員兼コーディネーターのヨルディ・フルベス博士は

思春期は脳の活動、機能的接続性、複雑な動作を行う機能が大きく発達する時期であり、その発達は、正常な発達に必要とされるエネルギーと栄養素を不足なく摂取する食生活など、環境およびライフスタイル要因に少なからぬ影響を受けます。

くるみは、エネルギー源であり身体維持および発達に不可欠なオメガ3脂肪酸であるALAをはじめとする栄養豊富な食品です。

このため、くるみ思春期の健康の強い味方と言えます。」と述べています。

本研究は、ペレ・ビルジリ衛生研究所(IISPV)がバルセロナ世界保健研究所(ISGlobal)とデルマール・ホスピタル医学研究所(IMIM)との共同で行った研究結果であり、思春期におけるくるみの摂取の重要性を示した初めての研究となり、今後の展開が非常に期待されています。

さらに、くるみに含まれるような必須栄養素をバランス良く含んだ食生活は、思春期の認知機能や精神の発達に望ましい影響があることが示唆されています。

また本研究結果を補足する目的で、妊娠期におけるくるみの摂取の影響と、乳児の認知機能および心理的成熟の焦点にあてた、観察ベースの2回目の臨床試験も予定されています。

最終的には、生涯にわたって健康的な食習慣を続けることの重要性を確認することを目指しています。

 

朝田 隆先生 コメント

 

 

今回の最新研究結果について、長年、認知症の研究に携わっている朝田隆先生(メモリークリニックお茶の水院長、筑波大学名誉教授)は、以下のように評価しています。

昔から小学校のクラスに1人か2人はいる落ち着きのない子の多くが、近年、注意欠陥多動性障害(ADHD)だと知られるようになりました。

従来は子供の病気で大人になれば半分の人は治るとされていましたが、必ずしもそうでなく、最近では、職場での不適応等により大人になったADHDが注目されています。

この研究は、注意欠陥多動性障害(ADHD)者の注意や流動性知能などの認知機能に対してくるみが有効だと報告しています。

実は認知機能とくるみを始めとするナッツとの関係は、がんや心臓病と同様に以前から注目され、認知症予防の食事なら地中海食が定番であるとされていました。

その特徴の1つが抗酸化作用をもつオメガ3系脂肪酸くるみを食べることです。

ADHDは注意や段取りの司令部である前頭前野の障害とされています。

本研究のポイントは発達段階の思春期なら、くるみが脳の障害を改善するとした点です。

つまりくるみには成長によるADHDの改善を後押しする力があると考えられます。

 

朝田 隆先生 プロフィール

 

認知症の早期発見・早期治療に特化した「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長。

東京医科歯科大学客員教授。

筑波大学名誉教授。

認知症予防と治療の第一人者。

40年にわたり、1万人を超える認知症、および、その予備群である軽度認知障害の治療に従事するとともに、テレビや新聞、雑誌での啓発活動を続けている。

著書多数。

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